今日のお客様 : 昴&小桃 様




 今度は何を揚げましょうか…
 冷凍庫を覗いていると、自動ドアが開く音がしました。

「いらっしゃいませー」

 すかさず顔をあげてご挨拶。接客の基本ですからね。
 ……あれ?
 お客さんが腰からさげてるアレ、もしかして…

「それ、剣ですか?」

 珍しい、雪のような白い髪をショートにして、フリルがいっぱいついたかわいらしい服を着た可愛い女の子。
 髪の色に青い目が映えて鮮やかです。

「うん、そうだぞ」

 男の子みたいな口調で答えてくれちゃいました。…って、剣!?
 え、えーと……こういう場合は……

「すいません、当店では危険物の持ち込みは禁止されてます…」

 無意識のうちに、よく聞くフレーズがでてきちゃいました。

「あ、そうなのか?じゃどうしよう…」
「よろしかったらお預かりしますが…」

 ようは、持ってちゃまずいんですものね。預かっておけば問題ないということにいたしましょう、うん。

「じゃ、これも預けとく?」

 そう女の子の横から私に言ったのはカッコいい系のお兄さん。黒ずくめの服装にピアス、両手には手袋を嵌めています。
 びじゅある系ってやつでしょうか。
 ……そして手に持っているのは…黒くて…何だか鈍く光る……銃!?
 えっ?ちょ!まっ!

「はい。んじゃこれね」

 きゃぁあああああああああっ!
 び、び、びじゅある系さんはあっさりそう言って、私に拳銃を持たせると女の子と一緒にすたすたと店に入っていきました。
 あ、あの、めちゃくちゃ手が重いんですけど…っっ!

 いや、でも、まさか本物の筈がありません!
 こ、この銃だって空気銃かガス銃に違いありませんっ!よく子供が遊んでいるあれですよねっ!
 剣だってきっと切れない筈っ!
 そして彼らはきっと劇団かなんかの演劇の役者なんですよ!

 ……白いプチドレス姿な女の子に剣…。剣を持つお姫様?
 ……黒ずくめに銃。あの人は殺し屋かなにかなんでしょうか……。






 気を取り直して、私はやりかけの仕事を続けようと冷蔵庫を開けました。
 次は、から揚げでも作りましょうか。

 ここでは、フライドチキンとかの揚げ物を作って販売してます。
 売れ始める時間帯に入る前に、ある程度作りおきしておかなきゃいけないんですよね。
 フライヤーにいれてタイマーをセットして、と…これでよし。あ、フライヤーっていうのは揚げ物専用の機械みたいなものです。
 これで揚げた揚げ物をホッターっていう保温機能がついたショーウィンドウみたいなものに入れて販売するんです。
 …と、から揚げがそろそろいい具合ですね。いいにおいがしてきました。揚げたては絶品なんですよー。
 揚げたてが食べれるのはコンビニ店員の特権のひとつですよね!幸せを感じる瞬間です。




 ホッターにから揚げを入れようと振り返ると……み、見てます!見てますよ!!
 プチドレスさんがガラスにへばりついてます!
 揚げ物を見つめるひたむきなまなざし、そして口元に光るよだれ……う、飢えてるんですね……。

 ついつい凝視してたら、女の子は視線に気付いてふいっと横を向きました。
 頬がほんのり赤くなってます。か、可愛い……。
 微笑ましく見守っていると、冷たい視線を感じました。女の子の後ろに黒ずくめの人影が立ちます。

「……小桃、食べたいの〜?」

 殺し屋さん!怪しげな微笑と共に、さりげなく後ろから女の子の腰に手をまわしてます!やり手です!
 殺し屋じゃなくてホストですね。ホストさんと呼ぶことにいたしましょう。

「べ、別に……平気だ…」

「子桃が欲しいんならなんでも買ってあげるよ?」

 怪しげな微笑パワーアップ!台詞だけ聞いていると援助交際をしているオヤジのようです。
 …と、こっち見たっ!?

「じゃ、店員さん。コレ全部ちょうだい」

「は、はいっ!?」

 ぜ、全部って、ホッターにはいってるやつ全部ですか!?結構いっぱい作ってたんですけど…。

「全部ね」

「いらないぞ、昴!どうせこんなには食べきれないんだから…。
それに!いくらかかると思ってんだ!お金は大事にしないと!」

 ホストさんの服の裾を握りしめて訴えかける女の子。……ぐっ、とくる光景です。

「いいんだよ、小桃。残りものは野郎どもに食わせればいいんだから」

 ホストさん、輝かんばかりの笑顔で結構ひどいこと言ってます。
 プチドレスさん、愛されてますね……。






「ありがとうございましたー」
 結局、全部買ってかれてしまいました。

 甘やかし放題の彼氏としっかりものの彼女。
 結構、お似合いなカップルなのかもしれませんね……。




 はぁ…それにしても。
 最初から全部揚げなおしですか……。