ひどく乱暴に押し付けられて
少しだけ彩度の違う瞳が真っ直ぐで
本気なのだと悟った








『変わらない日々』








 唇が唇が触れあいそうなほど近くで、吐息と共に言葉を搾り出す。


「…抵抗…しないのか…?」
「…別に。無駄な事、嫌いなのよ」

 感情の1つも見せることなく、女は言い切った。
 激情の中で思わず拳を握り締める。 
 自分のすぐ下にある女の身体は、不思議なくらい小さく思えた。
 軽く身を起こし、絡まった足を抜きさる。

「……………」
「何よ。やめんの?」

 驚いたような顔の中に、小さな安堵。
 …何も言うことが出来なくて、俺はただ背中を向けた。
 男に組み敷かれることに、抵抗が無駄だと知るほど慣れてしまった女に。




 男の足音が遠ざかって行くのを聞きながら、床の上で女は小さく身じろぎする。
 仰向けに転がされて、手足を強く押さえつけられて…そうされてしまえば女の自分にはもう何も出来ない。
 それを知ってから、いつからか抵抗はやめた。
 ビバップに乗ってから忘れかけていた感覚。

 ―――男というもの。

 のんびりとした動作で、煙草を引っ張り出して火をつけようとして、失敗する。

     カチッ…カチッ…チッ

 何度やっても火はつかない。 
 しびれた右手首にくっきりと赤いあざがついている。

「…バカ力」

 舌打ちと共に火を諦めて、ただくわえる。

 ―――ありえないと思っていた。

 あの男は常に違う女を追っているし、ビバップで女扱いされたことなど一度たりともない。
 あの男も…その相棒も、自分を見ることはない……ハズだった。
 では、なぜこんなことになったのか…。
 分かるはずもなかったし分かりたくもなかった。

 そういえば、この船のほかの住民はどこに行ったのだろうか。
 口うるさい主婦みたいな大男と、女の子には見えないハッカーと、小生意気な犬。
 とりとめもなくそんなことを考えていたら、小さな騒々しさと共に本人達が現れた。

(噂をすれば……ってワケ…)

 大量な袋を持っているところから買い物にでも行っていたのだろう。 
 何をするでもなく、火のついていない煙草をくわえ、床に仰向けに転がっているフェイを見て怪訝な顔をする。

「お前…何してんだ?」
「別に。旦那は小さいのつれて買い物?」
「まあな。…ったく、あいつらのせいで倍時間がかかりやがった」

 この大男が、エドやアインに振り回される様を思い浮かべて笑みをもらす。
 奇妙なものでも見る目でジェットはフェイを見て、大きく息をつく。

「…たく。火はいるか?」
「…いただくわ」

 上半身を起こして、まだどこかしびれの残る両手を隠しながら火をまつ。
 別に隠す必要もないとは思うが、この心配性に知られると何を言われるか分かったもんじゃない。
 それだけのはずだ。
 小さな音と共にライターから火が移される。

 同時に立ち上がると

「ありがと」

 それだけ言って、そのまま背を向けて部屋に向かう。
 後ろでぎょっとした顔をしていたジェットは、フェイの背中を見送りながら、その手首にあるあざを認める。

「お前、その手…」

 小さく肩が震えた気がするのは気のせい。

「さっきぶつけたのよ」

 愛想の欠片もない言葉に、ジェットはなんとなく苦笑しつつ、遠ざかるその姿に首を傾げた。
 どうやったら、そこをぶつけてあざが出来るのかも分からなかったし、床に寝ていたわけも火をつけずに煙草をくわえていたわけも、さっぱり分からない。
 なによりも、礼を素直に言われたことが一番分からなかった。

「女心とガニメデの空……違うか?」
「ガ〜ニ〜メ〜デ〜〜〜〜ガニメデガニメデ〜〜〜〜〜〜〜!!」
「うおっ……。エド…お前…いつの間に…」
「エドは、ずっといたよ〜〜〜〜〜!! フェイフェーイ、ど〜したの〜〜〜〜〜?」
「オレが知るかよ」

 ジェットの後ろに張り付いて、奇妙な動きをするエドを引き離し、今日もここの居候たちのために飯を作る。



 ビバップの変わらない一日が今日も過ぎようとしていた。
2007年11月3日

無理、書けない…。
やっぱカウビは大好きすぎる。大好きすぎて文章が浮かばない。
素敵スパフェイサイト様は神だよ。

空空汐