――――明日はちょっと遠出をして、紅葉狩りをしよう。
白比佐がうれしそうにそう言ったから、六姫も楽しみにしていたのだ。
もしかしたら初めてかもしれない2人っきりのデート。
一番かわいく見える着物を出して、大っ嫌いなお風呂にも入って。
でもまさかこんなことになるだなんて、考えても見なかった。
紅葉狩り
「ここ、どこ…?」
六姫は道の脇にしゃがみこんで、途方に暮れた。
頼りの白比佐ともはぐれてしまった。人の多さにくらくらする。気持ちが悪い。
目の前には今まで見たこともないくらいのたくさんの人間がいた。
5〜6人でグループを作っておしゃべりするもの、道端にしゃがみこんでいる六姫に心配そうな視線を向けるもの。
六姫は今、紅葉狩りの登山グループの真っ只中にいた。
白比佐は困っていた。
心底困っていた。
話し好きのおばちゃんのグループにつかまって、半強制的に山登りをさせられていたのだ。
紅葉が綺麗にみえる場所があるのだと、六姫と歩いた道のりは楽しかった。
白比佐の誤算があったとすれば、この日、人間たちも山に入って紅葉を楽しもうとやってきたことだろう。
うっかり人間の道に出てしまった2人はやってきた人間たちにもみくちゃにされた。
2人とも、着物姿だったから珍しかったのだろう、離れ離れになって、それぞれ話しかけられた。
気付くと、お互いの姿が見えなくなっていたのだ。
六姫がいないことに気付き、慌てた白比佐に対し、人間たちの反応はのんびりとしたものだった。
「いいよいいよ、きっと皆頂上に向かってるんだから、頂上で会えるさ」
「そうそう、頂上まで一緒にいこう」
「妹思いのお兄ちゃんだねぇ」
「着物なんて珍しいねぇ。この辺りに住んでるの?」
人間たちの質問にうわのそらで答えながら、白比佐は六姫の着物の柄がちらとでも見えはしないかと目を凝らしていた。
蛇の嗅覚をもってしても、この人ごみのなかではあまり意味がなかった。
人が追いかけてこられない森の中に逃げ込んでしまいたいが、そんなことをしたら騒ぎになる。
妖の存在を人間に知られることはご法度だ。ついこの間も、二朱と一郎太が一妃に大目玉をくらったばかりである。姿を変えて逃げることもできない。
「くそっ・・・」
六姫は自分とはぐれて心細い思いをしているだろう。
もしかしたら、自分と同じように人間に囲まれて困っているかもしれない。
つい、誰とも知れない男が六姫に話しかけている光景を想像してしまった。
…なんだかイライラしてくる。
眉間にしわがよっているのが自分でも分かる。
「六姫!六姫!」
やけっぱちになって叫ぶと、人ごみのむこうからかすかな応えが返ってきた。
「六姫!六姫!」
白比佐の声だ!
伏せていた顔をぱっと上げると、おさまっていた吐き気がまた襲ってきた。
それでも、出来る限りの声で叫ぶ。
「白比佐!」
しばらくして、人ごみの間から白比佐が見えた。
思わず駆け寄る。
勢いあまって抱きつくと、安心できる冷たさが六姫を包んだ。
「今日はひどい目にあったね」
「もうこりごりだよ…」
2人、もうはぐれないように手を繋いで帰る。
「あのね、私白比佐と出かけられるだけでうれしいんだから、これからは人間のいないところに行こうねっ!」
人間はやっぱり嫌いだと、言って白比佐を見上げた六姫が見たのは、
真っ赤になってうれしそうに微笑う白比佐だった。
2005年11月3日
あ、あれ…?なんか予定と違う…(笑)
なんかもうちょっと手を繋いで「紅葉綺麗だね〜」みたいな予定だったのに、
いつの間にか迷子ものに…(汗)
しかも白比佐、壊れてるww
読んでくださり、ありがとうございました。
浅羽翠