『白馬の王子様』
〜マグナ〜
少女は見つけました。
とっても古めかしい、けれども綺麗な綺麗な装飾をした、薄っぺらな本を。
それは、昔々の小さな童話。
普段は『田舎者の貴女へ』『甘いもの好きには堪らない!甘い物全集!』などといった大分物語性に欠けた本を好んで読んでいる少女ですが、その綺麗な装飾に惹かれてふらふらと手に取りました。
物語は、白馬の王子様と綺麗なお姫様が前に現れて、お姫様の苦境を救うお話。
読み終えて、少女は小さな吐息を漏らします。
そのこげ茶色の甘い甘いチョコレート色の瞳を輝かせて、薄っぺらな本を両腕に抱きかかえます。
「白馬の王子様…!」
夢見る子供のように。恋に恋する乙女のように。
きらきらと瞳を輝かせました。
夢見る少女ならきっと抱くでしょう。自分を迎えに来る白馬の王子様の夢を。
少女の王子様はいつ現れるのでしょうか。
「白馬の王子様?」
「うん!凄いのっ。マグナも読む!?」
そう言って突きつけられた薄っぺらな本を、苦笑しながら首を振って断った。散々ルウが内容を聞かせてくれたのだから、今更読まなくてもいいだろう。
そのマグナの態度をどう受け取ったのか、本をまた胸にかき抱いて、残念と言いながらも瞳はきらきらと輝いている。頭の中ではルウの白馬の王子様とやらが輝かしく登場しているのだろう。そんな空想の王子様相手にむっとして、マグナは言う。
「…あのさ。ほら、ルウの白馬の王子様は案外近くにいるとか思わない?」
「…えっ?だれだれ?どこ!?」
勢い込んで聞かれて、うっ、とマグナは言葉を詰まらせる。やっぱ自分は白馬の王子様には程遠いのだろうか。それとも全く全然ルウに意識されていないのか。そもそも男として認識されているのかどうか…。
「え…っと、ほら…メンバーの中とか…」
なんで俺がなるよとか言えないんだ…。
こっそり落ち込みながら、マグナは言い募る。
「も、もしかしたら白馬の王子様がルウを待っているかも…」
そう言ったところで、ルウはぱぁ、と瞳を輝かせた。マグナの言葉に乗せた情熱が通じたのか?と期待を込めて乗り出す。
「そうだっ。イオスってすぅっごく似合いそうだよね?白馬の王子様っ!!!!」
「………ソウデスネ」
つたわっちゃいねぇ。
はぁ、と大きなため息をついたマグナの顔をルウが覗き込む。いきなり目の前で落ち込まれては気になって当たり前だ。ましてマグナはルウにとって外の世界を教えてくれた大事な大事な人間なのだから。
「マグナ?…大丈夫?」
「………うん」
覗き込んできたルウの顔は物凄い至近距離で、どうして意識しないでこんなに近づけるんだろうとか思いながら、首を動かして逃げた。吐息までも届くようなその距離では理性の方が飛んでしまいそうだ。
「………俺もね、誰かの白馬の王子様になりたいな」
誰かの、っていうより君限定の王子様でいたい。そんな柄ではないのは自分がよく知っているのだけど。
「…マグナが白馬の王子様?」
「うん。可愛い可愛いお姫様をね、迎えに行くんだ」
可愛い可愛い褐色の肌を持つ君を。にっこりと微笑んだマグナに、ルウは首を傾げて真剣な顔で考える。目の前のマグナの、ちょっとぼんやりとした眠そうな顔。王子様の衣装に包んで、白馬の上に乗せて、きらきらしい笑顔を浮かべさせて。
「…ちょっと、似合わないかも」
「う…そ、そう?」
「うん」
きっぱりと断言されて、しゅんと落ち込んだ。確かに柄ではないけど、やっぱり好きな人に真顔で言われると結構凹む
「…ルウはね。そのままのキミが好きだな」
全然飾ってなくて、いつも真っ直ぐで、すごくすごく前向きで明るくて、いつも励まされる。元気になれる。容姿端麗で、凄く勇ましくて、お姫様の苦境を救って助けちゃう白馬の王子様は確かにかっこよくて素敵だけど。
マグナは今のままで充分かっこいいから。
にっこりと笑ったルウに、マグナは顔を両手で覆って撃沈した。
(…不意打ちは反則です…)
少女の白馬の王子様はどうしようもなく情けなくて、けれどもとってもかっこよくて優しい人だったのでした。
2006年6月3日
なんとなくいきなりネタが沸いたので書いてみました…uu
バルレルバージョンに比べてマグナバージョンは長い…っ。
マグナは私の中でどうしてもヘタレっぽい感じですuu
でも好き(笑)