今日のお客様 : イールズオーヴァ 様
金色の目。
「いらっしゃいませー」
言って、顔を上げた瞬間、私の目は入ってきたお客様に釘付けになりました。
とても、とても、綺麗な満月のような瞳をしていたのです。
そんな色ははじめて見ました。どこの国の人でしょうか?
なんてついつい見ていたら、その満月さんと目が合ってしまいましたっ!
………慌てて視線を逸らしたんですけど。
しばらく仕事をして時間稼ぎをしつつ、ちらりと満月さんに視線を向けます。
「………!!」
み、み、見てます!見てます!見てますよぉおお!?
な、なんでしょうか!?
何か満月さんの気の引くことでもこちらにあったのでしょうか!?
そもそもどうしてさっき見た場所から一歩も動いていないんですかっっ!!!???
ギギ、と首を戻して、視線を店の奥の方に固定します。
うううううう、なんだか視線が痛いですっっ。
必死に視線を固定したまま意味のない動作を手元が繰り返していると、どうやら満月さん動いたようで、視界の片隅に現れます。
どうやら店を一巡しているみたいですね。ぐるぐると廻っています。
なんだかとっても真剣な眼差しです。
一体何を悩んでいらっしゃるのでしょうか?
…ちょっとだけ気になります。…気になりますけど…出来ることなら早く出て行って欲しいです…っっ!!!
だってだってだってっっ!!!!!
なんだか知らないんですけど…ちらちらと満月さんを窺うたびにばっちりしっかり目が合うんですよぉおおおおお!!!!!
こ、こ、こ、怖いですっっ!!
早く出て行ってくださらないでしょうか!?
っていうかいっそ逃げ出しちゃダメですか!?
…だめ、です…よね…?(泣)
なんで、なんで私1人の時に限ってこんな人が来るんでしょうか…。
はぁ。
「こんにちは」
……………っっ!?
「ぅぁっっ!!…こ…こんにちは!!!!!」
ま、まままま満月さんっっ!いつのまにそこに!?
なんでいきなり目の前に現れるんですかっっ!?ちょっと今本気で心臓飛び出すかと思いましたよ!?
し、しかも口はにっこりと弧を描いている割に目が全然笑っていないように見えるのは私の気のせいですか!?
っていうか…はい。真面目に怖いですっっ。
「落としましたよ」
そう、満月さんが差し出したのは確かに私が持っていた筈のボールペン。0.38mという少しばかりマニアックな細さのペンです。
これがまた堪らない書き心地なんですよ。なんだかとってもお勧めです。
…なんて!!それどころじゃないんですよね!!
「あ、ありがとうございます…っ」
恐る恐るボールペンを受け取って、ちらりと満月さんを見つめます。
う…やっぱり目が合ってしまいます。
し、親切な人、で、すよ…ね…?
あの、その…それはいいんですけど…な、なんで、動かないんでしょうか、この人…?
ま、満月さん、おかしいですっっ。っていうかやっぱり怖いですっ!
滝汗だらだら流しながら、営業スマイル必死に浮かべていると、満月さん、にこりと笑いました。
…目は笑っていませんでしたが。
「気を付けてくださいね」
注意して下さっているのに、全く持って全然心が篭っていないように感じるのは私だけですか!?
………怖っ!!!!!
それから満月さん、何も言わずにふいと視線をずらし、くるりと体を半回転しました。その、先にあるのは、い、入り口…!?
え、あの………な、何も買ってませんよね?
一体全体何をしにきたのでしょうか?
頭の中を踊る"?"マークを必死に押さえつけて
「ありがとうございましたー」
と、何とか営業スマイル貼り付けたのです。
…引きつっていた自信はありますけど。
け、結局…何も買いませんでしたよ!?
しかもなんですか!あの、去り際のにやりとした笑みはっっ!!!!!
そう、満月さんはわざわざ一度振り返って、にやりと笑っていったのです!
こ…こここここ怖すぎます!
コンビニ店員としてこんなこと言ってはいけないとは思いますが………もう、来ないで欲しいです。
お願いします。
神様仏様八百万の神様にお願いします!
…………なんて私の必死の願いもむなしく、毎日の如く満月さんと顔を合わさざるを得なくなるのでした。
―――号泣。そんで合掌。