今日のお客様 : キサラ&散葉 様
自動ドアが開く音がして振り返ると、あの名物カップルが立ってました。
金色の髪が綺麗な女顔の彼氏と、着物みたいな服を着た可愛い可愛い彼女。
私はこのカップルをスパ夫婦と命名したのです。
え?だって、インスタントのスパゲッティばっかり買っていくんですよ?
スパ夫婦に決まってるじゃないですか。
…とは言っても、まだ2人は夫婦どころか恋人同士でもないみたいなんですけど…雰囲気だけ!はまるで新婚夫婦みたいです。
スパ夫婦は2人仲良く手をつないで、微笑みあいながら歩いてきます。
その笑顔が眩しいです!
かんっっぺきに2人世界です!!
その初々しいっぷりが堪りません。
もうどうしましょう!?いえいえどうしようもありませんが。
なんだかこっちが恥ずかしくなってきちゃいますよ!!
…ていうか、恥ずかしさMAX!勘弁してくださいな!
う〜ん。恥ずかしいからあんまり来て欲しくないんですけど、2人の関係は気になります。
来て欲しくないんですけど来て欲しいんです。全くもう。
だって、私が知らないうちに2人の仲が進展してたらなんか悔しいじゃないですか!
謎に葛藤する私の気持ちを知るわけもなく、2人はカップ麺コーナーへと突入します。
だってスパ夫婦ですから。
もうスパしか目に入りません。
それでこそスパ女王&スパ王(?)です!
はたきをパンパンかけていると、2人の会話が静かな店内に響きます。
「あ、スパ女王の新商品や。『魔界風味』やて。おいしいんかな?」
「気になるなら、お昼ご飯はそれにするといいよ」
「うん、そうするー。きーちゃんは何にする?」
「チルハが決めて」
「え、いいん?」
「うん」
うわーうわー、なんかすごく従順ですよ金髪さん。
すごく幸せそうに微笑んでますけどいいんですか、『地獄風味』とか書かれてるの選ばれてますけど。
……いいんですね。それで幸せなんですね。
それでこそスパ従者です!…あれ?降格ですね。
っていうか、スパ業者…もうちょっとマシなもの作りませんか!?
何だか並べるこっちもドキドキなんですよ?
売り残ってしまったらどうするんですか!…まぁなぜか、いちおうこれでも人気商品だったりするんですけど。
全くもう世も末ですね。昇天する気まんまんですか。
…あれ?話ずれましたね。
おおっと、スパ夫婦2人、レジに向かってます!
これは危険!
先回りをしなくてはなりません。なんせ私はコンビニの店員ですから!
っていうかそういえば…あまりはたきかけをしていなかったような………。
…ん。うん。気のせい気のせい。私は真面目な店員ですからね!
で、やっぱりスパ夫婦が持ってきたのはスパおんりー。
「お箸をお入れいたしましょうか?」
私が尋ねると、2人顔を見合わせます。
スパ女王、スパ従者をちょっぴり見上げます。一つ、首を傾げて。
スパ従者、スパ女王に微笑みます。
………なんですか。この人たち(汗)
「うん、お願いしますー」
………通じちゃってますよ。どうしましょう…。
ちょっと…誰かこの人たちどうにかしてくれませんか?
っていうか、女王様に言わせるなんて従者の風上にも置けません!
スパスパ一族に怒られますよ!っていうか私が怒りますよ!
箸もスパも入れた袋を差し出したら、スパ女王が手を伸ばします。
むむ…。ここでもスパ従者は役立たずですか!?
「ありがとうございましたー」
と、頭を下げて、あげたら…!?
い、いつのまにか袋をスパ従者が抱えてます!!
……ええ!?私、さっきスパ女王に袋渡しましたよね!?
…なんていう早業でしょう。これはもう神業です。従者のくせに。
うわ………しかもいつの間にか手を繋いでます。恐ろしい早業。これぞ神。尊敬です。その手の早さ。
万引きには使わないでくださいね?
と、いうわけで、スパ夫婦は今日も微笑みあいながら去っていくのでした。
ちゃんちゃん。
はぁ…なんか疲れちゃいましたね。バカップルに生気吸い取られちゃった感じです。
…………もう来なくてもいいですよ?
…………や?やや?
もしかして私、あの袋にお箸いれちゃいました?
な、なんていうことでしょう!!コンビニ店員にあってはならない失態です!
……きっと、あのスパ夫婦の雰囲気にあてられちゃってバカになっちゃったんですね。
おそるべし、スパ夫婦………。