チョコレート
「アリス、何してるの?」
「んー、チョコ作ってるのよ」
日曜日の昼下がり、誰もいない家の台所でごそごそしてる亜莉子のところに、チェシャ猫がゴロゴロ転がりながらやってきた。
「チョコ?」
転がる途中で回転をやめた為、微妙な角度で見上げる生首を見下ろし、亜莉子は微笑む。
「バレンタインデーっていってね、好きな人にチョコレートをプレゼントする日があるのよ。今年はお世話になってるし、叔父さんにあげようかな、と思って」
「僕には?」
どことなく、残念そうなチェシャ猫に亜莉子はにんまりと笑ってみせる。
「チェシャ猫はチョコ食べられないでしょ?」
途端、黙り込んだ猫にまた笑って。
「だいじょうぶ。ちゃんと、用意してあるからね」
楽しそうにボウルの中身をかきまぜる亜莉子の足元に、嬉しげににんまりじゃれつくチェシャ猫であった。
………アリス、僕らのアリス。
君がとっても嬉しそうで楽しそうだから、たとえ作ってたチョコケーキなるものが、あの首狂いの象徴…ハート型だとしても、壊さずに我慢してあげるよ。