...ロディジェ
エンドレスの後日談


「この前爪を切ったときにも思ったんだけど、ロディの手、案外大きいわよね」

 じぃ、ARMを掃除する手を見つめていたと思ったら、急にそんな事を言い出したジェーンに目を丸くした。

「そう?」

 首を傾げて自分の手を目の前に掲げる。
 いつもどおりの、見慣れた手のひら。

「ほら」

 急にジェーンが手を合わせてきたので、慌てて引いてしまった。
 反射的なそれに、ジェーンが眉をしかめる。

「何よっ。汚くなんてないわよっ」

 そうじゃなくて。
 心臓の音がやけに大きくなっていくのを聞きながら、ロディはなんて言えばいいのかひどく迷った。

...モドル?









 






...ヴァージニア→ギャロウズ


「何よ、落ち込んでいると思ったら、また女の子に振られたからだったの!?」

 なんだそんな事か、と言わんばかりの言い草に、ギャロウズはますます落ち込んでジョッキをあおった。
 楽しそうに笑いながら、ヴァージニアは更に言い募る。

「何よ何よ何よ! 女の人の1人や2人や3人! ぜんっぜん大丈夫! 大したことないじゃないの! 世界にはたっくさん女の人がいるんだから! ね!」
「おいおいリーダー。人が真面目に落ち込んでるのにそりゃひどいぜ」

 そんなには振られていないぞ、と主張する大男にヴァージニアも、チームの残りの2人も呆れてしまう。この気のいいバスカーの大男は毎回毎回見事に振られているからだ。過去を都合よく忘れ去った大男の言い草に、3人は見事に黙ってしまう。
 しばらくして、もっとも静寂が苦手な大男はジョッキを机に叩きつけるとともに言い放った。

「ああクソ! 俺が悪かったよ!」
「あ、はははっっ。ごめんごめんギャロウズ!」

 とりなす様にクライヴも苦笑し、空になったギャロウズのジョッキにビールを注いだ。ジェットは馬鹿馬鹿しいと息を吐き、目の前の食事に集中する。

 にこにこと笑いながら食事を再開したヴァージニアに、クライヴがひたすら自棄酒を続けるギャロウズを横目に話しかけた。

「上機嫌ですね。何か嬉しいことでも?」
「えっ!? ううん! なっ、何でもないよ」

 ひたすら嘘が下手なヴァージニアなので、あからさまに怪しかったが、彼女にとって幸いな事にクライヴは深く追求しようとはしなかった。
 変な引きつり笑いをしながら、ヴァージニアはちろりとジョッキを煽る大男を見上げる。

(…振られて嬉しいなんて、いけないよねっ)

 そう思いながらも、ヴァージニアはいたくご機嫌に食事を平らげたのだった。

...モドル?







 








...ロディジェ


 ムカっとした。
 もう、本当に、心から…とにかく腹が立った。

 胸の奥底からぐらぐらと沸き起こる灼熱のマグマ。どろどろとしたムカつきが、体中に無理な力を入れる。
 多分、これ以上なく変な顔になった。
 嫌な顔。
 醜くて、みっともない。

 だから、とっさに頭を下げた。
 誰からも見えないように、伺えないように、長い髪を利用する。

「ジェーン?」
「………」
「ジェーン?」
「………」
「ねぇ、ジェーン」
「………………………………っっ! 何よ!!」
「はい」

 口に、押し付けられる何か。
 半開きの唇に押し込まれて、唖然としてそれを口の中で転がす。

「…あまい」
「うん。ちょこれぃと、って言うんだって。カカオを加工したものみたいだよ」
「…あまいわ」
「うん。美味しいね」

 ほんわかした笑顔を見たら、急に気が抜けてしまう。
 口の中では甘い甘い食べ物がドロドロと溶けて、さっきまでの嫌な気分を消してしまう。
 凄く、怒っていたのに。
 凄く、腹が立っていたのに。
 凄く凄く嫌な自分だったのに。

「……………ありがと」
「? どういたしまして」

 苛立ちなんて無縁の笑顔に、ようやっとジェーンは笑った。

...モドル?