転がる



 コロ…コロコロ…コロ……。

 亜莉子の足元で、いつものようにチェシャ猫が転がる。

 コロ…コロコロ…コロ……。


「首だけで転がって、よく飽きないわね」

 いつものように机に向かって高校の宿題を片付けていた亜莉子は、足元のチェシャ猫を見下ろしてそう呟く。
 と、チェシャ猫が立ち止まって(?)振り向いた。

「慣れれば、結構楽しいものだよ。アリス」
「そうなの?」
「そうだよ。アリスもやってみるかい?」
「私…?」

 亜莉子は、首だけで転がっている自分を想像してみた。
 …長い髪の毛が絡まって、転がりにくそうだ。いやそれ以前に、首だけになった時点で確実に死ぬ。

「……遠慮しておくわ」
「ソウ?それは残念」

 にんまり笑ったままで、そう言われるとなぜだか命の危険を感じる。
「本当に、嫌なんだからねっ!」
「分かってるよ。アリス」

 そう言ったチェシャ猫のにんまりが、さらに深くなって。
「でも、気が変わったらいつでも言ってね」

 その一言を、亜莉子はとっさに聞こえなかった振りをしたのだった。