『エンドレス』





 唐突に、彼女は言った。

「ロディ。手」

 左手を腰に当てて、まるでダンスに誘う紳士のように、優雅な動きで、ほっそりとした手がロディの前に差し出される。その、意図が分からなくて、ロディはただ首を傾げた。彼女、ジェーンは、むっとしたように、もう一度繰り返す。

「手」
「手?」

 首を傾げたまま、ロディはジェーンの手の平に自分の手を重ねた。
 そうしてみると、思ったよりもジェーンの手の平は小さくて、ロディは驚いた。どうやらそれはジェーンにとっても同じようで、しげしげと2つの手の平を見つめている。

「へーーー。思ったより大きいのねぇ…身長はあんまり変わらないのに」
「…一応男だから」

 しきりに感心するジェーンに小さく、笑う。

「それで、何がしたかったの?」
「…ん?ロディ、爪伸びてるみたいに見えたから」

 だから何だ、と言われれば困ってしまうが、ただ、あれ?と思ったのだ。爪の長い渡り鳥なんていない。長い爪は戦闘の邪魔になるし、服に引っかかったりして動きの邪魔になる。

「爪?…本当だ」
「切らないの?」
「うーん…爪切り、持ってる?」
「持ってないの!?」
「失くしたんだ。もしかしたらザックやセシリアの所に紛れちゃったのかも」
「ふーん…。ね、切ってあげようか?」

 不意に悪戯っぽく輝いた瞳に、ロディは慌てて首を振る。

「い、いいよ!」
「いいじゃない。別に変なことなんてしないから!ねっ。お願い☆」

 いい思い付きをした、といわんばかりに身を乗り出してくるジェーンに気圧されて、つい、頷く。
 はっとした時には後の祭り。

「やったっ」

 きらきらと輝く瞳に、反抗することは出来なかった。…まぁ、別に反対する理由もないといえばないのだが。



 そう、判断した自分を、深く、深く、罵った。
 後悔の渦に巻き込まれながら、パチンと音が鳴るたびにロディは身を竦ませる。

「……ロディ。あんた、そんなにあたしが信用できないわけ?」
「ち、違うよっ!ただ…っっ」

 そう。ただ、互いの顔の距離が近くて、緊張するだけだ。
 ジェーンの密やかな息遣いとか。爪を切る時、慎重に身を屈めて息を詰めるところとか。真剣にロディの指を見詰める眼差しとか。
 すごい、可愛いとか、思う、だけ。

「………」

 思って、かぁ、と顔が熱くなった。なんか、物凄い恥ずかしい。

「ロディ?」
「な、なんでもないからっ」
「そう?」

 首を傾げて、訝しげにこちらを伺ってくるジェーンに慌てて首を振る。
 うん。違う。別に見惚れていたとか、そういうわけじゃないんだ。
 可愛いなぁ。とか、思うけど。
 不思議そうにしながらも、真剣に爪きりに戻るジェーンが、やっぱり可愛いなぁ、と思って。思った自分に赤くなって。

 その、エンドレス。
2006年9月3日

あああもう恥ずかしい子達だなぁもう…っっ。
始終そんな感じです(笑)
いつもはロディに翻弄されているジェーンだけど、うちのジェーンは結構ロディを翻弄しています。
お互い無意識に(笑)