...ナルヒナ+サクラ。サクラ独白


 わたしはどんなに頑張っても、あんたみたいになることは出来ないんだわ。
 わたしはそれでもあんたみたいになりたいの。
 わたしはわたしでしかないけど。
 それでも。
 あんたに近付くくらいは出来るんじゃないかしら?
 それってただの夢?
 願望だって笑う?

 でもね。
 わたしはずーっとずーっとそう思ってたの。
 わたしはあんなにもまっすぐに前を見て歩くことは出来ない。
 人の後ろをついていって、下を見ながら歩く方がいい。

 そんなのわたしじゃない。
 って誰かは言うかもしれない。
 でも本当のわたしはとってもちっぽけで、周囲の目が怖くて、必死に虚勢を張っているだけ。
 憧れたあの子の真似をして、可愛くってかっこよくって、そんな理想像に従ってるだけ。
 好きな人に嫌われたくないから、自分の意思、奥の方にしまい込んで頷くの。
 それがわたし。

 だからあんたを見ると悔しかった。
 あんただって周囲を怖がりながら、びくびくとしているくせに、それでも虚勢じゃなくて本気で前を見て、"火影"を目指してた。

 それは、わたしには出来ない。
 怖いよ。あんたが火影になるってわめいたとき、突き刺さった他の人の冷たすぎる目が。
 あんなにも冷たくて、心無い視線の中であんたは生きてる。
 凄いって思った。悔しいけど。




 だからね。
 あんたが何だったとしても、関係ないの。
 わたしが凄いヤツだって認めたんだもの。
 九尾が何? 暗部が何? 今まで騙していたのが何? 性格が違うからって何?
 わたしはわたしの見てきたあんたを信じてる。
 わたしのずっと見てきたあんたに嘘はなかったよ。
 そりゃあわたしたちのことをずっと騙してきたんだろうけど、そんなの別に構わない。

 だって凄いじゃない。
 あんな冷たい視線の中で、自分とは全然違う誰かを作り上げて、それをみんなに"自分"だって信じさせた。
 本当の自分、奥にしまい込んで、完璧に"自分"を演じて。

 わたしには出来ないもの。




「サクラさん」
「なぁに?ヒナタ」
「ナルト君が、"ありがとう"って伝えて欲しいって」

 ふんわりと。信じられないくらい綺麗に、可愛らしく笑った女の子。
 貴女も凄い。全然違う"貴女"の顔をしっかり使い分けて、まっすぐに、まっすぐに前を見ている。

 知っていた。
 落ちこぼれって呼ばれる貴女がまっすぐにあんたを見つめていること。
 今思えば、それは真実のあんたを知っていたからなんだね。 
 ……ううん。もしかしたら何も知らなくても、貴女はあんたに惹かれていたのかもね。
 だってあんたを見つめる貴女の瞳はあまりにも真っ直ぐで綺麗なんだから。

 貴女もあんたも大嘘つき。
 でも、その気持ちに嘘がないことは、分かるよ。

 だから、わたしは気にしないよ。
 あんたや貴女がわたしの知っている誰かとは全然別人だったって。
 わたしはあんたや貴女が好きだから。憧れているから。
 誰が貴女やあんたを悪く言ったって、わたしはずっと味方でいるから。
 わたしはあんたに憧れてたんだ。悔しいけど。
 あんたをまっすぐに見つめることが出来る貴女が羨ましいって思ってた。
 わたしの気持ちは恋ではないけど、愛ではあると思うの。
 だって、あんたも貴女も、こんなにも守りたいを思うんだから。

「礼を言われる事なんてしてないわ」

 騙してたのかよ、ってうるさいあの人達に言っただけ。

 ―――あんた達は自分の仲間を信じられないの?
 ―――勿論、わたしは信じているわ。
 ―――ナルトもヒナタも、わたしの大事な友達だもの。

 ってね。本心だけど、それだけ言うのにすっごく勇気が必要だったのは悔しいから言わない。
 わたしはみんなの視線が怖いから、虚勢が必要だった。
 あの時だけは、その虚勢に感謝したよ。肩肘張って頑張れたもの。

「…ううん。凄く嬉しかった。ナルトも私も、もう駄目だと思っていたもの。本当はみんなの記憶を消して、下忍は辞めるつもりだったの。知られちゃった以上下忍としては生きられないから」
「…そんなの、わたしは嫌よ。7班も8班も、貴女やあいつがいなきゃ駄目なんだから」
「…ありがとう」

 泣くかな?って思ったけど、貴女は泣かなかった。多分、いつもの貴女なら泣きじゃくるのがパターンなのだとは思うけど。
 そう。それは貴女が本当の貴女の姿でわたしに会いに来た証なんだね。



 ねぇ。大好きだよ。
 わたしに沢山のものをくれたあんたと貴女。
 愛してるよ。

...モドル?












...バレンタインなナルヒナ


「なぁ、俺に、チョコは?」

 殲滅任務真っ最中にのたまった男に、ヒナタはちらりと視線をよこし、すぐにもどした。馬鹿に付き合っている暇などないから。
 ただ、馬鹿は馬鹿でも、この馬鹿はしつこい。そのことをよーっく知っている。

 チョコとはなんだろうか、と一瞬考えて、今日が何の日なのか思い出した。バレンタインとかいう木の葉のチョコレート業者が考え出した馬鹿馬鹿しいイベントだ。

 ふと、ヒナタは眉を潜める。
 刀を振り下ろしながら。

「なぁ、チョコ」

 自分のノルマを達成した男、うずまきナルトは重ねて聞いてきた。
 ノルマの最後の一人を切り殺して、ヒナタは男へと振り返る。

「今日、昼に他の下忍たちとやったじゃない」
「あんなめっちゃ義理チョコで、演技バリバリの笑顔で渡されたもんはヤダ」
「…嫌なら返しなさいよ」
「それもヤダ」

 聞き分けのない子供のように首を振る男に、ヒナタは深いため息をついた。身体つきだけは立派な大人なのに、とてつもなく子供っぽい。

「準備してないわ」
「うわひど…っ!」
「なんで同じ人間に2回も渡さないといけないのよ」

 ごもっともな言葉に、ナルトは言葉を詰まらせる。言いにくそうに視線少し逸らして、ゆっくりと、ヒナタへと戻す。

「俺にとってのヒナタは今のヒナタだから、今のヒナタからチョコをちゃんと貰いたいんだってばよ」

 言葉に、ヒナタは僅かに目を大きくして、視線を逸らした。

「…明日、チョコが安くなったらあげる」
「うわひど!」

 ナルトの叫び声に、ヒナタは小さく笑った。

...モドル?




















...バレンタインなシカテマ


「おい」
「………」
「起きろ、奈良シカマル」
「……………」
「忍が他国の忍にアホ面さらして寝るな、この大馬鹿者」
「…………………………」
「…………………………………」
「…………………………………………」
「じゃあ仕方ない。このチョコはナルトにでもやろう」
「!!!???? っっ!! ちょっ!」
「起きたか大馬鹿狸馬鹿」
「……別に、ずっと起きてたわけじゃねーぞ。今起きたんだよ。まさに今」
「そうだな。タイミングよく今まさに起きたと言いたいのだな」
「…おお」
「そうか。残念だな。私はあいにくと嘘つきにやるチョコは持ってないんだ。またな」
「っっ! ちょ、ちょい待ちっっ!!! わーったよ! 聞こえてた! 寝てなかったっつーの最初っから! くそめんどくせーーーっっ!!!」
「そうかつまりさっきは嘘をついたんだな。残念だ」
「っっ!!」
「じゃあまたな、奈良シカマル」
「………………」
「…………………………影真似は、卑怯なんじゃないか?」
「卑怯もクソもあるか。俺にくれるためのチョコだろーが。誰がナルトなんかにやるかよ」
「………………ばーか」

 ようやくテマリが笑顔を見せたので、シカマルは深く深く安堵の息をついた。

...モドル?




















...バレンタインなサスいの


 紙袋を3袋、両腕使って抱きかかえた少年は、深い深いため息をついた。
 昔詰め込むだけ詰め込んだこの袋をそのまま学校でゴミ箱に突っ込んだら、クラス中の男子に睨まれ、クラス中の女子に泣かれた。うみのイルカの説教で結局持って帰って見えないところで処理をするという結論にいたった。
 甘いものが嫌いなわけでもないが、さすがにこうも多いとうんざりする。しかも全部が全部チョコレート。これを全て一人で食べろと言うのだから無茶がある。

 ふと、後ろに覚えのある気配が現れた。
 振り返ると、長い蜂蜜色の髪を頭のてっぺんで結わえた少女。サスケと視線が合うとにんまり笑う。

「大量じゃないー」
「………」
「これ、全部食べたら糖尿病になりそうねー」
「………」
「今日の任務は木の葉の下町での害虫駆除なのよねー」

 ぴたりと、足を止める。
 今、山中いのという少女が口にした言葉は、サスケの知らないことだ。知っていなければならないにも関わらず。

「聞いていないぞ」
「え? ああー。だってサスケ君はかんけーないもの。簡単そうだから私一人で受けちゃったわー」
「…勝手な事をするな」
「欲しいバックがあるのよー。サスケ君が買ってくれるならー別に構わないけどー」

 悪戯に笑う少女に、サスケは深いため息をついた。

「なんのためのツーマンセルだ…」
「いーじゃない別にー。あ、それでー、そのチョコくれないかしらー?」
「…はぁ?」

 心底意味が分からない、という顔をしたサスケに、いのは思いっきり笑った。

「…なんだよ」 
「別に私が食べるわけじゃないわよー! 下町で任務って言ったでしょー? あそこにある孤児院にあげるだけよー」
「…ああ」

 なるほど、と頷く。捨てるよりも、甘いものを余り食べてない子供たちにやった方がはるかにいいだろう。かなりの有効利用だ。
 ただ、ふと嫌な予感を覚える。

「…いの、お前どうやってこれを運ぶ気だ」

 低いサスケの声に、いのは軽く視線をさ迷わして、にっこりと笑った。

「こういうときのためのツーマンセルよねー」
「……最初からそのつもりだったな?」

 任務を受けるのはいの一人。任務の報酬を受け取るのもいの一人。強制的に付き合わされるサスケは無一文のボランティア。

「でも、付き合ってくれるでしょー?」
「………」

 思いっきり逸らされる視線。
 それが肯定の意だといのは知っている。
 その視線の方向へ回り込んで、いのはサスケの顔を覗き込む。
 紙袋の合間から、驚いたような戸惑いの強い真っ黒な瞳。

 いのはにやりと笑い、後ろ手に持っていたものをサスケの眼前で振る。
 それは、チョコレートと思しきものだった。手のひらと同じくらいの四角い物体。リボンで可愛らしくラッピングされて、いのの手の中に納まっている。
 どこで買ったのか知らないが、袋の中に入っている物よりも薄っぺらく見えた。板チョコ、という言葉がサスケの頭をよぎる。
 いのは人に渡す物をケチるような人間ではないから、そうでないだろう、と頭の中の言葉を修正する。

「いるー?」
「………別に」
「ふーん…そ。じゃあシカマルにあーげよっと」

 あっさりと身を翻した少女を捕まえようとして、両手とも塞がっていることに気付く。
 それをどうするか迷っているうちにいのの背はどんどん小さくなっていき、サスケは両手のチョコを放り投げた。結構な重量の紙袋たちは、重たい音を立てて地面へと落下する。転がった包み紙が無残にも土に汚れた。幾つも幾つもチョコが割れる音。

「…いの」
「欲しいー?」
「………いる」

 急に走って、僅かに息を乱した少年の言葉に、少女は満足そうに満開の笑顔を顔にのせた。

...モドル?




















...サスいの


「何、してんのー?」

 頭上からした声に顔を上げる。
 別に上げなくても声の主が誰か、くらい簡単に分かる。

 見上げて、零れ落ちる金色の雫に目を細めた。

「おーい。聞こえてますかー」
「………なんだ」
「べっつにー?」

 一つ息をついて歩き始める。
 少し慌てた様子の気配。
 それが分かるから、動きは止めない。

「さーすーけーくーんー」
「………なんだ」

 自分よりも軽い足音。
 忍として動いていない時は、わざと音を鳴らして歩く女。

「サスケくんー」
「……」
「サースケっ」
「………」
「サスケさーん」
「…………」
「うちはサスケさまー」
「……………なんなんださっきから」

 足音が少しだけ早まる。
 トントントン。

 目の前に翻る、淡い金色の髪。
 日に透けると、白金色。

 ずいと身を乗り出してきた女から視線を逸らす。
 一瞬映った淡い水色が脳裏に焼きついた。

「いの、って呼んでくれないのー?」
「はぁ!?」

 ついつい視線を戻して、真正面から見てしまった、ので。
 
「なーんか、最近ものすっごく挙動不審だって気付いてるー?」
「………」

 若干たじろいで、上体をそらす。
 逸らした視線の先に覗き込んでくる淡い水色の瞳があった。
 眉根を寄せて、薄く紅をのせた唇を尖らせて、何の躊躇もなく人の目の前に顔を差し出す女。
 意識しているんだか、していないんだか。

 息をついて、手を伸ばす。
 身長はそんなに変わらない。
 腕を掴んで、抱き寄せて。

 ひどく厄介な口を黙らせた。

...モドル?