今日のお客様 : クルツ&マオ&相良宗助 様
それは初めの出会いから3ヶ月ぐらい後のことでした。
「いらっしゃいませ〜」
いつものように自動ドアの音で顔を上げると、そこにはお久し振りです。な、金髪モデルさん。
以前トイレに駆け込まれたあの方です。
今回あの猫目美人さんは…お連れになってないようですね。残念です。
その代わりと言わんばかりに、金髪モデルさんは学ラン姿の男の人を連れてます。男2人でコンビニ…むさ苦しい。
別に、男2人でコンビニに来ること自体を否定する気はないのですが見ていて楽しい光景ではないことは確かです。
やっぱり、女の子の方が潤いがあるってゆーか。
猫目美人さんを連れて来ない金髪モデルさんには用がないので、棚の拭き掃除を続行することにいたしましょう。
ふきふき…拭くこと自体はあまり重労働ではないのですが、棚に並んでる商品をどかすのが面倒臭すぎます。
しゃがみこんで四苦八苦してると、2人の会話が聞こえてきました。
「だーかーらっ!お前はどのコが好みだってきいてんだよ!好みのタイプ!」
「うむ…」
「かーっ!なんかあんだろぉ?お前も男なんだからさー」
声が聞こえてくるのは雑誌コーナー…さては、また18禁コーナーに行ってるんですね金髪モデルさん。
学ランさんのほうはあまりその話に乗り気ではないようです。
…むっつりなんですね。
「おまたせー」
自動ドアの音がして、猫目美人さんがいらっしゃいました。
少しつり上がり気味の意志の強い瞳、短く切りそろえられた黒髪、完璧なスタイル…。
ああ、猫目美人さん!いつ見ても素敵です。
男ばかりだったコンビニに一陣の涼風が吹き込んだような気がします。
猫目美人さんはすたすたと学ランさんに歩み寄ると、ぐわしっ!と学ランさんの首に腕を回しました。
「ソースケあんた、今日の飲み欠席って本当?」
そのままぎりぎりと締め上げます。
「うむ。千鳥から夕食に招かれてな」
表情ひとつ変えずに答える学ランさん。しかしその声は締められて苦しそうです。
あ、だんだん顔色が白くなってきたような…?
「けしからん!あんた、仲間内の飲み会とかなめちゃんの夕食、どっちが大切なのよ!」
「どっちもだ。だが、約束したのは千鳥が先だったからな」
「ちぇっ」
ぱっと学ランさんから手を離した猫目美人さんは、そのまま学ランさんをアイスのケースのまえに連れて行きました。
100円アイスとかが並んでいるのよりもちょっと高い、ハー○ンダッツとかが置いてあるケースです。
「あんたさー、食事ご馳走してもらうのにまさか手土産持って行かないなんてことしてないわよね?」
「ぬ…」
言葉に詰まる学ランさん。どうやら図星のようです。
「せめて手土産くらいは持って行きなさいよー?んでもってついでにあたしにも奢りなさい」
あたしはコレがいいわ、とか言いながらバニラのアイスを取り出す猫目さん。
むしろそっちが目的ですか…。
「うむ」
とか言いながら学ランさんはハー○ンの5個入りパックを持ってレジへやってきます。
意外に素直な性格なんですね。猫目美人さんの分のアイスもしっかり持ってきています。
「いらっしゃいませー」
とか言いながら私はレジに立ちました。学ランさんがアイスをレジに置いて、懐に手を入れ何かを取り出します。
財布ではありえない、黒光りする鋼鉄製のそれは…
「けけけ、けんじゅうっ!?」
銃刀法違反です!いやてか生命の危機です!
すわ強盗かと思いきや、その銃口は学ランさんの背後に向けられました。
「クルツ。お前の分まで買ってやる義理はない」
「ちえー」
とか言いながら、学ランさんのアイスに自分の分を紛れ込ませようとしていた金髪モデルさんの手が引っ込みました。
銃口突きつけられてるのに全然動揺してません。向けられた銃口の方向を指先でついっと変えて、けちだなーとかぼやきながら去っていきます。
いつ、近づいてきてたんだろう…全然気付きませんでした。
「あんたもこんなトコでそんなモン振り回してんじゃないよ!」
猫目美人さんが学ランさんの後頭部をはたきます。パコッっと小気味のいい音がしました。
「脅かしてごめんねー。とりあえず会計してくれる?」
にっこり魅力的な笑顔と共に差し出された1万円札を受け取ります。
お釣りを差し出そうとすると手で止められました。
「お釣りはあげる。その代わり、誰にも言わないでおいてくれるとうれしいな♪」
それはつまり、口止め料というやつなんでしょうか…。
猫目美人さんに手をぎゅっと握られて、さらににっこりされました。ううう、美人さんの笑顔は素敵なんですが目がめちゃくちゃ怖いです(泣)
「もし誰かに言ったら…分かってるわよね?」
ぎりぎりと握られた手に力がこもります。無茶苦茶痛いのですが、これでもまだ手加減してるのだろうなと私は本能で悟りました。
本気だったらきっと握りつぶされてます…。
「は、はいっ!」
こくこく頷いた私の必死さが伝わったのか、猫目美人さんは手を離してくれました。
うう、手がじんじんしますよう…。
アイスを受け取った猫目美人さんは、あくまでにこやかにフレンドリーに、私に手を振って店を出ていかれました。
「ありがとうございましたー」
立ち去る3人にお辞儀をしながら祈りました。
……もう来ないでくださいませ…。