まじまじと、見上げる。
 極めてまじまじと見上げて。
 見上げられている方はとても居心地が悪そうだが、動じない。
 そうして見上げるだけ見上げてから、その大きな瞳もとっくに乾燥しただろうってころになってから、一気に、ぶわ、っと涙があふれ出た。

「えっ、あ、あの…」
「うわああああああん、イレーヌー!!! 会いたかったよぉーーー!!!!」

 おいおいと顔をおおって泣き始めた紫色の髪の少女に、イレーヌは途方に暮れた。
 心臓がじくじくと痛い。息が出来ないくらいに。酸素が足りない。
 目の前には初めて出会ったはずの少女。

 初めて会った少女が泣いている。

 それは戸惑って当然のことだし、困惑しても仕方ないことだし。
 ―――どうしてこんなに苦しくて仕方がないのか分からない。

 彼女の涙なんて見たくない。
 泣かしたくなんて、ないのに。
 ぎゅうぎゅうと締め付けてくる心臓を押さえて、イレーヌは少女に目線を合わせるために膝をつく。

「泣かないで、ルルゥ」

 するりと出た言葉に、誰よりも、イレーヌ自身が驚いた。

 ″ルルゥ″

 そう、それが少女の名前。
 決して知らない筈の名前なのに、呼んだ瞬間に確信に変わる。

 どうして知っているのだろう。
 イレーヌには分からない。
 誰かが言っていたのだろうか?

 ―――でも、この子は、ルルゥだ。

 涙をたくさんためた大きな目で、きょとんとイレーヌを見つめながらしゃくりあげる少女。

「泣かないで」

 もう一度言うと、大きく瞬きして、また眦から涙がこぼれた。
 ぐしぐしと涙を拭いて、少女は思い切りイレーヌに飛びついた。
 自分でも驚くぐらい自然に少女を受け止めて、その背を撫ぜる。

「イレーヌ、イレーヌ、イレーヌっっ」

 何度も、何度も少女は呼ぶ。
 震える叫び声がただただ悲しくて、切なくて、苦しかった。
 カイに会った時もそうだった。
 訳が分からないくらいに色んな感情が心の中から溢れてきて、全身の細胞がざわついていて、苦しくて、嬉しくて、嬉しくて、嬉しくて。

 ―――ああ。そうだ。

「私も、会いたかった。ルルゥ…っ!!!」

 抱きしめあってわんわん泣く二人の少女を、カイが優しい表情で見守っていた。
2015/04/01
むかーし書いたっぽいのがネタ帳に残っていたのでサルベージ。