『宴の終わり』





 クリスマスにはサンタさんがやってくるんだって!

 サンタさん?それ、なぁに?

 サンタさんは良い子にしてたらみんなにプレゼントをくれるの!

 プレゼント!?本当に?

 本当だよ!

 わーい!

 楽しみだね!クリスマス!




「…サンタさんねぇ」

 すっかり寝静まった子供たちの顔を眺めながら、苦笑する。
 サンタさんの格好なんてしていないが、今の自分はまさにサンタクロース。
 子供たちの頭上の靴下の上にプレゼントを置いていく。
 先程までは小さなクリスマスパーティにわーわー騒いでいた子供たちだが、遊びつかれて今は夢の中。

「メリークリスマス」

 きっと彼らは、明日の朝こう叫ぶのだ。
 "サンタさんが来たんだ!!"―――と。
 
「大したものじゃないんだけどね」

 けれど大したものなのだ。
 金銭的な価値はあまりないが、それでもこの常に金銭不足の孤児院にはかなりの打撃を与える。
 もう一度メリークリスマス、と呟いて、子供たちに背を向けた。



 小さな橋の上に腰掛けて、ジェーンは空を見上げる。
 暗闇の中で月の光は優しく世界を照らす。
 サンタさん。サンタクロース。クリスマスの贈り物。
 幼い頃読んだ絵本の、わくわくするような気持ち。
 それは小さな頃だけの特権だ。大人になればなるほど忘れていく純粋な気持ち。

「クリスマス…ツリー…願い事…プレゼント…サンタクロース」

 自分には関係のないようで少しずつ関係する単語。
 空を見上げて、真っ黒な夜空に向かって言い放つ。

「…別に願い事なんてないわよ」

 なんに対してか、むっ、と眉を顰めつつ吐き捨てる。

「本当なんだから」

 別に。
 別に会いたいとかそんな…思ってなんか、ない…。

「ロディに会いたいなんて思ってないわよ!」

 首を振って、自分の思考を勢いよく否定する。

「え?」
「―――っっ!!!!!!」

 その、声に、何故か応えがあって。
 その声は今まさに思い浮かべていた人物の声で。
 そして、何故か、ジェーンの目の前にロディ=ラグナイトが立っていた。
 しかも、ちょうどジェーンの叫びを聞いてしまい、しょげている様子。

「ちょ、な、なんでロディ」
「ごめん。でも、僕は…ジェーンに会いたくなったんだ」

 すっかり先程の言葉を信じたロディは、しょんぼりとしながら続ける。

「そしたら、ザックとセシリアが行ってきたらいいよ、って言ってくれたから、会いに来たんだ。ジェーンに」
「あ、あたしに…!?」
「でも、ジェーンがそんなに嫌だったなら…僕、帰るよ」
「えっ!ちょ、ちょっと待ちなさいよ!!」

 くるりときびすを返し、走り出そうとしたロディを慌てて捕まえる。
 足の速いロディに走り出されては、追いつけない。

 大体。

「あ、あたしも会いたかったんだから!」
「え…でもさっき…」
「あれはなし!違うの!」 

 ぎゅ、と、腕を握り締めて、真っ赤になっているジェーンに、一瞬限りないほどの愛しさが湧き上がる。
 にっこりと笑って、ロディは頷いた。その頬は、彼を知るものしか分からないくらいにかすかに赤い。

「うん。分かった。…でも、嬉しいな」
「な、何が!?」
「だって、ジェーンも僕に会いたい、って思ってくれたんでしょう?」
「えっ!」
「だから、凄い、嬉しい」

 ほわほわと、人好きする無邪気な笑顔を見せる。その満面の笑みは、暗闇の中でもひどく眩しいくらい。
 かぁ、と頬を赤く染めたジェーンは、幾つかの言い訳を探した挙句、小さく小さく頷いた。
 あんまりにも真っ直ぐに、ロディはジェーンを見てくるから、嘘が付けなくなる。
 子供たちの願い事を叶えたジェーンの、小さな小さな願い事一つ。

 "ロディに会いたいな"

 叶えられた小さな願い。
 おずおずとロディはジェーンを抱きしめて、ジェーンはロディを抱き返した。


 クリスマスの終わりの小さなプレゼント。
 クリスマスの宴ももう終わり。
 メリークリスマス。
2005年12月30日

ロディジェv
大分メリークリスマス過ぎちゃったんですけど、愛は変わりませぬ!
…ちょーっと書き方忘れちゃってたけど…。
でもやっぱ好きだなぁ…この2人vv