051 一番好きなひと(NARUTO シスコンハナビ+ナルヒナ) ハナビは、遠くに姉の姿を見つけて走り始めた。通り過ぎる人たちが、ハナビの珍しい行為に目を丸くして見守る。日向宗家の期待を一心に背負い、それを受け止めて育った小さな子供は、滅多に取り乱すことのない、冷静沈着な全く持って子供らしくない子供であるというのに。 「あねうえ―――。姉上!」 3日ぶりに見る姉の姿に、ハナビは興奮を抑えきれない。力が弱く日向宗家の期待に添えなかった日向ヒナタは、本来入る必要もなかった忍者アカデミーに通い、前年度に下忍となった。日々下忍として任務を受けているヒナタは、次第に中期長期任務も入るようになり、家に帰らない事も多くなった。 それは、姉と姉の班が上司や火影に認められているのだと言う証明だが、ハナビにとっては実に関係なく、ひどく寂しいものだった。姉はとても優しくて、ハナビにとって誰よりも大切で、誰よりも大事な人だったから。 けれど、足が、急に動かなくなる。 姉と共に居る男。 木の葉の里に珍しい眩しいまでの金色の髪に、ハナビは目がくらみそうになった。姉の班の者ではない。これまでハナビと直接接する事はなかったが、その存在は知っている。 前回の中忍試験で、ハナビの従兄弟である日向ネジと戦い、勝利した男。日向始まって以来の天才とまで呼ばれた、日向ネジを打ち破った…男だった。 その男と、共にいる姉は、ひどく幸せそうに笑っていて。 あれは、誰? 本当に、本当に、日向ヒナタという存在なの? ぐるぐる、ぐるぐる、視界が回る気がする。 気持ち悪い。 どうして? 唇を噛む。 悔しい。悔しい。悔しい。 あの男は、自分が知らない姉の顔を知っている。 自分の知らない顔を姉にさせることが出来る。 涙が出そうになった。 悔しくて、悔しくて、悔しくて。 ハナビの一番好きなひとは日向ヒナタ。 けれど。 日向ヒナタの一番好きなひとは……あの、男? 「姉上…っっ。…姉上! 姉上!…あねうぇ!!」 「―――ハナビっ?」 涙が止まらない。本当に、本当に子供のように、姉を呼ぶ。 気づいて。 私に気づいて。 遠くに行ってしまわないで―――。 ヒナタが慌てて走ってくる姿を目に捕らえて、ほっと安堵の息をハナビは漏らした。姉の腰に抱き付いて、後ろにいる金色の髪の男を睨みつける。 なんて憎たらしいんだろう。 なんて腹立たしいんだろう。 ―――姉上は、誰にも渡したりなんてしない。 そう、決意して、男を睨み続けた。 07/01/25 ← 052 視線の先(NARUTO シカマル+テマリ (ナルヒナ)) 隣にいる男の目が丸くなるのが分かって、テマリはくつくつと笑った。 滅多に驚く事のない無感動な男の顔が、驚愕にゆがむのはひどく愉快だ。 「………テマ、り? あれは…」 奈良シカマルの視線の先。 長い、長い、黒髪を持つ女が優雅に優雅に扇を振るっていた。 その対極に位置する場所で、装飾過多な実用性に乏しい剣を持つのは金色の髪をした男。 男の振るう剣を扇で受け流し、女と男は絡み合う。触れて、触れ合って、次の瞬間には離れ、また剣と扇とを合わせた。 それぞれの着込んだ華やかな装束が翻り、見る者を酔わせる。 「驚いただろう?」 「…ああ。かなり」 舞を踊る2組の男女は、テマリとシカマルの知る人物にひどく似ていた。 顔立ちは確かに違うのだが、その雰囲気や、髪型、気配が、はっとするくらいに、良く似ていた。 「最近砂に来た旅芸人だな。初めて見た時は驚いたよ」 「…この舞…」 「生まれた立場と身分に縛られた哀れな男と女の生き様さ」 まるで誰かと誰かのような男と女。 女が扇を投げ、男が剣を投げ、そうして2人が抱き合うようにして崩れる。痛いほどの静寂で、そのまま終わるのかと思われた時、男の投げた剣を女が取り、女の投げた剣を男が取り、2人は何事もなかったかのように背を向けるのだった。 「2人は互いに別れを告げました、とさ」 テマリの言葉に、小さく、シカマルはため息をついた。それに気づいたテマリが視線で意味を問う。 「あいつらには、見せたのか」 「いいや。酷だろう」 「…そうか」 ほんの少しの安堵をにじませてシカマルが頷く。 「…物語の終わりは、ハッピーエンドがいいよな」 テマリの言葉に、シカマルがまた頷いた。 物語の終わりはハッピーエンドがいい。 視線の先に写る2人の男女と、シカマルの知る彼らの結末は違うものになるべきなのだ。 そう頷いて、シカマルは笑った。 07/01/27 ← 053 こころ(オリジナル 仙人と吸血鬼) 「こーこーろー…」 「………」 「こころー」 「ととろ?」 「こ・こ・ろ」 「とろろ?」 「こころ」 「ところさん?」 「……君、わざとやってるでしょ」 声変わり前の少年の幼い声に、男は軽く肩を竦めた。少年がいきなり意味の分からないことを言い始めるのはいつもの事なので、結構どうでもいい。と、言うか、かなりどうでもいい。 「んで、何だよ」 「って言うか、とりあえずそのコントローラ離してこっち向きなよ」 「いや無理。っつか人にそれ言うならお前もパソコン止めろ」 「僕はながら族なもんでいいのさー」 「意味分からんし」 しばし沈黙。ゲームのコントローラを操る音と、パソコンのキーボードを叩く音が聞こえる。 「たまには恋愛物でも書いてみようと思ったのだよ。君」 「お前が?」 「たまには違ったのも面白いんじゃないかと思ったんだけどね」 少年の副業の一つは小説家で、主なジャンルはファンタジーと歴史物。そこそこの売り上げである。 「心なんて、よくわかんねー」 「お前気持ち悪い」 「だってさー考えて見れば僕この100年くらい恋愛してないしーなんかもー心温まるやりとりっての? そーいう心の通い合いーってのがない気がするんだよね」 「女が家に乗り込んでくるのは恋愛ごとじゃないのか」 「あーれは…遊び?」 「あっそ」 どうでもいいと首を振って、男はテレビの中の敵を撃破した。キャラクターが画面の中をちょろちょろと動き、物語が進む。 「ゲームの中の奴らは心の入ったデータで、俺たちは心の入っていないデータなんじゃねーの」 それが人の手によって意図的に作られたものなのか、そうでないかの違いだけ。ゲームの中のキャラクターは表情豊かに、笑って、悲しんで、傷ついて、苦しんで、怒って、そうして人間と同じ行動をする。自分たちもまたそうして作られたものと同じように笑って、悲しんで、ゲームの中のキャラクターと同様に行動する。 「っは。夢も希望もねー」 「あるのは明日と我等が身一つ、ってか」 「…恋愛小説は無理だなー僕。君書いてみたら?」 「あー無理無理。心無い人間に心温まる恋愛小説なんて書けるわけねーだろ」 男の言葉に、少年はうーんと唇を尖らせ、キーボードを避けて机の上に顎を乗せた。 「そんなもんか」 「そんなもんだ」 少年は頷いて、パソコンの電源を落とした。 07/01/28 ← 054 君との距離(オリジナル) 「遠くない?」 「別に」 「じゃあ、近くない?」 「…どっちだよ」 他愛もない言葉のやり取りに呆れ、読んでいた本にしおりを挟んでから顔を上げる。本に熱中していた僕に飽きたのか、ベッドの上にごろりと転がって携帯を眺めている彼女に、ため息を一つ。携帯をいじっているのに、それに反応したかのように顔を上げる。その顔を両手で挟んで、あっけに取られている彼女の唇にキスを落とした。とっさの事に反応できなかった彼女の瞳が閉じられて、受け入れ態勢万全になったところで顔を離す。本当に唇と唇を合わせただけの軽いキスに、彼女はまたぽかんと口を空ける。 「近くね?」 「……近いよ」 「遠い?」 「………遠いっ」 赤くなって言った彼女に、正解と呟いて、その小さな身体を両腕で囲った。 07/02/18 ← 055 手を伸ばせば、すぐ其処に(WA1&F ロディ×ジェーン) 手を伸ばして、また、戻す。 それを幾度か繰り返して、ため息をついた。 それに反応して、目の前に居た少女が顔を上げる。 「ロディ? どうかした?」 「…どうもしないよ」 「…そ?」 少女の目には疑問の色が宿ってはいたけれど、それ以上の言葉は止めておく。 この感情を上手く言葉で表すことは出来そうにないから。 手を伸ばせば、すぐ其処に君が居るのに、届かない。 あともう少し、が、届かない。 ねぇ、ジェーン。 どうして君は、そんなにも無邪気にここに居るの? ほんの少しだけ、僕が手を伸ばしたら、君に触れることが出来るよ。 ほんの少し身体を動かしたら、君に届くんだ。 ねぇ、分かってる? ねぇ、分かってよ。 僕、いつだって君を掴む事が出来るんだよ? それなのに、どうして君はそんなに無邪気に笑えるの? ほら、手も、足も、身体も、君とは違うんだ。 僕が男で、君が女の子だってこと、ちゃんと分かってる? ちゃんと理解してる? 手を伸ばせば、すぐ其処に君が居る事。 手を伸ばせば、すぐ此処に僕が居る事。 06/02/19 ← 056 ひとつ(NARUTOスレ サスケ×テマリ?) 「約束をしようか」 「……何」 「お前が、いつか私を見つける事が出来たら、お前の勝ち。出来なかったら、私の勝ち」 「それは、約束でなく賭けだ」 「そうか? それもそうか」 「…何が言いたい、金盞花」 「…たった一つの約束だよ。サスケ」 「何を、言って…」 「私を見つけて、"金盞花"と。そう呼ぶ事」 「…それに、なんの意味がある」 「意味、はないかな。でも、必要ではあるのかもしれない」 「何だそれは」 「分からないならそれでもいいんだ。お前と私の関係はそれで終わり。それはそれでいい」 「…意味が分からない。ちゃんと説明しろ! 金盞花!」 「金盞花、って呼ばれるのは嫌いじゃない。けれど本当じゃないから。サスケには、本当を知って欲しいんだよ。たった一つだけの、本当の物」 「だから意味が分からないと…!」 「今日からもう、ここにはこない。お前とこの小さな小屋で生活するのは終わりだ」 「金盞花!!!」 「見つけてくれ、な。私を。"金盞花"ではない私を」 金色の髪を持つ女は、力なく笑って、それはサスケが見た事のない部類の笑い方で。 意味が分からなくて。 唐突に手放された事が理解出来なくて。 けれど、たった一つの約束を残して、女は消えた。 06/02/20 暗部任務中のテマリがサスケとが会って、しばらく一緒の小屋で修行したりして、その別れ。 ← 057 傍に、いるよ(オリジナル) 女の身体に火の子が飛んだ。 男の身体に灰が降った。 女は倒れた男の身体の横にひざをおって、静かに笑う。 『傍にいるから』 「口約束はいらない」 火が、男と女を赤々と照らす。 『信じて欲しい』 「言葉はいらない」 女は男の横に並び、仰向きになる。 横を見れば、男の青白い顔。 上を見れば、飛び散る火の欠片たち。 「嘘つきは、もっといらない」 嘘つきな男の隣で、女は笑った。 傍に、いるよ。 最後まで。 男が尽くした言葉の返事を胸に思い、女は目を閉じた。 07/02/21 ← 058 逢えない時間(NARUTOスレ ヒナタ+シカマル) 「ヒナタ、それ違うぞ」 「え、何が?」 それ、と指差された物を見て、ヒナタは首を傾げた。本来ヒナタが探していた物と、全く関係のない物が彼女の手には握られていて、それに気付くや否や、彼女は肩を落とした。 「…調子が出ない」 少女は詰まらなそうに言って、本来の目的の物を探す。特に広い部屋でもないのだが、彼女の目に目標物は見つからない。近くにいるシカマルは、その目標物が彼女の目の前にある事を知っている。 けれど教えようとはせずに、探すフリをしながら小さく笑った。 「早く帰ってくるといいな」 「………」 そうしたらきっと、彼女の不調は治るだろうから。 06/02/23 ← 059 おかえりなさい(TOA ED後 ルーク+ナタリア) そこは、思い出の場所だった。 彼と彼女の、大事な大事な。 帰ってきた彼と、待っていた彼女の再会を見届け、その後は早々に引き上げた。 公務も残っているから、と。 だから、ナタリアはまだルークと話していない。 それでいいとも思った。 何がどうなったと言うわけでもないけれど、彼が帰ってきた事で、整理が付いたのだと思う。 「…ナタリア」 「あら…? ルーク、どうしてこちらに?」 金色の髪の王女様は小さく首を傾げて、赤毛の青年を眩しそうに見上げる。そういった動作はルークが知る彼女の物となんら変わりはなくて、まるで2年間という時間などなかったかのよう。彼女とルークの周りだけ、2年間の空白を失って、つい昨日別れて今日会いましたといったような雰囲気。 彼女の髪は2年前とまるで変わりないけど、ルークの髪は、かつて"ルーク・フォン・ファブレ"で、"アッシュ"だった男と同じほどの長さ。 「……ナタリアは、どうして?」 そうルークは聞いたけど、自身の持つ"アッシュ"の記憶が答えを知っている。 ここは彼女と"アッシュ"の約束の場所。 帰ってきたのはオリジナルでないルークで、彼女が待っていたのはオリジナルのルーク。 だから、約束の場所には彼女しかいない。 ここは果たされなかった約束の場所。 「まぁ…情けない顔をしていますのね」 金色の髪をふわふわと揺らして振り返った王女様は、ルークの顔を見ると同時にふき出して。自覚のないルークは困ったように更に情けない顔になる。 どちらかというと"アッシュ"の姿形なのに、どうしようもなく"ルーク"だ。 「ただここに来たかったのもありますけど、貴方を待っていたのですわ。ルーク」 "ルーク"がどちらのルークをさすのか分からなくて、真っ直ぐに見上げて来る真ん丸な瞳にたじろぐ。 ルークがここにきたのは、"アッシュ"の記憶がそれを求めたから。 「ルーク、貴方にこれを」 ナタリアがそう取り出したのは、一振りの短刀で。 それを見ると同時に思い出したのは、彼女と同じ金色の髪をした馴染み深い女性。 「ナタリアっ!?」 「何を驚くのですか? ルーク。本当は旅の途中で渡そうと思っていたのですけど、中々気持ちの整理が出来なかったばかりにこんなにも遅くなってしまいましたわ」 女性から短刀を渡すのは絶縁の証。 ひどく印象的な出来事だったから、鮮明にその意味を覚えている。 「勿論、貴方が大事な幼馴染なのはこれからも変わりませんわ。貴方がキムラスカ・ランバルディアの王位継承権を持っている事にも変わりありません。わたくしと貴方の立場が変わるわけですわ」 真っ直ぐな瞳は、本当に2年前と何も変わりがなくて。 ただ、うなだれた。 本当は、謝ろうと思っていた。 ルークは帰ってきたのに、アッシュは帰ってこなかったから。 けれど、その言葉はこの場に相応しくないように思えるから、何を言っていいかも分からなくて、ナタリアの持つ短剣を受け取った。 剣を扱いなれているルークにとって、短剣はとても軽くて、その筈なのに、ひどく重く感じる。 何も言えないルークのすぐ横を金色の髪が通り抜けて、慌てて振り向くと、小さな王女様の後姿。 少し歩いて、彼女は足を止める。 「ルーク」 「…うん」 風が強くて、ルークは目を閉じた。 ナタリアもまた、目を閉じた。 「おかえりなさい」 ありがとう、と、ルークは呟いた。 彼女に届いたかどうかなんて分からないけど。 07/03/05 ← 060 約束の場所(NARUTOスレ ナルト+ヒナタ+シカマル(+イタチ)) 「約束は、守るためのもの」 小さな少女の言葉に、ナルトは頷いた。 「でも、もう、無理なのかもね」 頼りなさげな小さな言葉に、シカマルは首を振る。 「アイツは、帰ってくるって言っただろ」 「兄ちゃんは、約束を守るよ」 長い黒髪と、どこまでも落ちていくような深い瞳を思い出す。 彼と彼女と、それから自分達の大事な約束。 里を出た彼と、残された自分達の大事な、大事な約束。 「「「"この場所に帰る事を誓う"」」」 それだけの言葉を頼りに、この世界を生きてきた。信用出来ない忍社会の中で、3人で手を取り合って、彼が帰ってくるのを待った。 けれど彼は帰ってこない。 この約束の場所で、彼らは今日も待つ。 帰ってこない兄とも慕う人物を。 敵、として、彼の人物と再会を果たすのはまだ先のことだ。 07/03/06 ← 051〜060まで。 少しでも楽しんでいただけたでしょうか? 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