『愛し、続ける』
―――私も男だったら、もっと貴方の役に立てたでしょうか?
―――私にも錬金術が使えたら、貴方と共にいれるでしょうか?
私が貴方に出来る事なんてないのに。
私は貴方を待っていてもいいですか?
貴方を愛してもいいですか?
「……どうしてそんなに優しいのよ」
アルの身体を磨きながら呟く。
傷だらけの身体、鋼の身体。
それを誰にも馬鹿にする権利なんかない。
何か言っていい権利があると言うのなら、それは命がけでアルを錬成したエドだけだ。
小さな、蚊の泣くような声をアルは聞きとめて、え?と返した。
生身の肉体はないというのに、その言葉に宿る感情は何とも豊かだ。
アルはここに居て、けれどもここには居ない。
布ではなくて、自分の額を鎧の胸にぶつける。
ほんの少しの衝撃。
驚いたアルがウィンリィの肩を支える。
「ど、どうしたのっ!?」
困惑した声。
暖かい、優しさの混じる声変わり前の少年の声だ。
それがこんなににも愛しくて、己の胸を締め付ける。
「あたし…なんの役にもたってない」
「え?」
「あたしはもっとあんた達の役に立ちたいのに…!」
肩を震わせる少女は、冷たい鋼の胸の上で、唇を噛み締める。
「う、ウィンリィ?」
焦りを含むアルの声に、少女は答えない。
うーん。と、アルは首を傾げて言葉を探す。
「ウィンリィはとても助けになってるよ?兄さんの機械鎧はウィンリィにしか出来ない」
「でも!アルにあたしは何も出来ないじゃない…!」
「そんなことないっ!」
思わずといった風にアルは言葉を荒げた。
その大音声にウィンリィが驚いて、アルを見上げる。
アルは興奮してしまった事を恥じるように、視線を逸らして言った。
「ウィンリィが居てくれるから、それだけで僕達は…僕はいつもより頑張る事が出来るんだ」
ぽかん、としてアルの言葉を聞いていたウィンリィは、次第に顔を赤く染めて、アルを見つめる。
「そ、それ本当…?」
「え、あ、うん」
結構すごい事を言った自覚はあるのか、挙動不振に頷いた。
アルが鎧でなければ、その顔はウィンリィよりも赤かっただろう。
2人して相手の顔をまともに見れなくて、どこか気恥ずかしい沈黙が落ちる。
その沈黙を破ったのはアルの方だった。
「うん。まぁ、だからさ。ウィンリィはそんな事気にする必要ないよ。兄さんだってそう思ってる」
「…いーやエドの奴は違うわ!毎回毎回綺麗に壊して!あいつ人の芸術作品を何だとおもっているのかしら!」
直す身にもなりなさいよ。と、文句を続けるウィンリィに笑って、アルは立ち上がる。
「アル?」
「そろそろ行かないと兄さんとの待ち合わせに遅れるよ。ウィンリィ」
「えーもうそんな時間!?」
「うん。ほら」
と、アルの指し示した時計は、既に12時を切って、エドとの12時半の約束にここからでは間に合うかどうか微妙なところだ。
「だから行こう。ウィンリィ」
その、言葉が、とてもとても柔らかくて、貴方の呼ぶ、聞きなれた自分の名前が特別に思える。
そんな些細な事が嬉しくて、いつも思うのだ。
やっぱり、私はこの人が好きなのだと。
そう、例え彼がここに居なくても。
「…もう…!恨むわよエド!」
折角の2人きりの時間を邪魔したのだから、会ったらスパナでも投げてやろう。
「ウィンリィ?」
だけど、進んだ先にアルが居るのはあんたのおかげ。
スパナの後でちゃんと修理してやろう。
今度壊した時は少しは手加減して殴ってやろう。
私が居る事でアルが進むことが出来るのなら。
私は貴方を待っていられる。
私は貴方を愛せる。
2005年6月3日
好きでした。アルとウィンリィ。
鋼はみんな可愛くて大好きです。
原作の世界で、みんなずっと幸せに暮らしてほしいです。
空空汐