今日のお客様　：　うずまきナルト＆日向ヒナタ　様




　私は、一介のコンビニ定員です。
　…………その前にただの女子高生です。
　た・だ・の・か弱い人間なんです。

　あの、だから、そんな…。

「こいつの命が欲しけりゃ金をだせぇええええええええええ！！！！！！！！！」

　いやあああああああああああああっっ！！！！！！
　なんでなんでなんでいきなりコンビニ強盗なんですかぁあああああああああ！？！？！？！
　しかもしかも私一人のときに限ってっっ！！！！
　大体新人の私なんかをどうして一人にするんですか！？
　店長のバカっっ！！

　なんてうっかり現実逃避しそうになったら、すっごい目で睨まれてしまいました！
　強盗さんの腕の中で、丁度来ていたお客様の黒髪の女の子が震えていますっ！
　あんな可愛い女の子を泣かすなんて許せません！断固許しませんっ！
　男の風上にもおけない輩ですっ！！

「とっととしやがれぇええええっっ！！」

　……………………いやぁああああああっっ！！
　はいっ！します！だからそのナイフを収めてくださいぃ！！
　強盗さんのぶっとい腕に抱えられた黒髪さんがかわいそうですっっ！！！
　あわあわとレジからお金を出します。
　本当は、本当はレジの下についた非常ベルを押したくて押したくて仕方がないんですけど…っっ！
　でも私の後ろにも一人ついてるんですよっ！？

　こ、怖すぎますよぉおおおお！！

「早くしろっ！」
「はっ…はいぃっっ！」

　怖い怖い怖い怖いですーーーっっ！
　ほとんど涙目で手をひたすら動かしました。

　もう怖くて怖くてっ！
　だ、だ、誰か！早く警察呼んでくださいいいいいっっ！！！！
　なんて、思った瞬間。

「…ねぇちゃん、金、落ちてるってばよ？」

　………………………………混乱の中に響いた声に、なんとなくピキリと固まってしまいました。
　いえ、だって、その………な、なんですか！？その冷静な突っ込みっ！
　しかも目の前にいるのはまだまだ小さな子供じゃないですかっっ！
　あわわわわわ…！！！き、危険ですから下がってくださいってば！

「あ、ああああ危ないから…っっ！！！下がってくださいぃぃぃっ！」
「んだぁ！？このクソ餓鬼はよぉ！？」
「クソガキ…ね」
「？」

　ふ、と空気が冷えた気がするのは気のせいでしょうか？
　強盗さんたちは何も感じなかったのか、にやにやと笑いながら、金髪の小さな男の子を見下ろします。
　小さな男の子の姿が、消えた、と思ったのは、その次の瞬間でした。

「ええ！？」
「なぁ―――っっ！！」

　バタンと。

　聞きなれない音。

　こ、これは…。
　ええっと、男の子のローキックが強盗さんの膝を蹴飛ばし、上体を崩したところで顎を拳で突き飛ばしたということでいいのでしょうか？
　バタン、と倒れ伏した強盗さんはピクリとも動きません。見事な一発ＫＯです。
　唖然として動けないままの私を放って、バタンバタンバタンと、続けて３回ほど音が鳴りました。

　………………強盗さんが、見事に床に突っ伏してます。

　おおう。
　な、何をしたかは分かりませんが、とりあえず、男の子が動いたのだけは分かりました。

「な…貴様…っっ！！！」

　クソガキ、が、貴様にバージョンアップ。
　ううう。なんだか思考が麻痺してます。変なことしか頭に浮かびません。
　人間驚きすぎると馬鹿になるってことでしょうか？

「別に、コンビニ襲おうとなんだろうと構わないけどさ、俺のいないところでやってよ」

　小さいのに、凄い不敵です。不敵すぎます。
　ははっ。と笑った男の子。
　明らかな嘲笑に強盗さんが顔をゆがめました。
　強盗さん、怒り心頭です。すごい、怖いです。
　なんだか私、ぷちんと緊張の糸が切れました。
　よく分からないけど、よく分からなすぎて、小さく、笑いました。

「で、出来たら…私のいないところでやって欲しいかも…」

　あは、…ははは。
　なんなんですか今日は？いつもどおりにバイトして、いつもどおりにバイト終了するはずだったのに。
　金色の男の子、私の声に、くるりと振り返ります。
　その顔が、あんまりにも冷めていて、あんまりにも感情が伺えなくて、ぞくりと全身が震えました。

「ねぇちゃん、結構薄情」

　自分だけがよけりゃーそれで万事ＯＫってか？
　あっさりと言い切られて、その言葉に、ちょっと、もう、なんだか、泣きそうになりました。
　すっごくすっごく冷たい響きだったんです、っていうか自分はいいんですか！？自分は！
　…まぁ、やっぱり人間自分が大事じゃないですか！出来ることなら私のいないところで強盗やって欲しいです！
　だから。

「は、は、薄情で結構ですっっ！大体私みたいな新人のバイトを一人にする店長が悪いんですよ！？よりにもよって今日強盗しなくってもいいじゃないですか！！！！！」

　あははははははは。もう嫌。

　ううう。なんだかもう本当に涙が出てきました。

　だってあんまりじゃないですか。

「だっ、大体…！！可愛い女の子を人質にとるなんて最低なんです！！！男として最低です！！いいですか！！！？？男として生まれてきた以上男としての役割があるんです！！それは女の子を怯えさせる為じゃありません！！！！！女の子を守るためです！！それが可愛い女の子なら尚更です！！！！そんなことも出来ない人なんて最低です最悪です人間のカスです！！！！！！」

　ああもう何を言っているのか自分でも分かりません。
　でもでも私は可愛い女の子が泣くのは嫌いですっっ！！許せませんっっ！！！！
　男ならそれを守って見せろホトトギス！？

　ぼろぼろ泣きました。
　そりゃあもう泣きました。
　もう目の前の強盗さんも人質さんも金色さんも見えません。

　なんとなく強盗さんは唖然としているようでした。
　なんとなく人質さんは苦笑しているようでした。
　なんとなく金色さんは呆れているようでした。

「えーーーーっと。………まぁ、そんなわけだから、ヒナタ、とっととしろ？」

　ひなた？

「………人質、っていうのもまた、中々味わえないから楽しいかな、って思ったんだけどね」

　………………。
　…………………………………。
　………………………………………………………………………………………？

　ゴン。と、形容しがたい、なんとも痛そうな音がしました。

「でもまぁ、仕方ないかな」

　しゃくりあげながら、必死に涙を手の甲でこすって、顔を上げました。
　誰の声でしょう。

「ねぇちゃん。生きてる？」

　………………………生きてます。

「あんまり泣くと目が腫れるわよ」

　………………………知ってます。

　私の目の前には、金色の男の子と、黒髪の女の子が立っていました。
　その足元に、女の子を抱えていた筈の強盗さん。
　さっきまで人質だったはずの可愛い女の子は、面白そうな、よく分からない微笑を浮かべて私を見ています。

「……人質さん……………生きてます」
「そうね、生きてるわ」

　っていうか人質さんってなんだよ、と金色さんが軽くふきだしました。

「金色さんも」
「………それって俺のことか？」
「………はい」
「………止めろふざけんなてめえ」
「………すみません」

　私、多分ほとんど無表情でした。だって、金色さんに言われたこと、ちゃんと覚えてます。
　た、助けられた、んだって思いますけど！なんかすっごく腹がたちますっっ！！
　段々謎の興奮が蘇ってきました。ムカつきます！！
　…と、私は息巻いてたら、急に人質さんが笑いました。

　そして一言。

「変な人！」
「「誰が！？」」

　ううう。なんだかぴったり重なっちゃいました。
　なんだか悔しいです。
　なんですか！？なんですか！？

「変なのは貴方たちですよ！強いなら最初から人質になんてならないでください！！心配するじゃないですか！！！」
「なんで？」

　見事な切りかえしです人質さん！なんて言っている場合ではないのです！

「誰だって目の前で可愛い女の子が泣いていたら嫌でしょう！！！？？」

　少なくても私が嫌です！
　絶対に嫌です！！
　でも、私の主張はあんまり２人に通じていないみたいでした。

「嫌？かなぁ？」
「さぁ」

　ううう。なんていう子供たちなんでしょうか！？
　親の顔を見てみたいものですっっ！！
　なんだかなんだかすっごく悔しいです。

　普通しますよね！？心配っ！！！！

「ま、よくわかんないけど、そろそろ俺ら逃げるわ」
「………そうね。私たち、こんなところで警察には捕まりたくないから」

　そう言って、２人はひょいと強盗さんたちの体を乗り越えました。
　そ、そういえば警察を呼ばなければいけませんっっ！

「あ、監視カメラ壊れてるし、俺たちのことは見なかったことにしといて」
「私たちは何もしなかった。こんなところにいなかった。強盗たちは通りすがりの大男がぶっ倒した。けれど大男は急いでいるから貴方に処理を任せて去っていった。ま、そういうことで」

　人質さんが浮かべていた微笑の意味は、私にはわかりませんでした。
　でも、金色さん、すっごく人の悪いにやりとした笑顔で言いました。

「ま、子供が２人、強盗を倒したなんていっても誰も信じないから、別に言ってもいいけどな」

　ううう。確かに誰も信じてくれなそうです。私だって、目の前で見てなければ信じません。
　それくらいに現実味のないことを目の前の２人はやってくれちゃったのでした。

　ああもう私には意味がわからないです。
　でも、２人は私のことなんてもう見向きもしませんでした。
　何事もなかったかのように自動ドアを潜り抜けて去っていったのです。


　ちゃんちゃん。








　………………………ああもう警察呼ばなきゃ…………。