『名前』
寝っ転がっている男の背中をぼんやりと見る。
寝ているのかどうなのか。
「ムゲン」
「んだよ」
「ん〜呼んでみただけ」
やっぱり起きてた。
「ああっ!?用がないなら呼んでんじゃねぇ!」
ムゲンの怒鳴り声が響いた幾らか後、同じようにしてまたフウはムゲンを呼んだ。
「ねぇ。ムゲン」
「…んだよ」
ごろりと男の身体がこっちを向く。
獣の様に光を放つ不機嫌な顔に、物怖じすることなくフウは言い放つ。
「ムゲンってさ。私の名前、呼んだこと…ないよね」
「はぁ?そうかぁ?」
「そうだよ!絶対そう!」
こんな可愛い子と旅をしといて、なんなのよ一体!と、唐突に立ち上がって拳を丸め、口を尖らせるフウに、ムゲンは心底呆れたように眉を上げる。
「呼ぶ必要もねぇだろ」
「なっ!なんでよ!呼んでよ!!」
「別に、"てめぇ"とかでも通じんじゃねぇか」
「それは、そうだけど。…でもやだ!ねぇ、ちゃんと呼んでよ!」
「はぁ?面倒くせえな…」
「そこを1つ!」
ぱちん!と、可愛らしい音を立てて手のひらを打ち合わせたフウに、ムゲンはにやりと唇を歪める。
「んじゃ何かくれよ」
「はぁっっ!?」
「お前だけ得するなんざ可笑しいっての」
「なっっ!なによそれ!!」
何で名前を呼んで貰うためだけに、そこまでしないといけないのだ。
むぅ、と口を尖らせたフウに、ムゲンは更に唇を持ち上げる。
「ねぇなら、ぜってぇ呼ばねぇ」
まるで子供のようにごろりと転がって、男はこっち側を向いたと同じようにして反対側を向いた。
それ以上は聞かん、という風に。
目に、拳に、力を込めて、その後ろ姿を睨みつける。
当たり前だがムゲンは動じない。
ゆっくりと、時が流れる。
ムゲンがうつらうつらとして、フウはいつの間にかきちんと正座していた。
「ムゲン」
「…ああ?」
さっきと、更にその前の時と同じようにコチラ側を向いたムゲンの顔を、しっかりと両手で挟んだ。
ムゲンが現状を理解する前に、ついばむようにして、その薄い唇を奪った。
荒れた唇に、柔らかな温もりと、まだ色香を感じさせない若々しい女の香りが残る。
「…………………フウ?」
珍しくも理解が追いつかなくて、ゆっくりと今起きた事を理解した後、思わず少女の名前を口にした。
途端に、神妙にしていたフウの顔が、眩しいほどに鮮やかな笑みを咲かす。
「呼んだ!!!!!」
「あぁ!?」
フウの歓喜の声に、ようやくムゲンは少女の目的を理解した。
「てめっ!ずっりぃ!!!」
「えー何よー。ちゃーんとあげたでしょ?」
「はぁ?何がだよ!」
「私のファーストキスー」
「ばっ!!!…かじゃねぇの!?あんなもんで済まそうと思ってんじゃねぇよ!なんか寄越しやがれ!」
「えー!!何よ!!こんなに可愛い子からあんな良いもん貰っといてまだ何を貰う気よ!!!」
「誰が可愛いだ!オレァ子供にゃ興味ねぇんだよ!!!!」
「あーーー何よーーーー!!!ひっどーいっっ!!!!」
「大体!俺はな、巨乳にしか興味ないんだよ!!!」
「この変態!!!」
「ああ!?正常だせいじょー!眼鏡の野郎だって所詮乳のでかい女が好きだぜ!?」
「ううう…ジンまで…。…で、でもまだこれからだもん!今から大きくなるんだからね!」
「あー無理無理」
「無理じゃないもん!」
「へいへい」
聞き流しモードに入ったムゲンに、むぅ、と唇を尖らせた。
「絶対大きくなるんだから。後から後悔しても知らないからね!」
ムゲンの耳を引っ張って、叫んでから、少女は肩を怒らせて外へ出て行った。
間近での高音の大声に、きーん、とする耳を抑えて、ムゲンはそれを見送り、首を振った。
「またか」
フウと入れ代わりにジンがフウの消えた先を眺めながら入ってくる。
「まーな。っつか、お前も胸のでかい女のほうがいいよなー」
「一緒にするな」
「おーおーお。ムッツリはこれだからよー」
「お前は少しは恥をしのべ」
「知るかよ」
はき捨てて、ごろりとジンに背を向けて転がる。
それを呆れたように眺めて、ジンは読みかけの書物を取り出した。
ゆっくりと文字を追う。
それを、気配で感じながら、小さく、呟いた。
「後悔なら、もうしてんだよ」
お前に会った時点で、囚われた、まま。
「何か言ったか?」
「別に」
訝しげな視線を避けて、瞼を下ろす。
お前という存在に、俺は囚われている。
2005年8月3日
あーもう可愛いなーvvvv(何あんたuu)
うーん…何て言うか…。
なんかもう彼らが愛しすぎてやばいです。
…書きにくいけどさ。
ところでこれ書いてて思ったのですが…
ムッツリだと否定しないんだねっっ!!!!ジンさん!!!
いや書いたの私ですけどね(笑)