・湖の乙女と先代導師
予感はずっとありました。
彼はとても素直で、とても真っ直ぐな人でしたから。
たくさんの希望と、たくさんの身勝手な理想と、たくさんの野望に押しつぶされてしまうことくらい、簡単に予想がついていました。
それでもきっと大丈夫だと、頑張っていけるのだと思ってしまったのは、わたくしが信じたかっただけの話です。
「…本当に、ごめん」
優しい目元を本当にすまなそうに歪めて、苦渋に満ちた顔で彼は言う。
何年の月日を彼と共に過ごしたでしょうか。
わたくしはただただ首を振ります。そんな悲しい顔をさせたいわけではありません。
わたくしの…わたくしが選んだとても優しい導師様。
優しい貴方だからこそ、わたくしと別れることをこんなに寂しがってくれる。
それだけで、わたくしはとてもとても、幸せなのですから。
「いいえ、いいのです。■■■様。わたくしはまた、ここで新たな導師の誕生を待ち続けます。■■■様は■■■様の道があるのでしょう?」
「…また、君を一人にしてしまう」
「…そんな顔をなさらないでください。■■■様。一人は慣れっこですわ。それに、すぐ近くにゼンライ様もいらっしゃいます。わたくしにだって、時々訪ねてくる友人もちゃんといるんですよ」
悪戯に笑ってみせると、彼も少し笑います。
返された言葉は少し予想外で、言葉がつまりました。
「ザビーダとか?」
「あの方は―――友人とは言い難い気もいたしますが…」
「はは、ごめん。…そうだね、ライラは顔が広くていつも助けられたよ。ライラのおかげで、私は導師としての役目を終えられた」
その言葉だけで、主神で良かったと、わたくしは言い切れるのです。
「はい。わたくしも、主神としての役割、果たせましたわ」
「また、来るよ。安心して休んでいてほしい。次の導師が来る日まで。…って言っても、そうなるとまた穢れだらけになっちゃうな」
それは困る、と考え込む彼を、笑顔で送り出しましょう。
優しい貴方がこれ以上わたくしに未練など残さぬように。
「わたくしがゆっくりするためにも、精進してくださいね。導師様」
「はは。了解です。我が主神よ」
そっと、わたくしの拳を包み込んでくれた彼の手の平は、本当に大きくて、本当に優しくて。
「………」
「………………―――それじゃあ」
「はい。ありがとうございました■■■様」
ああ、とても幸せでした。
私はここで、ずっと貴方の幸せを願っています。
...モドル?