コタツ 4
すっかり春になって葉の緑が鮮やかになってきた、よく晴れたとある日。
亜莉子は、雲ひとつない空を見上げて、決心した。
チェシャ猫は、日当たりのいい縁側でごろごろ喉を鳴らしながら眠っている。フードで目が隠れているせいで本当に寝ているのかどうかは分からないが。
さりげなく、あくまで何気なく。心の中で唱えながら亜莉子はチェシャ猫に声をかけた。
「チェシャ猫、コタツ片付けるからねー」
「アリス、君が望むなら」
打てば響くように、すぐに返事が返ってきてなんだか亜莉子はむっとした。
チェシャ猫はもう、コタツに未練はないらしい。今は何より縁側の方が大事なようだ。
(冬の間はあんなにコタツ、コタツってうるさかったのに…)
また、ごねるんじゃないかと身構えながら聞いた自分が馬鹿みたいだ。
「後で寒くなって、やっぱりコタツに入りたいとか言っても知らないんだからね!」
そう言い捨てて片付けを始めた亜莉子には、その後チェシャ猫が呟いた台詞など耳に入っていなかった。
昼間の暖かさが嘘のように冷え込んだ、その日の夜。
そろそろ寝ようと布団をめくった亜莉子は、自分の布団でぬくぬくと幸せそうに眠っているチェシャ猫を発見した。どうやら、亜莉子が寝るより早く布団に潜りこんでいたらしい。
「チェシャ猫、出なさい」
すごすごと布団から出たチェシャ猫は、亜莉子を恨めしげに見上げて呟いた。
「寒くなったら、アリスの布団に入るって言ったのに…」
一晩中そう呟きながら床をごろごろ転がるチェシャ猫に、亜莉子が根負けしたのは言うまでもない。