スイカ 3



 亜莉子はふぅ、とため息をついてシャーペンを置いた。

「なんか集中できないな…」
 明日は漢字の小テストがあるのに、いくら書いても漢字はなかなか頭のなかに入ってきてくれない。
 ふと、チェシャ猫の寝床を見ると、チェシャ猫は散歩に出かけているらしく、昼間亜莉子が買ってきたスイカだけが転がっていた。

「チェシャ猫が膝の上にいればなぜか集中できるんだけどなー」
 と、そこまで呟いてふと、亜莉子の脳裏に良い考えが浮かんだ。



「ただいま、アリス」
 散歩から帰ってきたチェシャ猫は、机に向かっている亜莉子を見上げた。
 彼女は今、勉強中だ。静かにしていないと怒られる。静かに足元に寄っていって、いつものように膝に飛び乗ろうとしたチェシャ猫は、先客にぶつかって弾かれた。

 見上げた先には、緑と黒の縞模様。

「アリス、そこ、僕の」
 言葉少なく主張すると、亜莉子はノートから顔を上げずに言った。

「もうちょっとでキリがいいから、待ってて」
「………」

 亜莉子の勉強が終わる頃。
 お気に入りの場所をスイカに取られたチェシャ猫は、毛布に包まって盛大に不貞腐れていたのであった。