8月
 テイルズオブディスティニー スタン×フィリア



「フィーリーアー」

 ぽすん、と振動が来て、フィリアは心臓が出そうなほどに驚いた。
 背中に人一人分の重みが加わっている。

「すっ、スタンさん!?!?」
「うん。フィリアは何してるの?」

 ひょっこりと、フィリアの肩上に顎を乗せて、スタンは机の上を眺める。
 暗闇の中、ほのかなランプで照らされた空間に敷き詰められた本の数々。
 スタンにはまるで分からない文字の羅列。
 む、と眉を顰めて、親の敵でも見るような目でそれらをにらみつける。

「すっ、スタンさんっ?」

 スタンの吐息すらも感じるような顔の近さに、フィリアはピクリとも動けなかった。

「ねぇフィリア」
「はっ、はい!」
「寝よ」

 にっこりとスタンは笑って、丁寧に、かつ強引にフィリアを抱き上げる。
 とても軽いフィリアの体はふんわりとスタンの腕の中におさまった。

「すっ、スタンさん!?」
「うん」
「わっ、私まだ研究が…っ」
「んーでも、恋人が来てるときくらい休んでくれたっていいよね?」
「こっ…っ」
「恋人」
「………っっ」

 顔を真っ赤にして動きを止めたフィリアにスタンは笑って、その額に唇を落とす。
 別に付き合いはじめという訳でもないのに彼女は始終この調子だから、可愛くて仕方がないのだ。

 そうして強引にフィリアをベッドに連れ込んだ途端、スタンは襲いくる眠気に身を委ねたのだった。
10月
 サモンナイトエクステーゼ 夜明けの翼
プニムエイナ&ファイファー



 エイナのこのごろの楽しみは、プニムに変身してファイファーに会いに行くこと。
 会いに行ったときのファイファーの困ったような、困惑したような様子が見ていて楽しすぎたのだ。
 そんな日が続いていたある日、ついに彼は目の前のピンク色のもっふもふにこう言った。

「エイナよ。その姿で我に話しかけるとは……」

 じろ、と頭上からファイファーに見下ろされてプニム姿のエイナは震えた。

「我の理性を試しているのか?なぁ、エイナよ」

 ごくっ、とファイファーが唾を飲み込む音が聞こえた気がしてエイナは戦慄した。
 く、喰われる…!?

「ごめんなさ〜い!」

 身を翻して一目散に逃げていく姿を、ファイファーが笑いをかみ殺しながら見ていたことを、彼女は知らない。



 その後しばらく、エイナはファイファーに用事があるときは必ず、レオンに代わってもらったという……。
10月
 テイルズオブディスティニー スタンとフィリア




「あ、フィリア、頼みたいことがあるんだけどいいかな?」

 唐突な、微妙に間延びした声が後ろか聞こえてきて、フィリアは首をかしげる。
 頼みごととは何だろうか?

「はい、何でしょうか?」

 反射的にというか、元々人の頼みを断れる性格でないフィリアは実に素直に返事をして、スタンにと向き直る。
 そうしてみるとリーネ村の青年は半分寝ぼけ眼で、あまり頭が働いているようには見えなかった。その事を踏まえると、先ほどのスタンの声がいつもに比べて張りがなかったことも頷ける。

「あのさ、髪の毛結んで欲しいんだけど」
「………え? わ、わたくしがスタンさんの髪を、ですかっ??」
「うん。いい?」
「わ、わたくしは構いませんが…あの、本当にわたくしでよろしかったのですか?」

 自然と疑いの含む声になってしまって、スタンはやはり寝ぼけ眼のままこっくりとうなずいた。

「だってフィリアが一番優しくしてくれそうだから」

 無邪気で鮮やかな満開の笑顔は、フィリアが抱いた嫌な気持ちも全部吹き飛ばしてしまった。
 だからフィリアは笑って、自分の荷物から櫛と紐とを取り出して、長い長い金の髪を手にとったのだった。




100923
ぶっちゃけた話リメDのスタフィリはあんまし萌えない。
ジョニフィリウドフィリはいいな思った。
なんにしろスタフィリルーリオ4人組の性格改変でいまいちこないんだ。
11月
 テイルズオブディスティニー スタンとフィリア



 石像だと思った。
 なんて出来の良い美術品なんだろうと。
 だってあまりにも綺麗だったから。

 ディムロスに言われてパナシーアボトルを使い。
 固まった時間が動き始めて。
 灰色は綺麗な色彩に色づき始めて。
 その光景からひと時も目が離せなくて。
 きっとその瞬間を自分は一生忘れることが出来ない。



 

「フィリア」
「はい。なんでしょうスタンさん」

 身体ごと振り返って、見つめてくる眼鏡越しの柔らかい眼差し。
 その大きな瞳がとても好きで。
 若草色の優しい三つ編みの髪が好きで。
 日の光を嫌う真っ白な肌が好きで。
 柔らかくて心地良いその声が好きで。

「あー…うん。なんでもない」

 ただ声が聞きたくて、ただ自分を見て欲しくて。
 何度も何度も君の名前を呼ぶ。

 初めて出会ったそのとき。
 ふわりと動き出して崩れ落ちた彼女に手を伸ばしたそのときから、知らない感情が既に芽生えていたのだと、そんなことに今更気がついたんだ。
 
 だから、ねぇ

 ――― 一緒に暮らそう。

 そう言ったら君はなんて答えるのかな?
12月
 テイルズオブヴェスペリア ユーリ×ジュディス



 カツン、と雑踏の中聞き慣れた音がした。
 意識すらせずにその音を追いかける。
 音は真後ろまで近づき、一拍。

 さて、何がくるのかな、なんて余裕を持って考える。

 名前を呼ぶ?
 肩をたたく?
 手をにぎる?
 前にまわる?

 何にしても振り向いた先には、あの捉えようの無い穏やかな笑顔が広がっているのだ。

 顔には出さずに笑う。
 自分の歩く速度は変えない。
 彼女はそれを追いかける。
 自分はその足音を追いかける。

 いつまで続くのか分からない螺旋構造。

 けれど、不意に音が止まる。

 崩れた螺旋に思わず立ち止まる。

「ジュディ?」

 不思議に振り返れば、矢張りあの、捉えようの無い笑顔。
 一瞬で彼女の香りが広がる。
 唇に当たる柔らかな感触。
 胸元に当たる彼女の身体。

「―――悪い人ね」

 くすりと笑って、すれ違いざまに呟いた彼女はまたも歩き出す。
 街のど真ん中で、あまりにも堂々とした一瞬の触れ合い。
 あまりにも堂々と、そしてさり気なく、誰一人と気付かなかったであろう触れ合い。
 それは幻だったのではないかというくらいの一瞬。

「―――やられた…」

 雑踏の中でカツンとヒールがなる。
 追いかける聞き慣れた自分の足音。
 彼女は速度を変えない。
 自分は彼女を追いかける。

 さぁ、何を仕掛けようか。
1月
 TOV現代パロ 幼馴染なユーリ×ジュディス



「―――あら?」

 ジュディスが年賀状を取ろうと思って外に出ると、世界は一面銀世界だった。
 真っ白に世界を染め上げた雪が朝日を浴びて輝いている。
 眩しさに目がくらんで軽く頭を振る。

「ジュディ」
「……ユーリ?」

 顔を上げたそこに、いつの間にか現れた幼馴染の姿。
 幼馴染、といっても年は向こうの方が2つ上だ。

「いい天気だな」

 黒いタートルネックのセーターに黒いジーンズ、しかも男の癖にやたらと長い髪も黒と、全身真っ黒づくしの人間から発せられる、爽やかな台詞にジュディスは小さく笑う。
 くすくすと笑いながら雪を踏みしめる。

「ええ、そうね。どうしたの」

 かたん、と郵便受けをあける。
 年賀状の束が辞典ほどの分厚さになって入っている。
 自分と父と腹違いの妹と、たったの3人分にしては随分と多いと毎年ジュディスは思う。
 腹違いの妹はともかくとして、父とジュディス自身がマメに書いて送る方だからなのかもしれないが。

「偶然通りかかったんだよ」

 ジュディスの持つ年賀状を覗き込みながら言うユーリを見上げ、小さくふきだした。

「…なんだよ?」

 訝しげに眉をひそめるユーリに手を伸ばして、その頭に積もったまま忘れられた雪を払ってやる。
 お互いの家はほんの2,3分でたどり付く距離で、とっくの昔に雪は降っていなくて、こんな防寒のしっかりしていない格好で。。

「偶然?」

 雪で濡れた手をそのままユーリの頬に当てると、雪よりも冷たい。両手でその頬を挟み込む。
 ユーリの手がジュディスの腰を抱えて、引き寄せる。倒れこんだジュディスを抱きとめて、ユーリはくつくつ笑う。

「偶然外に出たい気分になって、偶然雪で遊びたくなって、偶然この家まで来て、偶然ジュディに会いたくなった」
「あら…素敵な偶然ね」

 満面の笑顔でそう返すと、ユーリは愉快そうに「だろ?」と声をあげて笑った。
2月
 TOV現代パロ 幼馴染なユーリ×ジュディス



 冬の、きんと冷えた空気を感じながら玄関を出て、遠く寝ぼけた妹の悲鳴を聞いた。
 ほぼ毎日の恒例行事に、ジュディスはくすくすと笑いながら時計を確認する。ぎりぎり学校には間に合うだろう。
 冷え切った空気が肌に痛くて、両手を吐いた息で暖める。ジュディス自身はまだまだ余裕がある。ジュディスの通う高校の方が、妹の通う中学よりも近いから。
 家の門を出て道を曲がるとすぐに、見覚えのある姿を見つける。
 2つ年上の幼馴染。
 長い黒髪のブレザー姿。整った顔がジュディスを見て眉をあげる。
 手に持つ学生鞄とは別の袋を握る手に、一瞬だけ力が入った。

「…ユーリ?」
「よっ。ジュディ」
「ええ。おはよう、ユーリ。それで、こんなところでどうしたのかしら?」

 当然とも思える疑問にユーリはにんまりと笑い、壁に預けていた背を浮かしてジュディスへと向き直る。

「今日、何の日か知ってるだろ?」
「2月14日ね。それがどうかしたのかしら?」
「…分かって言ってるだろ、ジュディ」

 ユーリとジュディスの距離が縮まる。
 近づいた分、ジュディスの笑みは深くなって、ユーリもまた笑う。
 額と額が触れそうな距離で、互いの吐息を感じながら、ゆっくりとジュディスは唇を動かした。

「欲しいの?」
「当然」
「あら…素直なのね」
「嘘は苦手、だからな」

 ジュディスのよく言う台詞を使って、ユーリは目の前の唇との距離を0にする。
 甘く柔らかい唇に触れて、求めて、求められて、味わって、堪能する。
 冷静な部分でここは朝の通学路だと警告を鳴らし、それでも人通りの少ない場所だと知っているから遠慮はしない。

「一つだけ、条件があるわ」

 唇がわずかに離れた瞬間をついて、ジュディは囁く。
 その言葉に一瞬ユーリは眉をよせるが、次の瞬間には傲岸に笑って続きを促した。
 甘い甘いチョコレートのように囁く睦言の中身にユーリは―――。






 黒髪の青年の下駄箱にチョコレートが詰まっていた。
 その机の中にも上にもロッカーの中にも満遍なくチョコレートが置いてある。
 これは2月14日の毎年恒例の姿であり、漫画の世界でしかありえないような現状。

 そして、その現状に、愕然と立ち尽くす黒髪の青年の姿があった。





「ユーリ先輩! こっ、これっ…って…っえ!? ゆ、ユーリ先輩っ!?」
「悪い! 急いでるからまた明日な!」

 呼び止めた女の子が驚くのも構わず、ユーリは全力疾走の如く廊下を突っ走る。
 何が何でも止まってたまるものかといわんばかりの動きに、女の子はあっけにとられ、周囲もそれをぽかんと見送った。
 黒髪の青年が手に持っているのは大きな大きな紙袋。
 ぼこぼことゆがむ紙袋の中身は、まぁ、チョコレートだったりする。
 普段のユーリなら一個でも多くのチョコを受け取ったことだろう。
 甘いものが好きなユーリにとって、この日ほどありがたい日はないのだから。
 それでも彼は突っ走る。
 決してチョコを受け取らないようにして。
 唖然とした学園の生徒の目も全く気にせずユーリは走り続ける。
 本来「廊下を走るな」と注意する教師たちもあっけに取られて見送ってしまう。

 ようやく辿りついた目的の扉をぶち破るような勢いで開いて、息をつく。
 後ろ手に閉めた扉に鍵をかけるのも忘れない。

「ユーリどうしたんだい?」

 扉を開けた先の落ち着いた親友の声に、ユーリは無言で手にもつ紙袋を差し出した。

「?」

 首を傾げながらもフレンは紙袋を受け取る。

「うわ、これ全部チョコレートかい? 凄いね」
「人気ナンバー1の生徒会長様には言われたくねーっての」
「君にはかなわないと思うけど…」

 袋の中のチョコレートを机の上に出しながら呆れた声を出すフレンに、ユーリは意を決して言う。

「頼む、フレン…! 何も言わずにそのチョコを貰ってくれ!」
「………………はぁ!?」
「頼む!」

 実に珍しい、というかありえない親友の姿に、フレンは完全に言葉を失った。




 それはユーリにとって悪魔の囁きに等しかった。

「今日一日、私以外からチョコを貰っちゃダメよ」

 くすくすと笑う彼女の言葉に、ユーリは愕然とし、その言葉の撤回を求めたがジュディス相手に上手くいくはずもなく。

「出来たらご褒美に上げるわ」

 そうして妖艶に微笑まれてしまったらユーリに対抗手段なんて残る筈もなく、今日一日地獄へと突き落とされてしまったのだ。





「…約束守ったからな」

 不貞腐れたユーリの言葉に、ジュディスは実に楽しそうに微笑んで。
 朝から持っていた袋を差し出したのだった。
2月
 TOD スタンとフィリア



「フィリアは、くれないの?」
「…えっ」

 突然の問いかけに、にこにこと笑ってしたフィリアの顔が、一転して真っ赤に染まり、あたふたと落ち着かなくなった。
 その様を、にやにやと眺める仲間たちの顔も、もはや2人の目には入っていない。

 スタンは期待と不安の入り混じった顔で、フィリアを見ている。
 フィリアは真っ赤な顔で、あの、ええと、と繰り返している。

 全くもっていつまで続くのか分からない状況に、仲間達が焦れに焦れた頃、ようやくフィリアが意を決して、もにょもにょとなにやら呟きながら一つの包みを取り出す。
 ラッピングがされた手の平よりも少しだけ大きいくらいの包み。

「あ、あの、お口合うか分からないのですが…、その…」
「俺の分…で、いいんだよね?」

 眩しいくらいの笑顔で、フィリアの戸惑いやしり込みする気持ちなんて全く頓着せずにスタンは包みを受け取る。
 いつもながら裏表のない、期待のつまった宝石箱のような瞳に見つめられて、フィリアは消え入るような声で、はいと頷いた。

 その俯いた顔を覗き込むようにスタンは屈みこんで、その耳元に囁く。

「凄く嬉しい。ありがとうフィリア…」

 甘くてとろけそうな囁きに、既に限界ギリギリだったフィリアはとうとう意識を手放してしまって、だから、スタンの最後の言葉だけは聞き逃した。


 ―――大好きだよ。


 甘い甘い、バレンタインのお返し。
3月
 TOV ユリジュディ現代パロ



「ジュディ」

 呼び声に振り向けば、飢えた狼さんが自分の口を指差して笑っていた。
 手に持っているモノを眺めて、しばし考える。
 大分もったりとしてきた真っ白なそれ、に、指先を突っ込んだ。
 人差し指と中指でたっぷりとすくって、狼さんに差し出す。
 たれるほどのホワイトチョコレート入りの生クリーム。
 ボールと泡だて器を置いて、狼さんと向き合うと、彼は長い黒髪を後ろに払いのけて、どこか女性的な仕草で、ジュディの指先へと顔を寄せた。

「ん」
「…ん」

 吐息が重なる。
 とろけるような甘さの生クリームをたっぷりと口に含んで、狼さんは笑う。人差し指の根元から先までしっかりと舐めあげて、その隣の中指へ。垂れた生クリームを求めて手首まで舌先で辿る。
 ジュディの指先が小さく震えて、それに答えるように狼さんは指先にかぶり付く。軽く啄ばんで、舌を絡めて、舐めとって、吸い取る。

「ん。甘い」
「ふふ。満足かしら」
「いーや、全然」
「あら」

 困ったわね、といつも通りの微笑を浮かべるジュディに、狼さんはさらに笑って。

「ジュディ、おかわり」
 
 絡む足と足。
 腕と腕が伸びて。

「お預け、ね」

 狼さんの口をジュディスの手が封じ込めた。
 いかにも不満そうに歪む眉に、ジュディスが小さくふきだす。何を考えているのか分からない、いつものような微笑ではなくて、あきらかに楽しそうな笑顔に、狼さんの表情もまた緩んでしまう。
 力の抜けた男の身体を軽く押して、ジュディスは置いていたボールへと向き直る。

「だって、完成品も食べたいでしょう?」
「…そりゃそうだな」

 はぁ、とため息をついた狼さん。
 その脱力した空気にはもう構わず、ジュディスは作品作りへと取り掛かる。
 彼女の細い指先から作られる芸術的なお菓子の数々を、狼さんはこよなく愛しているのだから。
4月
 TOV ユーリ×ジュディス



「あ、あの、ユーリ!」
「エステル? どうした?」
「あのっ、私! 好きです! 大好きです! 愛してるんです!!!」
「はぁっ!? ………ちょ、落ち着けエステル!」

 まっすぐに詰め寄ったきたエステルに気圧されて、ユーリは後退する。
 勢いがありすぎるエステルの肩を押して、動きを止める。

「だから、あのっ、お願いです、一日でもいいんです!」
「いや、何がっ」
「お願いします! ラピード貸して下さいっ!!!!!!」

 は? とユーリの思考が停止した瞬間、エステルの力がユーリの力を超えて、二人は綺麗にぶっ倒れた。




「で、貸してあげたの?」
「いや、貸したっつーか、見かねたラピードが付き合ってくれてる」
「まぁ。素敵」

 くすくすと笑うジュディスに、ユーリは深い深いため息を吐いた。
 一日中戦っていた時より消耗している気がする。

「貴方は、あの子に振り回されてばかりね。とても楽しそうだわ」
「冗談。さすがに焦ったっての」
「あら、光栄なことじゃない。女の子にあそこまで言ってもらえるなんて凄いことだわ」
「…ラピードがな」

 というか、聞いてたんなら助けてくれ。今更といえば今更なことを考えて尚も息を吐く。
 エステルに押し倒された後、どこかでか見ていたらしいジュディスが助けてくれた。主にエステルを。前から思っていたことだが、ジュディスはエステルとリタにはとても甘い。女の子相手だからかと思えばパティにはそうでもないから、あの2人が放っておけないだけだろう。
 その気持ちは分からないでもない。
 どこか強かでちゃっかりしているパティの方が、エステルやリタより余程安心してみていられるのだ。

 2人、大木にもたれて、エステルとラピードを眺める。
 エステルは一生懸命ラピードに話しかけて、幸せそうに笑っている。ラピードも諦めたのか、エステルの好きにさせている。
 その光景は一面の花畑の中にいることもあって、とてもよくできた一枚の絵画のようだ。

「残念だったわね、貴方のことじゃなくて」

 くすり、と笑う女の声に、ユーリの口がへの字を描く。
 だが、それもつかの間だった。
 ユーリの体が反転し、大木と伸ばした腕の中にジュディスを閉じ込める。

「ユーリ?」

 あまりみられない、ジュディスの少し驚いた顔に気をよくして、ユーリは笑う。

「ジュディ、焼いてるだろ」
「………」

 何を言われたのか分からない、という顔から、じわりと驚愕が広がり、白い頬に朱が走る。戸惑う瞳が珍しいし可愛らしくて、ユーリは尚も笑った。

 2人の距離が0になるまであと少し。
5月
 TOV ユリジュディ



 仲間と歩いている時、一瞬だけ目が合った。
 ほんの一瞬の交差。
 その交差が全て。

 視線がさ迷う。
 周囲をぐるりと回って。
 手と手が合わさる。
 絡み合った指と指が次の瞬間には解けて。
 ほんの少しだけ傾いた彼女と
 ほんの少しだけ傾いた彼と
 その影が交じり合って。

 唇が重なる。

 仲間達は会話に夢中で気付かない。
 ラピードとパティが真横を走り抜ける。
 カロルとリタとレイヴンがどつきあう。
 フレンとエステルが本の話で盛り上がる。

 背中に走る緊張。
 身体を巡る快感。

 既に離れた身体。
 再び指が重なる。

 目が合う。


 ―――もう一度


 言霊の無い欲望に唇が重なる。
 歩く速度は変わらない。
 器用に歩幅を合わせて、器用に唇を合わせて。
 その目は快楽に溺れながらも、前を歩くメンバーを警戒している。

 ひとしきりお互いを味わって、指を離す。
 くすくすと笑うジュディスからユーリは視線を逸らし、気だるそうに頭をかいた。

 仲間には気付かれないように、というのが中々に緊張感があって。
 楽しくて。
 後ろめたくて。
 でも気持ちよくて。

「癖になっちゃうわ」
「こっちの台詞だ」

 全くいつもの調子で2人はそんなことを呟いた。
6月
 TOR  サレ×ヒルダ

 不意に、ヒルダは目を覚ました。
 目を覚ました、というには中途半端な覚醒状態。
 ぼんやりとしたまま、もぞり、と居心地の良い場所を求めて身体を動かす。

「ん…?」

 動けなかった。
 腰の周りに回る屈強な腕がそれをさせない。
 無駄な肉などない鍛えられた両腕が、母親に甘える子供のようにヒルダの腰に絡み付いていた。

「…重」

 ぼんやりとした脳みそは働かなくて、小さく呟いて腕の中で身体を回転させる。
 それがヒルダに許された行動の範囲。
 目の前に女のようにとがった顎と、端正な顔立ちが見えた。

「………」

 小さく笑ってしまう。
 動けば嫌味と嘘と悪態ばかりをつく唇は間抜けに半開き。恐らく本人なりにこだわっている髪もぐちゃぐちゃに乱れていて。

「こんな顔で寝るのね」

 そんな今更なことを呟いて、ヒルダはおやすみなさいとその唇にキスを落とした。
6月
 TOV ユリジュディ



「へぇ」

 不躾な声にジュディスは動きを止める。ほつれた髪をもう一度結い上げるために解いたところだった。腰まで落ちた長い髪だけが揺れる。
 その髪を手櫛で整えながら振り返ると、面白そうに輝く紫水晶の瞳がジュディスを見ていた。
 ジュディスを見ていて、ジュディスではないものを見ている。

「何かしら?」

 視線の行方に疑問を感じて問いかければ、男は静かに笑いながら答えを明かす。

「髪、思ったより長いんだな」

 予想外の答えにジュディスは三度目を瞬かせて、いつもの微笑にて答える。

「そうかしら?」
「ああ、俺より長いんじゃねぇの?」

 そうして男は自分の髪をつまみながらジュディスの隣に並ぶ。
 常に踵の高い靴を履くジュディスと男の身長差はほんの僅かだ。
 並んで、同じように首をひねって髪の行く先を見守る。

「ほら」
「そうね。…長さなんて気にしたことなかったわ」
「そうなのか?」
「ええ。纏めてしまえば同じだもの」
「纏めるのが面倒だろ」

 そうかしら? ともう一度呟いたジュディスの髪を男はすくい上げ、指に絡める。
 そのさわり心地が極上で、男は満足げに息を吐いた。

「ユーリ?」

 ジュディスの声に、なんでもないと男は手を開く。
 さらさらと零れ落ちる長い髪を無言で二人は見つめて。

 未練のようにもう一度手を伸ばした男をあざ笑うかのように、ジュディスは髪を持ち上げる。

「ジュディ」
「あら、なにかしら?」
「……」

 中途半端に伸ばされた手をそのままに、男はつまらなそうに口を閉じ。
 実に愉快そうにジュディスは笑う。

「続きはまた後で、ね」


 その言葉が本当になったのかどうかは二人だけの知る秘密。