『一緒に行こう』







「ルウ!!」
「きゃっ! う、うあ、マグナ??」

 突然後ろから己の名を呼ばれ、褐色の肌の少女は、文字通り飛び上がった。恐る恐る振り返った先の青年を見て、ほっと肩を落とす。ふわ、と緩んだ少女の雰囲気と表情に、マグナは僅かに顔を赤くしながら少女の隣に並んだ。

「そんなに慌てて一体どうしたの? ルウに用事?」
「用事…っていうか」

 なんて言おうか惑いつつ、マグナは頬をかいた。マグナにとって、少女に追いついた時点で、彼の目的はほとんど終わってしまったようなものだった。しかし、真剣な表情でマグナを見上げるルウは、そんな答えでは納得してくれないだろう。

「えっと、ルウが一人で出掛けた、って、聞いたからさ」

 だから何なんだ、と思うようなことを、思わず早口で口走ってしまって、マグナは内心頭を抱える。どうも、幼い頃から人付き合いというものが極端に限られていたせいか、それともただの性格なのか、最善の一言というものがマグナには分からない。
 もっとも、目の前の少女はマグナ以上の人付き合い初心者で、突拍子もないことをしでかすのだが。
 きょとん、とマグナを見上げていた少女は、彼の言った言葉を反芻した後、急に慌てたように両手を上げて。

「……るっ、ルウは買い物くらい一人でもちゃんと出来るわよ! たっ、確かに前は、その、道が分からなくなったりしたこともあったけど…! 今は全然大丈夫だもの!」
「え? ち、ちが。ルウ、落ち着いて!」
「何? まだ言い足りないことがあるの?」
「そうじゃなくて、ルウと一緒にいたかったんだよ!」

 いやまぁ確かに世間知らずで騙されやすくて無防備で、とんでもなく危なっかしい少女のことが心配すぎるっていうこともあるはあるがそれはそれとして。
 一人で出掛けたって聞いて、真っ先に覚えたのは色々な危惧であったのも確かなのだけど。
 一番はただ単純に二人になれるチャンスを逃したくなかったっていう、とっても身勝手で、ずるい話。

「だから、一緒に行こうよ」

 驚いた顔のままで、かちりと固まってしまってしまった少女の手を引いて、マグナは笑う。

「え、え、ええええ??? あの、ま、マグナ?」
「うん。嫌だった?」
「い、嫌じゃないよ!? 嫌じゃないけど、その…」
「あのさ」

 慌てふためく少女の、決して否定的ではない態度にこみ上げる喜びを隠そうともせずに、マグナは笑顔で告げる。きっと彼女にとって決定的になるであろう言葉を。

「ミニスに美味しいケーキのある喫茶店、教えてもらったんだ」
「ケーキ!?」
「そう。だからルウの用事が済んだら行こうよ」
「うん! ………あ! べ、別にその、ケーキぐらい全然食べたこともあるし、そんな珍しいとか思ってるわけじゃないし。だから、ただ、キミがどうしてもって言うなら、一緒に行ってもいいわよ」

 非常に分かりやすく餌に釣られてくれた少女に、「素直じゃないよなぁ」と、思いながらマグナはうなずいた。さっきまでは戸惑ってあたふたしていたのに、今はもうにこにこと全開の笑顔で、スキップでもしそうな勢いの少女に、マグナも笑う。自分でも気持ちが悪いくらいに満面の笑顔なんだろう。嬉しいものは嬉しいし、笑ってしまうのだから仕方がない。
 有益な情報を提供してくれたミニスに感謝をしながら、マグナはもう一度、自分よりも小さな褐色の手のひらを握り締めた。
2012年4月17日

なんってか、まさかサモ2ものをまだアップする日があろうとは(笑)
なぜか急に書きたくなって書いてみました。マグルウは可愛いよ。
ルウはもうちょっと話に絡んでも良かったと思うんだ!
昔すっごい好きなマグルウサイトあって、ジャンル変更でなくなっちゃったけど最近見たくて仕方がないです(汗)
ジャンル換えとか閉鎖とか別に構わないけど作品は残していって欲しいなぁ・・・。