本日のお客様:苗床 かのこ、椿 初流 様
「いらっしゃいませー」
紺色のブレザーに赤いネクタイ、白いシャツとちょっと珍しいチェックのスカート。
一回も染めたことがないような黒髪はよく言えばショートヘア、悪く言えばちびまるこちゃんカット。老眼鏡でよく見るような下半分が黒フチのフチなし眼鏡をかけて、いつも仏頂面でおにぎりを選んでる。
そんな彼女はうちのコンビニの常連さん。私はこっそり眼鏡マルコちゃんて呼んでます♪
そんな彼女、今日はすこし様子が違ってました。
まず、お昼に来ました。
というか、いつも外が真っ暗になってからやってくるんですよね。高校の下校途中に立ち寄るにしてはちょっと遅すぎる時間なので、一回家に帰ってからか、塾の帰り道に来ていると睨んでます。
それが今日、なんとお昼に来てるんです! しかも後ろから同じ制服を着た男子高校生が……!
ででで、デートですか!? しかも下校デートってやつですか!? いや、昼だから授業をさぼって・・・・・・ですか!?
うらやましいです! 青春まっさかりですね! 私なんて今彼氏なんていないのに……て、いやいや。
私のことなんてどーでもいいんでした。よく見ると彼氏さんはかなりのイケメン! まるで雑誌に載っているイケメンモデルみたいな感じです。てか、この前4人で来たときにいた黒髪俺様系さんじゃないですか? 2人付き合いだしたんですね! 着崩した制服がワイルドだぜぇ〜って感じです。眼鏡マルコちゃん、なかなかどうしてやりますな!目立たない地味な存在と見せかけて実は、男を虜にする何かを持っているんでしょうか……ぜひ私にもご教授いただきたいものです。
そんなワイルドモデルさんを引き連れた眼鏡マルコちゃんは、いつものようにおにぎりコーナーへと向かったのです。
その後ろをさも当然と言わんばかりについていくワイルドモデルさん。かれは相当、独占欲が強いタイプだと見ました! だってほら、ただついていっているように見えますけどさりげなく店内の男性を横目でチェックしましたよ! でも彼にとって脅威となる男性はいなかったんでしょうね。まぁ、ワイルドモデルさんほどのイケメン度なら大抵の男性は太刀打ちできないと思いますけど。
店内の男性チェックを終えたワイルドモデルさんは、そんな彼氏に全く気づかない眼鏡マルコちゃんに視線を戻しました。さりげなく横に立って距離をつめて、ってワイルドモデルさん自然です。やり手なのはワイルドモデルさんの方ですかね! いやいや、きっと2人してやり手なんですよ。やり手カップルです。向かうところ敵なしです。ある意味バカップルよりも最強ですね!
「……お前、もしかしてそれが今日の夕食かよ」
「そ。バランスいいっしょ? 炭水化物、海藻、野菜、たんぱく質」
さも当然のようにして眼鏡マルコちゃんが差し出すのはおにぎり2つ
。
片方は高菜おむすび、そしてもう片方は鮭おにぎりでした。炭水化物=ご飯、海藻=海苔、野菜=高菜、鮭=たんぱく質、ってことですかね?
「そりゃあんまりだろ!!」
あ、思わず心の声が。じゃなくて、ワイルドモデルさんの声でした。
でもあんまりですよねー。たしかにぱっと聞けばバランスとれてるように聞こえますけどムチャクチャ偏ってますよその食事。ていうか割合おかしいだろ! って栄養とか勉強してない私でも思いますもん。
「えー、普通だよこれぐらい。むしろ今日はバランス良い方だって!」
「そういう食生活だから成長しないんだろお前は!?」
「なっ、椿くんセクハラだよそれ! いくら私の胸が小さいからって……」
「そーゆーことを言ってんじゃねぇ! 頼むから貧血おこした今日くらいは身体にいいもん食ってくれ」
「だからアレは貧血じゃないって」
「いーから! 今日の晩飯は俺がおごるから滋養のいいもん食ってくれ」
「……まぁ、椿君がそこまで言うのなら」
「よっしゃ決まった、俺んち行くぞ」
「え、椿君ち? それはちょっと悪いんだけど……」
そんなバカップル、もとい眼鏡マルコちゃんとワイルドおかんモデルさんは非常に微笑ましい言い争いをしながら結局何も買わずに帰っていったのでした。
「ありがとうございましたー」
あー、私も彼氏欲しいなぁ〜〜!