今日のお客様 : 殷雷&和穂 様





「いらっしゃいませ〜」

 自動ドアが開く音で入口を見ると、そこには変わった格好の女の子と男の子が立っていました。



 女の子のほうは柔らかそうな栗色の髪をポニーテールにして、白い柔道着みたいな服を着ています。
 …柔道着ですよ?柔道着。
 …でっ…でもでも腰と髪に結んだ赤い布がかわいらしいです!にゅうふぁっしょんでしょうか?


 男の子の方は、黒くて長い外套を着ていて、灰色の膝くらいまである髪を後ろでくくってます。
 …くくってるんですけど、纏まりきらずにピンピンはねてるところが、なんというか、バンドか何かの人みたいです。あれは地毛なんでしょうか?地毛なら地毛ですごいです。
 手には長い金属の棒を持ってます。やっぱり、やくざか何かの人?あの棒は喧嘩使用でしょうか…。
 …目つき、悪いですし。


 2人とも、自動ドアに手を伸ばしてびっくりした顔をしてます。どうしたんでしょうか…?
 まさか、自動ドアに驚いているとか?いやいや、まさかねぇ……?
 自動ドアがないなんていったいどこの田舎ですかって話ですよね?

 店に入った瞬間、やくざさんはその鋭い眼光で店内を見渡します。
 ……おお。立ち読みしてたおじさんがびびってます。
 あのおじさん、なかなかどいてくれなくて困っていたんですよねー。いい気味です。
 ポニテさんは物珍しげにきょろきょろしてます。
 近くで見ると眉毛が多少太めですね。ま、そこも可愛らしくていい感じです。
 2人は商品を見ながら、仲良く一緒に店の奥へと入っていきました。





「どうしようか、殷雷……。考え付かないよ、師匠が喜びそうなものって…」
「ううむ……」

 飲料の補充のために冷蔵庫の中にいると、あのポニテさんとヤクザさんと思われる2人の会話が聞こえてきました。
 冷蔵庫と飲料の陳列棚は繋がっていて、扉を開けて話していると中に話し声が筒抜けになっちゃうんです。
 それにしても、なんだか深刻そうですね。どうしたんでしょうか……。



 冷蔵庫から出ると、ポニテさんとヤクザさんが困った顔をしていました。
 あ!ポニテさんがこっちを向きました!!

「あのっ!」
「はい、何でしょうか?」
「”珍しいもの”ってありませんか!?」

 ……はぁ?め、珍しいもの?
 ポニテさんは真剣な目で私を見つめてます。そのとき、ヤクザさんが口を開きました。



「なぁ、もういいんじゃないか和穂よ。酒かなにか適当なものを買っていけば龍華も納得するさ。店員よ、強い酒かなにか置いてないか?」
「お酒…ですか…。この店にはないんですけども…」

 お酒を売るのには免許がいるのです。ここの店長はめんどくさがりなので、とらなかったのですよ。
 その代わり…

「おつまみになるようなものでしたら、ありますけど?」

 ……お酒がないのになんでおつまみがあるのか、って聞かれると困っちゃうんですけどね。
 強いて言うならば店長の趣味でしょうか。店の利益を優先させることが出来ないのです。店長は。
 そうして私が持ってきたのはポテトチップス。通称ポテチ。それも九州しょうゆ味。地域限定商品です。
 おみやげって言ってましたし、2人は旅行者だと踏んだのですよ。




「こんなものはいかがでしょう?」

 袋を2人に差し出すと、不思議そうな顔をされました。

「なんだ?それは」
「何って…ポテトチップスですよ」

 まさか知らないなんてことは…ない、ですよね?

「ポテト…ああ、芋の揚げ物か」

 ……芋の揚げ物!?
 ポテチのことをそんな風に表現する人は初めてです。そんな風に言われると別ものみたいですね…。
 意外に古風な人なのですね、ヤクザさん。

「ふぅん…芋の揚げ物かぁ」

 私が1人感動していると、ポニテさんがポテチの袋を見つめて言いました。

「おいしいの?」
「おいしいですよ」

 もちろん、おいしいに決まっているじゃないですか!っていうかおいしくないものは薦めませんよ!
 人気なんですよー、これ。一度食べたらやみつきになるっていうくらい。私も結構好きです。
 東京に引っ越した友達なんか、コレを箱で送ってくれなんて言うんですよ!?
 箱買いですよ箱買い。コンビニでやるなって話ですよね。
 ちなみにその友達は東京の友達にもあげたりして、順調にファンを増やしてるそーです。送る箱の数も順調に増えてってます。……はぁ。



 おっと、思考がそれてしまいましたね。

 ふと私が我にかえると、いつの間にか私とポニテさんとヤクザさんはレジの前にいて、会計をしていました。
 …いつの間に!?恐るべし、無意識。

「290円になります」

 2つお買い上げです。袋に入れて手渡して、お金をしまっていると、ポニテさんが腰につけていた瓢箪の栓をあけました。っていうかそんなもの今時どこに売っているのでしょうか…?ちょっと欲しいなー…なんて。

 キュッポン。うーん。いい音です。
 そのまま横目で見ていると、な、なんと!ポテチが瓢箪に吸い込まれていったではありませんか!!

 み、見間違いでしょうか!?

 ポニテさんはというと、何事もなかったかのような笑顔です。
 今のは幻覚!?…う〜ん。

「さ、そろそろ帰ろうか殷雷」
「何言ってるんだ、もちろん見物してから帰るに決まっているだろう」
「え、そうなの?」
「折角の機会だしな」

 ポニテさんとヤクザさんは仲良さそうに会話してます。
 仲良しさんなんですね。ほのぼのカップルって感じです。




「ありがとうございました〜」
「お世話になりました」

 ポニテさんが頭をさげると、赤い布で結ばれたポニーテールがぴょこんと揺れました。
 ああ……かわいいです。やっぱり。





 そうして2人は恐る恐る自動ドアをくぐっていきました、とさ。ちゃんちゃん。