彼はすこぶる寝起きが悪い。

 自他共に認めるほどの悪さのため、起きたばかりの彼には誰一人声をかけようとはしない。

 かけても、話した内容を本人が覚えていない上に支離滅裂な答えを返されることが多かったためだ。

 なので彼は、いつも一人で朝の支度をする。





 朝じたく





 寝起きのぼーっとした頭で顔を洗う。
 頭は動いていないに等しいので、これはほとんど長年気付きあげた習慣によるものだ。

 そして、前日に用意しておいた衣服を身につける。
 衣服を用意しないで寝た日の朝は、すさまじい服の組み合わせで迎えに来た彼の親友を苦笑させたものだ。
 部屋を出る前に彼に指摘されて本当に良かったと思う。

 それから彼は、必ず寝る前に服を用意することにしている。





 タイを結び、剣帯を締めるころにはなんとか思考能力が戻ってきていて、今日の予定なんかを思い出してみたりする。
 ここで、持ち物を確認。
 ハンカチ、よし。
 財布、よし。

「そうそう、忘れちゃいけない」

 ひとりごちて、リヒャルトは机の上に置いてあった紙袋を手にとった。
 中身は、昨日街で買い求めた胡桃とチョコレートの焼き菓子。
 とある人物専用の精神安定剤のようなもので、彼女の癇癪を静めることにかけては偉大な効力を発揮する品物だ。
 彼女と接するときには欠かさないようにしている。その所為か、自分ではあまり食べないのにリヒャルトはこの街のお菓子屋の常連となりつつあったりする。

 …そう、今日から彼女がまたこのグリンヒルデにやってくる。

 自分が用意したお菓子を口にしたときの彼女の幸せそうな表情を思い出しながら、リヒャルトは自室を後にした。
2008年2月3日

寝起きが悪いリヒャルトが寝ぼけながらも、ミレーユ用のお菓子だけは必ず準備している。…というのを想像してみましたww
自衛の為なのかただ食べさせたいだけなのかそれとも餌付けしようとしているのか…(笑)
気になりますww

浅羽翠