ジャニの手首をにぎる。
とくん、と鼓動を感じた気がした。
−−−精霊に心臓はないはずなのに。




 ジャニの謎




ハールーンが彼女のことを疑問に思いはじめたのはつい最近。野宿をしたとある夜のことだった。


夜、ハールーンはふと目を覚ました。
野宿にはずいぶんと慣れてきたが、それでもふと目を覚ますことはある。
しばらくすれば自然と眠気が襲ってくるのでハールーンは起き上がることなく目の前に広がる満天の星空を眺めていた。
砂漠の夜は静かで深い。
辺りにある音といえば、自分の呼吸の音と傍らで眠るジャニの寝息のみ。

……寝息?

違和感を感じてハールーンは身を起こした。
見た目は完璧に人間なのでたまに忘れそうになるが、ジャニはれっきとしたジンである。
ジンは生物ではないのだから、息をするのはおかしくないか。いや、必要ないはずだ。
なのに、ジャニからは呼吸の音が聞こえる。
ためしに眠るジャニの口元に顔を近付けてみれば、風を感じた。



ぐっすり眠ったその姿を見れば、意識的にやっている訳ではないことは一目瞭然。
考えてみれば不思議なことはいくつもある。

ジャニは食事をする。
初めに彼女にパンを勧めたのは間違いなく自分だが、彼女は当たり前のように口にした。
ジンは精霊なのだから、人間の食事は必要ない。少なくとも、物語のなかでジンが飲み食いする場面など出てこない。

そして、ジャニは大地に横たわって眠る。…ちょっと浮いてはいるが。
ジンならばどんな格好で眠ってもいいはずだ。いや、そもそも眠る必要さえないはずである。
自分の真似をしているだけなのでは?という考えも浮かんだが、すぐに打ち消した。
そんなことをしても利点はない。



考えれば考えるほど、彼女は話に聞くジンとは掛け離れているように思える。
…これは世界の果てを探すことよりも面白い謎かもしれない。
2006年3月3日

ジャニは人間の時の癖で、ジンになっても呼吸をしていると思うのです。
そして癖で心臓も動かしている、と(笑)
この疑問をきっかけにしてハールーンがジャニに興味を持ち始めたりしたらいいなww

浅羽翠