021 病 (NARUTOスレ ナルト×テマリ)


「…鬼の霍乱か?」

 愛しい恋人の、第一声がこれだった。
 ぐったりとうなだれて、ある意味予想通りの展開に息を吐く。それだけのことがひどくだるかった。

「それ、ヒナタにも言われた。シカマルも」
「なんだ。じゃあ私が最後か」
「そういう、問題じゃ、ないだろ…」

 テマリは不思議そうに俺の顔を覗き込んで、首を傾げる。今日は結ばれていない細い髪が、さらりと流れて、甘い香りがたちこめる。
 身体が熱い。頭の芯が痺れるような感覚。
 香りが鼻腔を突き抜けて、全身を支配する。まるで麻薬のようだ。
 欲しくて溜まらなくなる。手に入れたら、もっと欲しくなる。終わりを知らない。
 熱に浮かされた思考回路は一向にまともに物を考えてくれない。行ったり来たりを繰り返し、先に進むことのない思考。ぼんやりとしながらテマリを見上げると、じっと見られていたことに気付く。

「…何?」
「ふーん…。思ったより、弱ってるみたいじゃないか」

 面白そうに笑われて、苦笑した。
 そう、確かに弱ってる。
 自分の感情が制御できないし、制御しようとも思わない。
 欲しいんだ。
 欲しくてたまらない。
 誰にも渡したくなんかない。
 病というものは中々に厄介だ。初めてかかるものだから、どうしたらいいのか分からない。

「テマリ」
「何だ?」
「欲しい」
「……何が?」
「テマリが」

 手を伸ばしたら、テマリが握ってくれる。ひんやりとして、気持ちがいい。多分それは自分の熱が高いというだけの話だけど。

「バーカ」

 くすくす笑う声が、耳に心地よくて、甘い香りを胸いっぱいに吸い込んだ。



 06/12/17
 















 022 痛み (ガラクタの世界設定 スレヒナ独白 ダーク注意)


 痛くない。

 そう、念じる。
 痛くない。痛くない。
 何も感じない。
 身体中を這い回る手のひらの感触なんて感じないし、
 背中の傷ももうふさがりかけてるし、
 どの傷も骨までは届いていない。
 致命傷にはならない。
 痛くなんかない。
 気持ち悪くなんかない。

「―――っっぁ」

 痛くない。痛くない。痛くない。
 奥歯を噛み締める。声を殺す。自分の腕を掴んで爪を立てる。
 大丈夫。
 痛くない。

 慣れろ。
 感情を殺せ。
 痛覚を消せ。
 声帯を封じ込めろ。
 動きを止めろ。
 人形のように。

 人形になれ。
 

「…っぅ!!」


 考えるな。感じるな。

 手のひらを、噛む。強く。

 涙を見せるな。
 顔を見るな。
 抵抗するな。


 ―――夜が、明ける。



 06/12/18
 















 023 傷口 (NARUTO シカマル×テマリ)


「痛いんですけど」
「痛くしているからな」

 あっさりと断言され、口をつぐむ。相手が不機嫌だというのは火を見るよりも明らかだった。
 傷口を消毒し、ガーゼが覆う。テープで固定し、丁寧な手つきで包帯を巻かれた。意外に器用だ、とはさすがに口にしない。

「二度とするな」

 言葉と同時、包帯が結ばれ、丁度傷口の上をはたかれた。

「―――っっ!!!!!!」

 なみだ目で抗議する男に、女は楽しそうに笑った。
 別に考えて庇ったわけじゃない。ただ目の前にそういう状況があって、危ない、と思ったら身体が動いてた。それだけのことだ。
 だから多分、また繰り返すだろう。
 女もそれを分かってはいるだろう。
 ただ、それでも、自分の所為で傷を負わせたくはない、というだけで。

 感謝の言葉はなくとも、心配されているのは分かったから、腹の底からこみ上げてくる笑いを涙と共にこらえた。



 06/12/19
 














 024 墓場 (オリジナル)


 新月の夜。
 空はどんより暗く、星もほとんど出ていない。うっそうとした空気の中を歩いて、目的の場所へたどり着く。
 墓地の隅、こぢんまりとした墓があった。
 一輪の百合を暮石の前に置く。ただ、ぼんやりと墓石を眺め、しばらくしてからボソリと呟いた。

「お前が墓に来るなんて珍しいな」

 声に、何の気配もしなかった場所に生じる人の気配。振り向かずとも、誰であるかは分かる。毎日のように感じている、既に慣れ親しんだ者の気配だ。

「それを言うならそっちもだろー。お互い様さー」

 現れたのは、細身の男。長く伸びた髪が風に流される。男は横に並び、暮石を見下ろす。
 彼にとっては見覚えのない名であろう。この暮石の主と会ったのは、この男と出会うよりももっと昔のことだ。思った通り、見覚えがないらしく、眉をしかめる細身の男。

「誰?」
「大事な人」
「ふーん」

 頭を下げた。
 当時、命よりも大事だと思った人。
 守りたいと思い、守れずに死んでいった、優しい人。

「かえんぞ。会社の企画案でも考えんべ」
「おー」

 暮石を離れ、一度だけ振り返った。

 昔、守れなかった者の面影を探すように。



 06/12/20
 相棒の真夜中シリーズにお邪魔してる彼ら。

 















 025 命 (オリジナル 吸血鬼と仙人)


「死ぬってどんな感じよ」

 少年犯罪が云々とか、死体遺棄がどうのこうのとか、セクハラ教師がどうのこうのとか、そういうことをだらだら流していたテレビの前、ぼーっとそれを眺めていた少年がいきなり言った。
 読んでいた漫画から顔を上げて、また戻す。
 今、漫画の方がいい所なのだ。

「なーーー聞けってー」
「聞いた」

 漫画を熟読中の男は、少年を見ることもなく答えた。少年がムッとして、テレビの前で立ち上がる。それを察しながらも、男は漫画を読み続ける。その漫画の背表紙を見て、少年がにやりと笑った。

「その主人公、誰と引っ付くか言ってやる。最後どうなるか言ってやる」

 愛憎どろどろ昼ドラ展開の漫画で、主人公の相手役と思われるキャラは4〜5人いる。主人公はありがちに色んなキャラをうろうろしていた。
 そして、とうとう誰と引っ付くかという最終巻である。
 バリバリクライマックスだ。

『止めて…っっ! 私の為に争わないで…っっ!!』
『お前の気持ちを聞かせろよ!!』
『俺とこいつと…どっちが好きなんだよ!!』

 そこまで読んで、顔を上げた。
 ホスト顔負けの、やたらきらきらしい顔で哀愁漂わせ、男は、漫画を閉じた。
 結末を人から知らされてしまうほどつまらないものはない。

「どんな感じっつてもな…。俺が死んだの相当昔だから覚えてないな」
「えーーー人生の転換期だろー? ちゃんと覚えとけよー」
「いや、普通死んだら終わりだし」
「君はそれでも吸血鬼かー」
「それを言うなら、世俗にまみれまくって性欲バリバリのお前は本当に仙人かよ」
「おうよ。修行して仙人にまで上り詰めたお偉い仙人様様さー」
「仙人、ってのは、死んで魂浄化してなるっつー話も聞いたことあんぞ」
「あー、ま、そんな話もあるなー」

 ぽりぽりと頭をかいて、少年はごろりと横になる。

「けどまー、僕は違うしさー」
「…ま、命の定義なんて人それぞれだろうし、死ぬときの感じも人それぞれだろうよ」
「そんなもんかー?」

 不満そうに口を尖らせた少年、すなわち仙人に、吸血鬼たる男はにやりと牙を見せて笑った。

「どーせこれから先味わうことなんてないんだから、考えるだけ無駄だろ。命がない俺たちにとってはな」
「………うーん。それもなーなんかなーまーそうなんだけどさー」

 それでもなお不満そうに、仙人は天井を仰ぐ。
 分からないものは分からない。命なんて概念、自分たちは持っていないから。

「不老不死ってのもさー得なのかそうでないのか微妙なとこだよなー」
「まーな。世の中そんな物だろ」
「つまんねー」
「ったく。死ぬ思いがしたいなら、そこら辺の塔の天辺から飛び降りてこいよ」
「えーだって僕飛べるしー全然新鮮味ないしー?」
「っつか、仙人も心臓抉り出して燃やすなりなんなりすれば死ぬんじゃね?」
「それを言うなら吸血鬼の君もそうじゃないのかい?」
「「…………………」」

 長い沈黙の間、テレビがニュース終了を告げる。

「ま、する気は起こんないな」
「だねー」

 仙人の少年はテレビの前にストンと腰を下ろし、吸血鬼の男は漫画の世界へ戻った。
 番組間の宣伝が『命は大切に』と訴えていた。



 06/12/21
 裏話なんですけど、吸血鬼は昔仙人の血吸ってて、一般的な吸血鬼退治方法じゃ死ななくなってます。日光も平気です。限りなく不老不死に近い存在です。一般的な吸血鬼と違う存在ですが、血を吸うのは一緒です。

 














 026 死神 (死神は夢を抱く設定)


 ―――木の葉には黒い死神が住み着いている―――

 一番初めに、そう、言い始めたのは誰だったろうか。
 木の葉の忍ではない事は確か。

 暗殺戦術特殊部隊 葉月

 木の葉で最強と謡われ、暗部の中でも特殊である存在。
 どの班にも所属せず、どんな任務であろうとたったの一人でこなし、誰よりも短い期間で解決するという。
 木の葉の忍すらその存在を疑い、暗部間にてその正体が噂となった。

 噂は噂を呼び、憶測は憶測を呼びけれども最終的に、全て闇に放られ、"裏の火影"…そう、畏敬の念を込めて呼ばれるようになった。

 そのうち全身を黒く染めた長髪の暗部、葉月の姿は他国にも広く知られるようになり、白に銀をこらした狐面は恐怖と絶望をもたらすものとなった。
 その姿を見たものは死を悟るのだという。
 確実にもたらされる死に、絶望するのだという。

 その事から、"黒の死神"と―――。



 
 今日もまた、その名が忍の下で囁かれる。
 絶望をもたらす死の使者の名が―――。



 06/12/22

 














 027 刈り取る者 (NARUTOスレ カンクロウ)


 クリスマス、なんて馬鹿馬鹿しい。
 忍がそんなものに浮かれてどうする。国が全力を上げて、何かを祝おうとも、忍にとっては関係ない。
 クリスマスも、バレンタインも、無関係だ。
 現に、そんなもので浮かれている里は木の葉の里くらい。

 きらきらと輝く光を見ながら、冷たくせせら笑う。
 馬鹿馬鹿しい。忍の質も落ちたものだ。

 そうして、一緒にされてはたまらない、とでも言わんばかりに、一人の忍が木の葉に背を向ける。金に近い薄い茶色が、闇に溶けるようにして揺れた。
 その背に、声がかかる。

「あらぁ、もう、帰るの?」

 生理的嫌悪を促す声だ、と、思った。
 全く嬉しくはないが、聞き覚えのある声だった。
 …と、言うか、一度聞いたら耳から離れない。独特の音程のつけ方とか、時々ひっくり返るところとか、気持ち悪くて、忘れられないだろう。

 全く持って胸糞悪い。

「A級指名手配犯が何の用じゃん?」

 振り返って、この世でもっとも嫌いだと断言できる人間を振り返る。
 長い髪も、長い舌も、変な服も、全てが以前見たそのままだった。
 ただ、どれだけ奇妙で気持ち悪く、意味の分からない人間でも。

 1つだけ確信している。
 この男は、強い。

「下見に来ただけよ。私はね。貴方はどうなのかしらぁ?」
「人を待ち合わせしてるだけじゃん? そんで元木の葉がくれの忍がなんの下見じゃんよ」
「気になるかしら? 砂には関係のない話でしょぉ?」
「残念ながら、あんたの下っ端が砂でうろうろしているのくらい分かってるじゃん。うちは木の葉ほど甘くないじゃん?」

 にっこりと笑って、心の中で目の前の人物に止めをさす。そう出来たら、ひどくすっきりするだろう。
 何か言おうとしていた、その言葉は聞かなかった。
 聞かないまま、その場から移動し、小さく笑う。

 音がどんな動きをしているのか、なんて知っている。
 今会った男がどんな動きをしているのかも。

 彼は追ってこないだろう。今木の葉で騒ぎを起こすのは、彼にとって不都合でしかないのだから。自分は、彼に一瞬で殺されるほど弱くはない。大掛かりな結界や、術を使えば、火影に悟られることくらい、自分も彼も分かっている。
 だから、決着を付けるのはもっと後だ。
 そう、それは中忍試験という、大蛇丸の形作る計画の中。

 きたるべき中忍試験を思い、小さく笑った。
 そのときになれば、あの、胸糞悪い男とおさらばできるだろう。
 このクリスマスに浮かれきった里に入り込んで、木の葉が何も知らないことがよく分かった。大蛇丸の動きなんて全く察知しておらず、今ある平和に胡坐をかいている。
 街を彩るイルミネーションの裏で任務を行うのは、非常に容易いことであった。外敵に警戒すべき門番、見張りも気が緩んでいるのが良く分かった。
 彼らのこの幸せは、中忍試験に刈り取られるだろう。
 大蛇丸、という存在によって。

 笑って、地をけった。
 普段疎ましいとしか思わない、散々浴びた血の雫さえ、心地よかった。

 中忍試験だ。
 中忍試験になれば、この平和に浸かりきったぬるま湯の木の葉を絶望に突き落とすことも出来るし、大蛇丸という自分にとって全く持って胸糞悪い人物を排除することが出来る。

 それまでの下準備を整えよう。
 大蛇丸に木の葉を狩らせる為に。
 俺たちが、大蛇丸を狩る為に。

 小さく笑って、己の姉との合流地点に急いだ。



 06/12/25
 カンちゃんと蛇さんのみの出演。


 














 028 漆黒の鎌 (NARUTOスレ テマリ+ヒナタ)


 切る、そしてなぎ倒す。それをするだけの形。それしか出来ない形。
 有利であるのはそのリーチの長さと切れ味ぐらいであろう。武器としては、非常にお粗末で、質素なものだとヒナタは思った。
 けど、目の前で踊るように飛び跳ねる彼女が使えば、ひどく機能的で、武器として最高のもののように見える。長いリーチを活かし、敵を懐にいれず、一振りで、幾つもの命を奪う。きっとこの武器は、乱戦の中でこそその効力をもっとも発揮するのだろう。もっとも、彼女にかかれば一対一の勝負でも、この武器で全てを終わらせるに違いないけれど。
 黒い、真っ黒な、漆黒の大鎌が、夜の闇を切り裂く。

 ヒナタは、それを見るのが好きだった。
 だから今日も、戦闘には参加せず、ずっと、それを見ていた。

「…ヒナタ、今日も見てるだけ?」
「うん」
「…本当に、何してんだか」
 
 一応、砂と木の葉の暗部同士の合同任務ではあったけど、旧知の仲である彼女の実力はよく知っているし、何よりも見ているのが大好きだから、ヒナタは見ているだけ。
 彼女、砂の暗部であるテマリは、にこにこと笑っているヒナタに苦笑して、漆黒の大鎌を握りなおした。


「ねぇ、テマリ」
「んー?」
「下忍の時の鉄扇は使わないの?」

 ヒナタの言葉に、テマリは己の鎌の餌食となった者たちを術で燃やしながら首を傾げる。

「同じ武器って言うのも、芸がないだろう?」
「じゃあ、どうしてその武器にしたの? 本当は存在しないよね、そんな武器」

 リーチが長いばかりで、ただただ重く、スピードが落ちる上に腕に負担もかかる。無駄な形状であり、得たる長所も見当たらない。そんなもの、武器として存在する必要がない。
 テマリでなければ使いこなせないだろうけど、彼女ならどんな武器でも使いこなせただろう。もっと、武器としての性能に優れたものが。

「存在しないだろうな。武器としてはほとんど使えない」
「じゃあ、どうして?」
「むかーしな、サソリが言ってたんだ。死神の持つ大鎌は、使者の魂を狩り、ちゃんとした場所に送り届けるのだと。奪っといてそれを願うのもなんだが、怨まれても嫌だと思ったんだな。当時の私は」

 そのときから、テマリの扱う武器は漆黒の大鎌になった。初めのうちは使いこなすことも出来ず、ただ重さに振り回されているだけだったが、次第にそのリーチの長さや、使い方に慣れ、手放せないものになっていった。今は、術で重さを調節している。振り上げる時の重さ、振り下ろす時の重さ、なぎ払う時の重さ、己の下へ引き戻すときの重さ。それは下忍時の鉄扇と同じである。

「テマリのその武器、大好きだよ。」
「私も気に入ってる」

 お互いに、笑って、もう今や何もない地に背を向けた。
 漆黒の大鎌が、暗闇の中、ひっそりと輝いた。



 06/12/26

 














 029 流血 (オリジナル 小話っていうか詩 自殺注意)


 流れる。流れる。
 これが流れつくせば、命が消える。
 そんなことちゃんと分かってる。
 でも、とめない。
 だって、死にたい。
 いなくなりたい。
 存在する意味なんて、私にはないじゃない。
 親もいない。
 兄弟もいない。
 子供もいない。
 友達もいない。
 誰も彼もが私を置いていった。

 いらない命なんてない。
 そんなの嘘っぱちだ。

 私はいらない。
 私を知っている人なんてもう誰もいない。
 誰かの心に生き続けるなんてない。
 そんな人はもう皆死んでしまった。

 早く早く。
 流れ落ちて。
 全部流れて。

 この赤い血は、私を皆のところに連れて行ってくれる。

 だから早く。
 あの世とこの世の道を作って。



 06/12/27

 














 030 吸血 (NARUTOパラレル現代吸血鬼 サスケ×いの+サクラ)


 吸血鬼なんて、いる筈ない、って思ってた。
 だって、今現在21世紀。
 ロケットだって宇宙行っちゃうし、空だって飛びまくり。
 今はバリバリ科学の時代なんだから。
 そんな、非科学的なものいるわけないじゃないのよ。

 どうして、そう、信じさせてくれないわけ?

「そんなこと言われてもさー。仕方ないじゃない? えーじゃあ何よー。サクラは私に死んで欲しいってわけー?」
「だ、誰もそんなこと言ってないでしょ!!!!」
「言ったも同然だわー。10年来の親友に向かって、化け物ーだの、吸血鬼ーだの、来るなーだの、ひどすぎるわー」
「ほ、本当のことじゃない!?」
「あら嫌だ。サクラったらーそんなこと言っちゃうと、血、吸っちゃうわよー」

 ぺろりと、唇を舐めて、10年来の親友は笑う。
 昔なら、悪戯っぽい子悪魔な笑顔、と思ったかもしれない。

 けど、彼女がいるはずなんてないはずの吸血鬼だと知った今では別だ。
 しかも同級生でひそかに憧れていた存在まで人外と知ってしまった。
 全然知りたくもなかったのに、知ってしまった。

 だからダッシュで逃げる。

「いの」

 もう止めろ、とでも言うように、静かにたしなめる声。少女はぺろりと舌を出して、けらけらと笑う。

「サスケ」
「……………」

 名前を呼んだだけ。それだけで、サスケは自分がするべきことを悟る。サスケはいのに支配される存在であり、彼女の命令には従わなければならない。絶対的な存在である彼女の意図は大体読める。何十年彼女にこき使われているのか忘れたが、それくらいのことが出来るようになる程度には共にいる。
 小さなため息をついて、笑う少女に首筋を差し出した。
 サスケの首筋を、這うようにいのの指がなぞり、唇が触れる。
 触れた場所から舌先が覗き、次いで、鋭利な牙が覗いた。牙が、皮を突き破り、血の玉が首筋に浮く。ゆっくりと、ゆっくりと、肉に食い込み、血が滴り、それら全てをいとおしむ様に………啜る。
 ず…、ずず…。
 ひどく、音が大きく響き、柱の後ろから覗いていたサクラが、緊張に唾を飲み込んだ。

 その様はひどく卑猥で、妖しくて、魅惑的で…。
 男にしては白いサスケの首筋を辿る赤から目を離せない。

 いのの唇がサスケの首筋を流れる血の全てを拭い、ようやくサクラは我に返った。

「な、な、なにしてんのよっっ」
「えー吸血行為ー? いつかサクラにもしてあげるわー」
「絶対お断り!!!!!」

 噛み付くように言い切ったサクラに、残念そうにいのは唇を尖らせた。

 だって、サスケ以来で、初めて気に入った人間だ。
 早く自分のものにしたい。
 早く早く。
 サクラの血が欲しいな。

 笑った少女に、サスケが小さなため息を漏らした。



 06/12/28

 
















 021〜030まで。
 少しでも楽しんでいただけたでしょうか?
 もしそうであるなら幸いです。
 宜しければ拍手でも一言メッセージででも、気に入ったところを書いていただけると嬉しいです。
 励みになります。

 やっぱり一日一題はなかなか難しい。
 何よりも最近は三人称と一人称が安定しなくて、どうにもこうにも駄目だなぁ。文章を書くのって難しいなぁ。
 関係ないけど、天上天下の15巻買って、この人この一冊でどれだけ裸描いたんだろうと思う今日この頃です。そして何匹まろ虫を描いたんだろうか…とか。
 兄貴がやってる時に思い出すっていってたよ。なえないんだろうか。分からない人は分からないままでいいと思うよ。