『夕日と海と嘘と』





 夕焼けに染まるケセドニアを尻目に、ジェイドは宿に戻るためにも足を速める。明日にはヴァンとの決戦が待っている。身体も程ほどに休めなければいけないだろう。ふと、海が見えて、それは夕日の光を受けて赤く輝いていたので、足を止めた。真っ赤な夕日が海を照らす様は、ひどく美しく、荘厳な光景で、ジェイドといえども目を奪われるに十分なものだった。

 その夕日に溶け込むようにして、己の仲間の一人を見つける。

「おや、ナタリア。こんなところで何を?」

 考えるよりも先に声をかけたはいいが、彼女の表情を見ると同時に唇に乗せた微笑を消した。
 夕日に照らされた横顔に伝う涙に目を細める。

「…これは失礼」

 彼女の少し後ろに身を引いて、夕日と海を眺める。いつもどおり他国の王女に対する態度ではないが、この旅が終わるまでは、彼女に対して仲間という立場を崩すつもりはない。もっとも、それが彼女が王女であることを知っている人間に反感を呼んでいるのであろうが、気にするつもりはない。

「…"失礼"と思ったのでしたら、立ち去ってはいかがでしょうか」
「これは失礼。ですが、目の前で泣いているのを放っておくのも気が引けましてね」

 肩を竦めて言った白々しいジェイドの言葉に、ナタリアは振り返ることなく小さく笑う。

「嘘ばかり…」
「本気ですよ」

 不意に、先程までとは全く違う距離から囁かれた低い言葉に、ナタリアは思わず振り返る。目の前にあった端正な男の顔に驚き、何を言うよりも早く抱き寄せられた事に更に驚いた。決して優しい抱擁ではない。けれど男の持つ意外にも温かな体温に安心すると同時、感情が波打つ。

「可愛い貴女に涙は似合いませんよ?」

 予想を遥かに超えた言葉に、ナタリアは目を瞬かせる。こういう気障な言葉はガイの専門だ。こみ上げてきた笑いを抑えることが出来ず、小さく声を漏らして笑う。

「…ガイの真似ですか? 似ていないですわね…」
「そうですか? それはおかしいですねぇ。結構自信があったのですが」
「似ていませんわ。ガイならこんなに近付ける筈もありませんし、触るなんてもってのほかですわ」
「それは、そうですねぇ。全く困った人です」

 全く困っていない様子でそう言われてしまって、ナタリアは苦笑した。

「おかげ様で、涙も止まりましたわ。ありがとうございます。大佐」
「いえいえ。礼には及びません」

 役得でしたしね。
 ナタリアには聞こえぬよう呟いて、彼女を解放する。

 旅が終われば、もう彼女とこうして接することもだろう。それを惜しいと思うほど女々しいわけではないが。

「帰りましょう。あまり遅いと身体に障ります」
「…ええ。そうですわね」

 頷いた少女が歩き始めるのを待って、彼女が完全に背を向けた後もジェイドの視線は夕日の照らす世界を捉えていた。
 彼女が見ていたケセドニアの海を。
2007年3月3日

じぇ………ジェイナタ?
気持ちだけはジェイナタです。抱擁はしてても超素っ気無いぜ。でもそんなジェイナタ希望(笑)
ジェイナタ好きです。決して報われることはないであろうカプだと思います。どんな理由があれば報われるのか分かりません。
結局ナタリア関係で報われるとしたら、アシュナタかルクナタしかないのじゃないかと。後ピオナタ?

テイルズシリーズが溜まりつつも同じカプは増えないのがなんだかなって感じです。
でも増やしたいのです。