...ロディジェ 「ジェーン、ほら、起きて」 ロディは隣で眠ってしまった少女を揺り動かす。 彼自身も少しばかりうとうとしていたので、堪えきれずに欠伸が出た。 それでも使命感に突き動かされて、少女の肩を優しく揺する。 「…ん」 少女の覚醒はひどく緩やかなものだったが、きらきらと輝く黄金の髪が震え、長い睫に隠された瞳が姿を現した。 ぼう、と瞳はロディを映し出す。 そのあまりにも無防備で、ひどく可愛らしい姿に、ロディは息を呑んで、何を言うべきだったのか、一瞬で忘れた。 言葉というものを彼が思い出すよりも早く、ジェーンが我に返る。 瞬きを数度繰り返し、パチリ、と完全に開いた。 その瞳が捉えるのは、ロディではなく、その後ろの光景。 どこまでも、どこまでも続く地平線に神々しいまでの朝焼け。 荒れ果てた大地を、眩しい黄金が染め上げる。 「わぁ…」 感嘆の吐息が、空気中を白く染めた。 呼気はすぐに白く染まり、寒々しい大気は容赦なく旅人を襲う。 それでも、ロディとジェーンにはまるで気にならなかった。 焚き火がどうこうだとか、防寒対策もバッチリだとか、そんなことじゃない。 それ以上に、今、満たされていた。 あまりにも神々しく、あまりにも眩しく、あまりにも素晴らしい、朝焼けの光景。 ロディは朝日に照らされるジェーンの笑顔に跳ねる心臓を押さえながら、彼女と同じ方向を見やる。 涙が出るほどに、温かで、綺麗で、眩しい光景だった。 「ねぇ、ロディ」 「うん」 視線は、片時も朝日から離れない。 けれどもロディとジェーンの手は自然繋がり、ぎゅうっと握りあう。 「今年も、よろしくね」 「こちらこそ」 朝焼けの中で、少年と少女はそう笑いあい、ほんの少し、握り締めた手を基点に距離を詰めることに成功した。 |
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...ロディジェ 自然にロディの中から言葉がこぼれていた。 それは、なんとなく違う気もして、けれど、それ以外の言葉をロディは見つけられなかったし、言葉にしてみたら妙にしっくり当てはまった。 その事が嬉しくて、嬉しくてついにやけてしまう。 旅の仲間の二人と一匹が非常に不思議そうな顔をしていたが、気がつかなかった。 ロディは笑う。 とてもとても幸せそうに。 遠く、町並みが見えるl。 まだ小さい発展途上の建物たち。 こちらに気が付いたのか、小さな影がぽつぽつと出てきた。 その光景にザックもセシリアもハンペンもつい笑みを漏らす。 次第に大きくなる町並みに、ロディは鼓動が早くなるのを止められなかった。 どうしてこんなに嬉しいのか、どうしてこんな気持ちになるのか、ロディ自身にも分からない。 それでも鼓動はどんどん早くなり、焦りとも喜びともつかない気持ちで走り出す。 普段絶対にないロディの唐突過ぎる行動に、仲間たちはあっけに取られ、呆れた顔で見守った。 (―――もうすぐ) そう、もうすぐ。 遠く、子供達に手を引かれて走ってくる少女の姿が見えた。 遠めにも綺麗な鮮やかな黄金の髪。それはセシリアのそれよりも少しだけ濃い、暖かな太陽の色。 認めた瞬間、足に力が入った。 大地を蹴るのがもどかしくて、ただただ走る。 もう何も考えていなかった。 もう何も考えられなかった。 少女は一瞬立ちすくみ、呆然とロディを見つめる。 その視線が絡んだような気がした。 引き寄せられるように少女の足が前に出る。 まっすぐに、ロディは走る。 少女はロディを見つめる。眩しそうに、嬉しそうに、幸せそうに、切なそうに、寂しそうに、悲しそうに。 「ジェーンっ!!」 叫ぶのと同時、ロディはジェーンの身体を抱きすくめる。 潰れてしまいそうなその華奢な肩に、頭を埋めて、笑った。 この気持ちをなんて言うのか、なんて知った事じゃない。 「ちょ、ろ、ロディっ!?」 突然の抱擁に混乱する少女の耳元で、ロディは静かに告げた。 「ただいまジェーン。会いたかった」 久しぶりでも、こんにちはでもなくて。 ただいま、と、そうロディは笑った。 |
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