『宴もたけなわ』





 “くりすます"ってなーんだ。

 ずっとずっと浮かれている今日の街。
 いつの間にか置かれた月桂樹。
 月桂樹に引っ掛けられた沢山の飾り物。
 赤青黄色。キラキラ光る小さなライト。
 あかーい尖がり帽子。赤と白の服着た真っ白おひげのおじいさん…の姿をしたフォルテ。
 きらきらきらきら。大きな大きなプレゼント。

「メリークリスマス!ルウ!」
「め、めりぃくりすます!?」

 目を白黒させて言葉を繰り返す。
 どうやらそれは何かの呪文のよう。
 だって、みんながみんな繰り返してそう言うの。
 分からない。けど。

「メリークリスマス!」
「メリークリスマス!」

 もしかして。もしかしなくても。
 それはとっても常識的なことみたいで。

 き…聞けない。

 だって、ルウは田舎者じゃないし。
 ちゃんと色んなコト森で勉強してたし。
 でも、でもね。
 ………分からないものは分からないの。

「メリークリスマス!!」

 部屋中に満ちた、なんだかとっても甘い幸せな空気が疲れて逃げちゃった。
 ルウが知らないっていうの知られちゃうのも嫌。
 それに何だかみんな、それぞれ話が盛り上がってて聞きにくい雰囲気。
 いつもよりすっごく仲良さそうに見えたのは何でだろう。
 そういえば小さな子悪魔の姿を見なかった。どこに行ったのかな?

 でも本当に何だろう?
 くりすます?
 めりぃーくりすます?
 図書室に行ったら何かあるかな?




「クリスマス…クリスマス……」

 ぶつぶつ呟きながら本の背表紙を睨みつけるようにして、少女は目的の物を探す。
 階下の騒ぎに比べてひっそりとした図書館。
 ひんやりとした空気にぶるりと身体を震わせた。
 この家の主に借りたハイネックのセーターに黒のジーンズ。
 それはいつもの少女の格好に比べれば、かなり暖かい格好であるのだが、それでもまだ空気は冷たい。

「ううう。さーむーいー」

 指先を大きめのセーターの袖にいれて、自分の頬をそれで挟む。
 少しあったかくなったようなそうでないような…。

「おい」
「わわっっ!!!」

 聞きなれない太い声がして、驚きのあまり、少女は文字通り飛び上がった。
 びくびくとしながら声の方を見ると、燃えるような赤い髪があった。
 自分よりも高い身長。鋭い眼孔は3つ。にゅ、と突き出した太い角に、一体全体寒くないのか露出した肌。

「ば、バルレル!?」
「よお」

 それだけ言って、バルレルは本棚に目を向ける。

「何探してんだよ」
「え!?く…くりすますの本!」
「くりすますぅ〜〜〜〜!?」

 げっ、と思いっきり顔をしかめて、物凄く嫌そうに頭をぐしゃぐしゃにする。

「んで、そんなもん探してんだよ!」

 苛々とした声に、びくり、としてルウは身を引いた。
 悪魔、の姿。本当、の姿。
 見るのはまだ2回目で、その狂嵐の魔公子たる姿はあの小さな子悪魔とは思えない。
 ルウの戸惑いに気付いたのか、バルレルがちらりとルウを見下ろして、はぁーーーーと長く息を吐く。

「クリスマスっつーのはな、てめーや俺様には全然全く関係のないイベントだ」
「そ、そうなの!?」

 大方クリスマスとは何か分からなくて、こんなところで1人本を探していたわけだろう。
 そう、検討をつけたバルレルの考えは大当たりのようで、ルウは驚きに大きく目を開く。

「"Christmas"つまりは"キリスト"の"礼拝"。キリストを祝う祭りだ。ついでに言うと"Merry Christmas"は"クリスマスおめでとう"とかいう意味だな」
「キリスト?イエス=キリスト?キリスト教の…人類の罪悪を償うためにおくられた御子?」
「…てめーは、それだけ知っといてクリスマスを知らないのかよ…」
「っっ!?し、知ってるよ!!」
「あーーー…分かった分かった。つまりはこれはキリスト教信者がイエス=キリストの生誕を祝うんだからな。俺様のような悪魔やてめーのような無宗教者にはなんのかんけーもねーよ」

 本当は、無宗教者であっても構わないのだが、それはそれ。
 もっとも今は恋人たちの勝負日になっているようだが、それはそれ。
 はー、と口を開けて、目をきらきらとさせて説明を聞いていたルウは、はっと我に返って。

「し、知ってたんだからね!」

 と、のたまいなさった。
 バルレルはその意地でも認めない、という姿勢に思わず噴き出す。

「へいへい」

 適当に返事をして、笑いながらルウの頭をくしゃくしゃにする。
 本来の姿であると、いつもは見上げる少女の姿を上から眺める事ができるのでひどく新鮮だ。

「バルレル!」

 少女の怒りの声に、くく、と笑って、次に軽く腕を引っ張って腕の中に収める。

「―――っっ!!!」

 何が起きたのか分かっていないのか、身を完全に硬直させたルウの額にキス一つ。
 小さい身体では満足に抱きしめることも出来ないが、今の体格差はいつもとはまるで逆。
 ルウのほっそりとした身体はバルレルの身体の半分くらいしかないし、頭は胸辺りに届く程度。
 ちょっとやそっと暴れられようと全然構いやしない。
 長いしなやかな髪を指に巻きつけて、片方の腕では腰を掴む。
 ぐっ、と手に力を入れて抜け出そうとしたルウの抵抗は、全くもって無意味で。
 少女が文句を言おうと顔を上げた瞬間に、言葉は飲み込まれ、息も奪われた。

「っっ!?―――っ!?」

 悪魔の寵愛を受ける彼女にクリスマスなど必要ないだろう?
 くるりと指先に巻きつけた髪を解いて、本格的に少女と祝いましょう。
 悪魔と少女が出会えたコトを――ー。

 そんなクリスマスも―――有り、なのです。



「馬鹿悪魔!!」

 叫ぶ少女の首筋に、大きな虫刺され。

「うっせー。ガキの姿でやるよかいーじゃねーか」

 聞き流す悪魔の背中に、小さな引っ掻き傷。



 さぁ。宴もたけなわ。
 メリークリスマス!!
2005年12月24日

ええっと…一応ちゃんと想いは通じ合ってますよ?
どう見てもバルさんが一方的に襲っているように見えるけど…。
バルさん偽者だなぁーuu
ゲーム1回やったっきりずーっとやってないので…もうかなり記憶が怪しいuu
また誰か貸してくれないかなー。

学校の先生の「クリスマスは子作りをする為の日じゃないの!!!」にすっげうけました。
先生いわく、「今の若者はクリスマスが何なのか知らない!クリスマスは恋人たちの子作りの日だと思っている!」とのことでしたが…さすがにそれはないんじゃないかと…。
し、知ってるよね?皆様方。
知らなかったら覚えておきましょう。
クリスマスはイエス=キリストの生まれてきた事を祝うものです。
さすがにこれは知ってなきゃ恥ずかしい気がしますので…。

それはそうと絶望先生はクリスマスベイビーだったのねー(笑)

っつかここら辺の影響が思いっきりこの話に出ている気もしなくもない。