自分がここに居て
 彼女がそこに居る。

 それを不変と信じていた頃があった。



 そんなことはあるはずないのに。だ。







『隣、居場所 〜クロノ〜』







「あんたと2人ってのも久しぶりねー」

 そう言って、苦笑する彼女の横で自分も笑う。
 彼女のそれとは少し違う種類の笑い方だけど。

 きっと彼女は気付かない。
 昔はいつだって彼女の隣を歩いていた。
 けれど、いつからかたくさんの人が彼女の周りにはいた。

 僕はメンバーのリーダー格なのかもしれないけど。
 結局のところ、中心は彼女だと思っている。
 メンバーの誰もが彼女の隣を拒まない。
 彼女が付き合えと言ったら付き合う。
 彼女が言うことは皆信じる。
 彼女の言葉なら素直に聞く。

 メンバーの事を正確に把握しているのも彼女だ。
 僕が意見を出して、それに対する意見を彼女がまとめる。
 そうしてすることは決まる。

 けれど、彼女は気付いていない。
 誰もが彼女といるのを好ましいと思っていることに。

 昔は僕だけの居場所だった。
 暖かくて、優しくて、穏やかな空間。
 たくさんの人に取って代わられてしまった空間。

 子供じみた嫉妬がある。
 そんなにも慕われるルッカという人間に。
 それから、自分の居場所を奪ったたくさんのメンバーに。

 勿論自分だって皆とは仲がいい。
 マールとは軽口を叩いたりするけど、楽しい女友達だし。
 エイラとは結構よく分からないコミュニケーションをしている。
 カエルとは剣を鍛えあう存在で仲もいい。
 魔王は性格悪いけど、案外面白いところもある。
 ロボは一緒にいると落ち着く。
 けれど、隣で一緒にいればいるほど、自分の居場所はここではないと感じる。

 きっと、彼女の横にしか自分は生きれない。
 彼女がいる世界でないと自分は消えてしまう。
 好きも嫌いも、彼女に関することだけは、あふれ出すくらいに持っている。

 気付いてしまった感情。
 彼女の隣は僕の居場所だと。
 仲間にすら嫉妬してしまうのだ。

 けれど。
 彼女は僕といるより、仲間とともにいるほうが多い。
 のんびりと歩く彼女の歩調に合わせて、自分の歩調をさらに緩める。

「それで、どこに行くの?」

 今更の問い。
 どうしても隣に居たくて、ようやく空いた彼女の隣を取りに来た。
 仲間は皆それぞれの場所に行ったから。
 僕は僕の場所に行く。

 勿論彼女はそんな僕の理由なんて知るわけもないから、とても不思議そう。
 少しだけ彼女は眉を寄せる。

「…あんた…だから何しに着いてきたのよ…」
「いいだろ別に」

 隣を歩きたかっただけ。
 なんて言ったら、彼女はどんな顔をするのだろうと思う。
 そうすると自然に笑えてしまって、誤魔化すように肩をすくめた。
 彼女の顔はさらに不思議そうなものになって、ため息をついた。
 きっと、あきらめたのだと思う。

 ごく自然にシルバードに乗り込んだ、彼女の次に自分もその横に座る。
 隣同士の席は案外近い。

 彼女の隣。
 ―――うれしい。

 だって、彼女と2人でシルバードに乗ったことなんてない。
 彼女は自分以外とはよく2人で乗るのに、故意なのかどうなのか、自分とは乗らない。
 たとえば、僕と魔王が居たとして、ルッカが急にシルバードに乗り込む。
 それから、ちょっと行って来る―――と、魔王を呼ぶ。
 僕も、と言えば、あんたはここで待ってなさいと言われる。
 確かに、他のメンバーが戻ってこないのに、一人もそこに残っていなければ駄目だろうと思う。
 けれど、どうしていつもいつも僕が残されるのだろうか?

 不満。
 全くもって不満。

 少しだけ睨み付けるようにしてルッカを見ると、彼女にしては非常に珍しくぼーっとしている。
 少し首を傾げた。
 彼女が考え込むことはよくあるが、もっと真剣に、睨み付けるようにして考え込む。
 ぼーっとしているなんてあまりない。

「ルッカ?」
「…何でもないわ」

 答えはとても簡潔。
 いつもの通りにも見えるけど…どこか違うと思う。
 どうしたのだろうか?

 滑らかな動きで彼女は操縦桿を動かす。
 緩やかに、けれどとても早くシルバードが動き始めた。
 どこに向かうのかは知らないけど。
 2005年4月9日
クロノverです。
ルッカ命なクロノ?(笑)
微妙にへたれ? 強いクロノも好きだけど、弱いクロノも好き。
ルッカは常に強し(笑)
クロノ一人称は書きにくいuu