『居場所』











 ルビークに行くというゲド達傭兵隊一向に合流し、ついていくことを認めさせたアイラは上機嫌で最後尾に並ぶ。弓使いであり補助魔法を使うアイラの、大体の定位置。エースとジョーカーのたわいもない口喧嘩や、クイーンの仲裁、本当に時折笑って答えるゲドの全ての様子が分かるから、アイラは結構この位置を気に入っている。もっとも時には会話の中に自ら突っ込んでいくし、自ら先頭を突っ走ってしまうこともあるのだが。
 最後尾は、口数は少ないが、同じ遠距離型の戦士で、一緒にいると落ち着く青年の隣でもあるから、アイラはなおさら気に入っている。

「追いつけて良かった! ルビークまで一人かと思ったよ!」
「それは危ない…」
「うん、だから追いつけて良かった!」

 そもそも危ないから来るな、という話のはずだが、カラヤの少女は天真爛漫に笑い、気にした素振りもない。この調子では追いつかなければ本気でルビークまで一人で行っただろう。おそらく傭兵たちに帰れ、とすげなくされたとしても、先回りするなり後をつけるなりしかねない。それが分かっていたからこそ、ゲドもクイーンもエースもジョーカーも、この少女を結局は受け入れた。アイラの戦闘能力は確かだか、まだまだ危なっかしく、注意力も散漫だ。加えて、この年齢のわりに幼い少女を、小隊のメンバーは中々に気に入っている。
 ジャックもまた仕方がないな、と思いながらも上機嫌の少女を見下ろす。彼女の機嫌を示すように、その特徴的な髪がひょこひょこ揺れている。グラスランド特有の装束に身を包み、元気よくはずんで、鼻歌でも出てきそうな様子だ。

(………?)

 ふと、ジャックは違和感を抱き、一呼吸半ばかりその理由を探す。そうして思い当たったのが、アイラの着ている服だった。十二小隊と共にいるときは、エースが買ったマチルダ輸入の、ハルモニア風の服を着ていたはずだ。

「………服…」
「ん? あ、ああ。着替えたんだ。ここならもう構わないだろ? こっちの方が落ち着くしさ」
「……そうか」
「…ジャックはこの服嫌いか?」

 何考えてるのか分からない無表情が、いつもより曇っている気がして、アイラはやや不安げに自分の服をつまむ。

「いや…」

 慌ててアイラの言葉を否定し、ジャックは言いよどむ。
 続く言葉はなかなか出てこないが、アイラももう慣れたもので、無理に促したりはしない。

「……アイラの居場所は…カラヤなんだな」

 そんな当たり前のことを今更強く感じた。それだけの話。それだけの話だから、自分で言って、自分で首をひねる。
 アイラは目を丸くしてジャックを見上げる。その視線が居心地悪くて、そっと、視線を逸らしてしまう。

「どうしたんだ、ジャック?」
「……いや」
「でも…そうだな。私はカラヤの戦士だ。それは一生変わらない。私はそれを誇りに思うし、大事にしたいと思ってる」
「………」

 生真面目な顔で宣言するアイラに、ジャックは視線をもどす。
 凛と、胸に手を当てて宣言したカラヤの戦士は、少しだけ躊躇うように口を閉ざし、じっと、ジャックの目を見つめた。奥の奥の奥まで入り込んでくるような、鋭く躊躇いのない瞳。
 ああ、綺麗だな、と、素直に感動する。子供特有の汚れない耀き。

「けど、だからこそ、今はゲド達と一緒に行きたい。みんなが私の世界を広げてくれた。カラヤの村にいたんじゃ、何も知らないままだった。ルビークのことだって、私たちはもっと知っておかないといけないんだと思う。カラヤの戦士として、カラヤを守るために、私はもっといろんなことを知りたいんだ」
「―――…アイラ…」

 きっとそれは、まだまだ未熟なアイラが少しずつ抱いてきた思いの一つ。
 アイラとてこの旅の中で様々なことを考えたのだろう。何の心の準備もないままに故郷を失い、身一つで世界に放り出された。親も友もなく、第十二小隊についていくことだけを復讐の手がかりにして、慣れない傭兵たちと共に戦い、夜を過ごした。初めて訪れる大地、初めての敵、初めての人。これまで敵国としか思っていなかったハルモニアを見て、その中で好きなものにも出会って、ゼクセンの鉄頭と肩を並べて戦うことになって、復讐の相手を見失って、正しいことがいつだって一つではないと思い知らされた。
 精神的に幼かった少女にとってそれらがどれだけ衝撃だっただろうか。

「それに、ゲドもエースもクイーンもジョーカーもジャックも、みんな好きだ。カラヤのみんなとは違うけど、強くて物知りで……私もみんなみたいになりたいと思ったんだ」

 だめかな? とはにかむ少女に、ジャックは首を振る。
 そんな風に自分たちの事を思っているとは思わなかった。が、子供特有の真っ直ぐさで純粋に慕われて、嬉しくないはずがない。

 小さくジャックの顔がほころぶ。
 瞬間、アイラの顔も柔らかくほころんで、ジャックは気付く。
 カラヤの戦士であるアイラはやがてカラヤに帰るだろう。それを、ついさっき、服装をアイラが着替えたというささやかな行為で、理解した。
 当たり前のことを思い知らされた瞬間、ジャックの中に芽生えたのは。

(―――嫌だな)

 という単純な気持ち。
 突然傭兵たちの中に飛び込んできた一人の少女は、子供好きのジャックにとって癒される存在で、だからこそ何かと気にかけてきたのだが、まさかこんなにも自分の中で大きな存在になっているとは思わなかった。

「………アイラには、その服が似合う」
「本当か?! 私はやっぱりこの服の方がしっくりきて好きなんだ。だから、ジャックが嫌いじゃなくてよかった」
「…嫌い…じゃない」

 おーい、と前方からエースが呼ぶ声がする。
 いつの間にか先行くメンバーから随分と遅れをとっていた。
 アイラが弾むような足取りでその距離を詰め、くるりと振り返るとジャックを呼ぶ。

 いずれアイラは彼女自身が言うように、今はまだ無きカラヤに帰るだろう。
 それでも彼女がまだカラヤの外にいることを望むのなら、ジャックはアイラの力になりたい。

「ジャック、ルビーク見えてきたって!」

 そうやって笑うアイラを見るのが、最近のジャックにとってお気に入りなのだから。
 2013/04/21

 ルビークに行く時アイラを置いていく気かてめーって思ったら、ジャックの振り返りイベと、アイラの置いていくなーって感じにやられましたw
 はまったのが今更過ぎて心が痛いです(笑)
 ゲームリメイクしてくれたら買う。100%買う。ゲド編好きすぎる。
 ジャクアイたまらんのですが!最高なんですけど!
 恋愛感情なくてもいいよ。あってもいいよ。とにかく仲良く二人で一緒にいれば悶えられるよww


 空空汐