『香り』
「ヒルダ」
呼ばれて、振り返る。同僚である、王の盾の人間の男だ。
同僚、と言っても、相手は四星という特別な地位にある実力者。本来なら話をすることもなかったのだろうが、人間とガジュマのハーフというヒルダの存在が面白いのか、ちょくちょくと話しかけられる。同じくハーフである四星のミリッツァと友人であることも理由なのかもしれない。それともトーマに育てられているということが理由か。なんにしろ理由なんて本人にしか分からないだろう。
分からないが、何故か、ヒルダはサレと付き合っている。
好きだの嫌いだのの関係はないに等しいが、ただ、付き合っている。
理由なんてヒルダ本人にも分からないが、そういうことになっている。もっともそれを知るものは本当にごく僅かなのだが。
男が目の前に差し出した小瓶に、ヒルダは眉を細めた。
「何よこれ」
「何って、香水に決まっているだろう? そんなことも知らないのかい? 全くあきれたね」
ふふんと鼻で笑う男を見上げ、ヒルダは小さく息をつく。今更この人間の人となりに文句を付ける気にはならない。初めて会った頃から相当捻くれた男で、ものすごいサディストだったが、その傾向は更に強まった気がする。首を振って、先を促す。
「…それで、何? どうするの?」
興味深げに手元を覗き込むヒルダに、サレは薄い唇を吊り上げた。
「手、出しなよ」
「手?」
サレは差し出された細い腕を取り、その手袋をはずす。普段晒される事のない病的なまでの白さに、軽い情欲を覚え、小さく笑った。その手首に、香水を吹きかける。冷たい感覚に、ヒルダは驚いて手を引いた。
「何!?」
確かに何かが降りかかったのに、手首には何の痕跡もない。僅かに濡れたような感じはあるが、よく分からない。いぶかしげに手首を見つめる。しばらく腕を上げ下げしていたが、それで、気づく。
「…何? この匂い」
「それが香水さ。分かったかい?」
「え、ええ…。香料の一種なのね…」
手首を鼻に近づけ、その匂いをかぐ。
そうして、その香りに覚えがあることに気づいた。
「…この香り…」
「気づいたかい?」
「…あんた、何考えてるのよ…」
頭を抱えて、大きなため息をついた。本当に、何を考えているのだこの男は。嫌に甘ったるい香りは、サレからするものと同じだ。
「恋人らしいじゃないか」
「…そうね。一応あんたは恋人だったわね…」
大きなため息をついたヒルダの、その白い腕を掴み、サレは甘ったるい香りの発生源に口付ける。
「ちょ…っっ」
何を、と言う前に、サレに口を口で塞がれた。それは初めての感触ではないが、むせ返るような甘い香りに息が詰まる。
香りに酔いそうだ。
それでも、ヒルダはサレを睨みつけ、その顎を思いっきり跳ね除けた。サレの唇に自分の口紅の色が移っていて、無性に腹が立つ。
「廊下の真ん中で何するのよ!」
「廊下の真ん中でそんな大声出していいのかい?」
まったく悪びれた様子なく、サレは笑い、ヒルダは大きくため息をついた。
サレが相手では文句も悪態もすべて意味をなくす。
そうやって嫌がる様を楽しむ相手であるから、そうやって相手を喜ばせるのも癪だ。
深く、深く、息を吐いて、サレに背を向けた。
「どこに行くのさ」
「あんたの部屋」
顔だけ振り向いて、宣言する。どうせこの男は相手をしないと部屋までついてくる。それくらいなら、初めからサレの部屋に行った方がずっとマシだ。部屋を荒らされないで済むし。
宣言するだけしてまた背を向けた女から、甘ったるい、サレと同じ香りが流れた。
サレはそれに笑って、静かに唇を舐めた。
2007年1月14日
私はどれだけ茨道が好きなんだろうか、とか思う。
うん。
なんでこのカプよ?って感じだけど、ヒルダの王の盾時代を考えていたらなんかこんな感じに…。
そうしてサレヒル?って思った瞬間に「いいかも…」とか思ってしまったuu
実はイベントの裏にはこんな感じで会話、とかいろいろ考えてしまった。
邪道なカプですみませんuu
でも妄想すると楽しいですよ(笑)
サレミリよりもサレアガが好きです。サレクレもいいと思います。でもサレアガがいいかな。サレヒル以外のカプでは。あ、ミルアガはちゃんと好きですよ。
あとはヴェイヒルとか、ユジヒルとか、マオヒルとか…ティトヒルは姉弟関係の方が好きっぽい。何故だ。
アニーカプは特に好きも嫌いもなく。
ってか、リバースは皆キャラ可愛くて、愛情分散化。よって特に嵌りキャラも嵌りカプもない感じなのですuu
背景の香水ですが、空空あまり香水に詳しくないので、作中イメージの香水、とまで器用なことは出来ませんでした。よって、どんな香りの香水なのかも知りませんuu
かわいさで選びましたuu