061 最果て(1000年後の物語 森に入る前のテイシ)


「なんだ兄ちゃん? あんたこの先に進むつもりなのか!?」

 信じられないと言うように、激しく頭を振った男性に、旅人の青年はただ苦笑して頷いた。
 旅人の青年は、ターバンの合間から零れる長い黄土色の髪を弄りながら、先を見据える。目の前に広がるは森。

「あんた死にたいのか!?」
「いやいや、死ぬつもりはないんだけど」
「死ぬっつってるよーなもんだろ!」
「俺、祓い屋だから」

 青年が口にするのは、妖気に関するものに対するプロフェッショナル。
 目の前の森は、普通の森のようでありながら、どこまでも、どこまでも、普通ではなかった。暗く淀んだ空気は森に立ち込めており、外から見た森の奥は、今が真昼で眩しいくらいに光に溢れているのに反して真っ暗闇。森の近くなら聞こえてもおかしくなさそうな鳥のざわめきも、獣の鳴き声も、何の音もしなかった。ただただ静寂の森。

 そう、呼ばれる森だった。
 入った者は誰一人帰ってこない、近づいた者はそれだけで体調を崩す、音一つしない、近づくものすら恐れ、音を立てず息を潜める。

 ただ、祓い屋仲間の間では、別の名前で呼ばれていた。

「妖魔の森」

 そして。

「最果ての森」

 この森の向こうは誰も行った事のない、正確には、誰も帰ってきた事のない、最果ての地。
 地図にすら描かれぬ森より向こう側。そこに何があるのか、誰も知らない。

「祓い屋だって何人も帰ってこなかった!」
「知ってるよ」

 むしろ、誰よりも知っている。祓い屋の情報網を持ってこの森の事を散々調べた。書物に残されたこの森の情報を探し、幾度も目を通した。得られた情報は少なく、書物以上の情報もなく、出てきた人間もいないとなれば、後は内側から探るのみ。

「あんたおかしいよ…」
「…俺、行きたいところがあるんだよ。子供ん頃からずっと探してたし、先祖代々の悲願なんだ
「行きたいところ…だと?」
「そう。地図にない村」

 にぃ、と笑った青年を、それ以上引き止める事も出来ずに、男は旅人を見送った。旅人の背はまるで吸い込まれるようにして、森の中へ取り込まれ、あっという間に見えなくなった。





 07/03/13
 















 062 風の回廊(TOD スタン×フィリア)


「スタンさん?」

 何故か、回廊のど真ん中で座り込んでいる男を見つけ、あんまりにも見覚えのあるその姿に思わず呼びかける。返事が無い事に首を傾げつつ、ぼさぼさに落ちる金色の滝の隙間から、スタンの顔を覗きこんで、ようやく彼が深い眠りの中だと気付いた。少し苦しそうな体勢ではあるが、本人はいたって幸せそうな寝顔を見せている。

 まるで子供のような無邪気な寝顔に釣り込まれるようにして笑って、フィリアはスタンの隣に腰掛けた。隣、とは言っても、後もう一人くらい間に入れる程度の距離がある。聞こえるか、聞こえないかくらいのささやかな寝息を聞きながら、少し見上げて、窓の向こうに見える空と雲の動きを眺める。窓という枠に切り取られた鮮やかな空は、それだけでまるで絵画のようにとても美しい。

 髪を揺らし続ける風を感じながら、己もまた目を閉じた。
 どれだけそうしていたのか、しばらく何かを考える事も、何かを思う事も止めていたフィリアは、ゆらゆらと髪を揺らしていた風を感じなくなったことで、目を開いた。と、同時に飛び込んできた色彩は先ほどまで見ていた空のような鮮やかな青。それと、豪奢ではあるが、どこか素朴な、温かみのある金色の滝。ぱちぱちとを瞳を瞬かせて、フィリアはようやくそれが何であるか気付く。

「す、スタンさんっっ!?」

 狼狽したフィリアの声に、スタンは、まるで何事も起きていないような、ぼんやりとした顔でゆるく笑う。

「おはようフィリア」

 なんとなく、相手がまだ寝ぼけているのであろうことを察して、フィリアも曖昧な笑みを返した。スタンの寝起きが果てしなく悪いのは、フィリアもよく知るところだ。

「おはようございます、スタンさん」

 もっとも今は既に夕方ともなろう時刻なので、この挨拶は相応しくない。と、わざわざ教えるような者はここにはいなくて、2人はただ緩やかに笑い合った。

「…なんか、ここ、風が気持ちよくって…」

 気がついたら夢の中だった、と、そう言って笑うスタンの言葉に、フィリアは頷いた。彼女もまたここで受ける風を気持ちよく感じていたから。

「風の回廊ですわね」
「うん」

 長い、長い、折れ曲がった廊下の真ん中で、2人は窓を見上げて、そこから反対側の窓へふきぬける風に髪を揺らした。






 07/03/21

 















 063 滅びた街(TOL。ゲーム本編前。セネル×ステラ。ステラ消失後)


※何気にグロい表現とかあるのでお気をつけください。



 どうして、どうして、どうして。

 拳を握りしめ、瞳をきつく閉じて、地に頭をこすり付ける。
 溢れるのは涙か。
 苦しいのは心か。

 何が起こったのか知っている人物はただ一人。
 その理由を知っている人物はただ一人。

 他の者はただ曖昧に理由を察しただけ。
 察した上で憶測を重ね判断しただけ。
 だから、本当を知っているのはただ一人。

 血と泥で汚れた両手で己の髪をわしづかみにし、ただただむせび泣く男だけ。

 死体は無かった。
 彼が生まれて初めて特別な感情を抱き、共にありたいと真摯に願い、愛しいと思い続けた、優しい金色の髪を持つ人。

「ステラ…っっ!!!!」

 元々は小さな街だったのだと、それだけが分かるような廃墟。焦げ落ちた家々。生活の後は既になく、略奪された品物が地に埋もれ、踏み荒らされてた。優しい新緑は既に枝すらもなく、根元からぽっきりと折れていた。わずかな草花さえも残さぬように焼かれ、えぐれた大地。元は人間の形をしていたはずの肉の塊。骨と思しき白い欠片。それにたかる獣達。どこからともなくわいた蛆虫。
 鼻をつく強烈な異臭に吐き気を催し、促す。

 ここはもう彼の知る大地ではない。
 彼がここから逃げた日の大地でもない。

 彼の住んでいた街はただの廃墟。
 隣人だった街人たちはただの肉塊。
 愛しき恋人はその死体すらも彼の目の前に現れない。

 それはある意味幸福であり、死体を弔うことさえも許されぬ不幸。

 これは誰が罪か。
 彼の行いに対する報いか。

 彼には分からない。
 ただ嘆き、苦しみ、慟哭し、生者の成す事を思い出す。
 それは隣人達を優しく弔うことではない。

 死者の意思を継ぐ行為。
 守れなかった愛しい人。
 守れなかった彼女が必死に守った人。
 己を兄とも慕う幼い少女。

 よぎる金の髪は愛したあの人と同じ色。
 あの人が最後に残した言葉は、鮮烈に脳裏に焼きつき、一向に離れようとしない。

 それはまるで彼に対する楔のように。
 彼の罪悪を打ち消してくれる希望のように。

 崩壊した街で。
 己の所為で滅んだ街で。
 初めて人を愛した街で。

 彼は、ただ、生き延びる事だけを考え始めた。

 それは始まり。
 これから始まる事の小さな序章。

 この滅びた街は彼に何ももたらさない。
 死者の街は彼を受け入れはしない。

 導かれるように、巨大な船…遺跡船へ、彼女の妹と共に足を踏み入れる事になるのはまだ先の話。





 07/03/21
 ゲーム過去で兄妹が逃げ延びて、その後少し落ちついた頃に引き返してきたセネル。
 ステラの誠名の意味と絡めたかった。テルネス、"始まりの星"もしくは"導きの星"。
 














 064 空に浮かぶ島(TOA。アニス+ナタリア)


 見上げてナタリアは小さな息をついた。
 隣にいたアニスもまた小さな息をついた。

「栄光の大地、エルドラント」
「ホド島、なんだよね〜」
「そうですわね…」

 揃って、また小さなため息。
 見上げた先にある大地はあまりにも大きくて、けれどあまりにも遠くて、まるで空に落ちた真っ黒な染み。空に浮かぶ、昔ホドと呼ばれた大地。

「ガイ、大丈夫かな〜」
「…どう、でしょうか」
「心配?」
「当たり前ですわ。アニスこそ心配なのでしょう?」
「えーべっつにー? アニスちゃんには関係ないしー」
「そういう顔ではありませんわよ?」

 あっさりと言われ、アニスは一瞬言葉に詰まった。隣を見上げると、更に上を見上げる金色の髪の持ち主。その表情は伺えない。
 彼女が見つめる空に浮かぶ大地は、昔ガイの住んでいた大地。正確に言えば、そのコピーだ。そこに存在していた人間はとっくの昔に滅んでいる。同じ形をした、全く違うもの。

「……辛く、ないのかな」
「アニス?」
「だって、おんなじなんでしょ? なくなったはずの、昔見た光景がそのまま再現されているんだよ?」

 忘れていたはずの光景。これから忘れていくはずだった光景。それの全てが再現され、確固たる姿でよみがえっているのだ。気にならないはずがない。

「辛くないはず、ありませんわ」
「うん…」

 見上げた先のちっぽけなコピーから、2人して視線を外して、力なく笑い合った。





 07/04/13

 
















 065 祈り(NARUTOスレ ヒナタ+オリキャラ)


「あら?貴女、またいらしたんですね」

 鈴を転がしたような、可愛らしい声に、少女はゆっくりと立ち上がった。腰まである、つややかな黒髪が持ち主を追う。枝毛の一つもないような、漆黒の輝きは、同性ですら見惚れてしまうような、妖しいほどの魅力を放っていた。

「おはようございます。シスター」
「おはようございます。黒髪のお嬢さん」

 黒髪のお嬢さん、は、きょとん、としたように首を傾げて、シスターを見る。見上げるほどではないが、二人並ぶとシスターの方がわずかに身長が高い。
 シスターの呼び方の理由に思い至った少女は、少し笑って、名前を口にする。

「ツキハです」
「はい。ツキハさん。おはようございます」

 にっこりと笑ったシスターに苦笑してみせた。ここに通い初めて既に2週間あまり。シスターとは何回も顔を合わせていたが、名乗ったのは初めてだ。

「熱心なんですね」
「………え?」
「昔は違ったようですが、今では宗教にすがる人はあまりいません。こんなことを言ってはいけないのかも知れませんが、私も…あまり熱心じゃないんです」

 ごめんなさいね、と、申し訳そうに微笑むシスターに、ツキハは首を緩く振った。彼女自身、信心は強くない。ただ。

「ここの、空気が好きなんです」

 ステンドガラスによってカラフルな色に染められた光が床に落ち、シスターを、少女を、吊るされた十字を照らす。

「祈る対象を信じてはいないけど、祈る事が好きなんです」

 神を信じてはいないくせして、祈る少女は、そう言ってシスターに笑いかける。
 それは、ひどく儚くて、まるでこの世の生に疲れきった老婆のような笑い方だった。

「自らが強く望むことを祈るならば、それは己を見つめなおす事になるのでしょう。神に対して願うのではなく、自分に対して願う事です。それもまた一つの形ではないかと…私は思います」

 十字架に貼りつけられた救世主たる罪人を見上げながら、シスターは穏やかにそう笑った。少女は、想像していなかったシスターの答えに、少し呆気に取られて、その横顔を見つめる。彼女の目はひどく穏やかで、ツキハと名乗る少女は首を傾げた。

「…変わったシスターですね」
「私、孤児でした。…沢山、祈りましたよ。神様助けてください。どうか、って。でも、無駄でしたから」

 だから神を信じてはいない、とシスターは笑う。
 神に仕える聖職者でありながら、笑ってそんな事を言う彼女は確かに変わっているのだろう。

「祈りましょうか、シスター」
「何に、でしょう」
「旅先で出会った変わったシスターの幸福を」
「まぁ…。では私は祈ることが好きなツキハさんの幸福を」

 そう言って彼女らは、神に向かって祈りをささげたのだった。


 06/04/14
 














 066 迷いの森(オリジナル 魔法使いの旅路 エルディオン&フォルス)


「迷った」

 事実を端的に述べると、おぼつかない足取りで付いてきていた子供が力尽きたかのように崩れた。朝からずっと歩きとおし。全く持って仕方がない事なのかもしれない。
 いつも聞こえてくる小うるさい文句は聞こえてこない。
 磁石を掲げて見れば当たり前のようにぐるぐるぐるぐる回るだけ。
 深い森にさえぎられ、太陽の方角すら定かではない。
 迷いの森と名高いのもよく分かる。

 背後でばてている弟子の限界っぷりを感じ、エルディオン・フォーリスは小さく息をついた。
 迷いの森と呼ばれるこの空間を甘く見ていた、と言うよりは、弟子にレベルの高い試練を与えすぎた事に対してのため息。自分1人でこの森を出ようとするのは、案外容易い事。
 そもそも弟子は試練だともなんとも思ってはいないのだろうが(言っていないから当たり前だ)。
 やっぱりまだ自分で考えて、森からの脱出方法を導き出すほどには至らないか。
 小さな落胆を外には出さず、ただ、素っ気無い言葉だけを口に出した。

「いったん外に出る」
「えっ? でもししょーあんた今迷ったって」
「記憶している場所まで飛ぶ魔法があっただろ」
「あ…」

 言われて初めて気付いたのか、ようやっと目を輝かせてガバリと身を起こす子供。エルディオンが既に魔法詠唱体制に入っているのを見て、慌ててそれを遮った。無理に遮ると危険なので、声だけで。

「ししょー!! ちょっとタンマ!! ストップ! それ俺がする!!」

 はい、と手を上げて主張する姿に、エルディオンは少し考えるようにして、結局一つ頷いた。
 転送の魔法はレベルが高いものだが、距離が遠くないのならそんなに難しいものではない。理論と技術、それに足るだけの魔力があるのなら簡単なくらいだろう。旅をする上で非常に便利と思われがちなこの魔法だが、結構な魔力を消費するため実際使うことはあまりない。常に魔力を一定に保っている事が上級魔法使いの条件で、魔力が枯渇した魔法使いなど何の役にも立たない。それが下手にこの魔法を使って長距離を跳ぶと一気に魔力がなくなる。そういう理由もあって、あまり使う事のない魔法なので、まだまだ未熟な魔法使い見習いのフォルス・ティレクトが使用した事はほとんどない。教えた時と、その後使えるようになるまでの幾度かの使用のみ。
 迷いの森に入って半日以上は経っているが、さほど距離は離れていないだろう。

 無言の承諾を得て、フォルスは顔を引き締める。
 転送の魔法はフォルスにとって比較的扱いやすい部類に入る。一番得意な透視系統の波形であり、その魔術形式を受け継いでいるからだ。ただ、使い慣れたものではないから、制御が甘くなりがちだし、呪文は長い。エルディオンがかつて紡いだ言葉の一つ一つをなぞって、それに付随する動作を加えて、最後に魔法の名前を一つ。

 全ての術式が滞りなく展開し、フォルスの身体が光に包まれ、上手くいった、と安堵した瞬間、気付いた。

「ああああああ間違えたぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!!」

 そうして魔法が完全に発動した。
 展開された術式は間違えなくフォルスを記憶した場所へ運ぶ。

 そう。
 ―――フォルスのみを。

 きらきらと光の残滓を残してフォルスの姿が消えた。
 それを見届けたエルディオンは小さなため息を付いて苦笑する。
 フォルスの使った魔法の、呪文の対象の中にエルディオンは入っていなかった。ちゃんとそれは教えたはずだったが、基本を忠実にこなしたフォルスは、綺麗すっぱり完全に忘れていた。

 魔法の制御の方は完璧であったし、呪文に綻びもなかった。動作も教えた通り。フォルスは透視系統の魔法に相当強いと再認識する。
 最初からそれだけは分かっているのだ。
 エルディオン・フォーリスの魔法を見破った子供など、後にも先にもフォルス・ティレクトしかいないのだから。

 はたから見たとしても気付かないほどの、小さな小さな微笑を浮かべて、エルディオンは呪文を唱えたのだった。




 06/04/28

 














 067 空中庭園(NARUTOパラレル サスケ×テマリ)


「空中庭園、か」

 感情を読ませない冷たい声でテマリは言い放ち、後ろにいたサスケは小さく笑った。
 たった2人だけの動作にまつわる音が、空高く浮かぶ庭園に散る。
 たった2人しか見る事の出来ない、最後の庭園。

「何で笑う」
「別に」

 空に浮かぶ小さな大陸の、小さな箱庭。
 かつて翼持つ人達が作った、小さな避暑地。
 誰一人来ないままに放置され、最初は確かに手入れの行き届いた綺麗な庭園であっただろうに、今ではただ草が生い茂るばかり。

「見たかったな」

 かつて四季折々の花が咲き誇ったであろう庭園を。
 少年の言葉に、少女は小さく俯き、首を振る。

「どうせ私には不釣合いだろう」

 風の国、と呼ばれた空の帝国が滅んで、ただ1人生き残った皇女。
 異端と呼ばれ、かの帝国の中心より遥かに離れた場所へ幽閉された彼女のみが、それ故に生き残った。

「…サスケ」
「何」
「他に生き残りはいないと思うか?」

 幼い頃より、皇女の世話役としてたった一人だけ傍にいた少年。
 少女も少年も、同じ年頃の相手を他に知らず、真実2人だけの世界で、本のみを遊び道具として育った。
 物凄い音が耳を突き破ったそのときまで。

「…さぁな。ただ、居たとしても関係ないな」
「それもそうか…」

 小さな庭園にバサリ、と、音が鳴り、風が起こる。
 少女の背よりはばたきし大きな翼。真っ黒なその翼こそが、彼女を異端たらしめたもの。伸びるだけ伸びた長い黄金色の髪がふわりと波を描き、黒い翼の上に幾筋か垂れた。

「行くのか?」
「ああ。ここに居てもどうしようもない。一生出られないと思っていた場所から出られたんだ。どこにでも行ってやる」
「…そうだな」

 帝国の無くなった原因が何だったのか、彼らは知らない。
 ただ、轟音が鳴り響いた後、小さな牢獄を包んでいたはずの結界が起動しなくなっていた、という事だけが、幼い彼らに分かる事。帝国のあると思っていた場所には何も無く、瓦礫だけが空に浮いていた。ようやく見つけた大陸らしい大陸は小さな庭園。
 バサリ、と音がして、サスケの背に白い翼が現れる。テマリが本来持っていなければならなかった色。

「大地には翼のない人が住んでいるのだろう?」
「そう書いてあったな」
「行ってみようか」
「そうだな」

 2人の巻き起こした風に、生い茂った草花が揺れて、黒と白の羽が舞い散った。





 07/05/01

 














 068 片翼(NARUTOスレ? サスケ×いの)


 翼のない鳥は、もう鳥ではないのだろう。
 飛ぶ事も出来ない、地面を這う生物。
 無様で、面白みのない、ただ、動く物体だった。


 黒色の髪と、黒い瞳を持つ少年は、じ、と上からただ眺め見て、クナイを投げた。動かなくなった。
 金色の髪と、水色の瞳を持つ少女は、しゃがみこんで見守る。しばらくそのままその生物が動く様を見て、問いかける。
「残酷な事するわねー。誰の仕業?」
 少女はにこりと笑って、生物にクナイを投げた。鳥だったものがビクリとして、そのまま動かなくなった。


「何、やってんのー?」

 唐突に背後より声をかけられて、胡乱気な表情をサスケは向けた。黒い瞳に拒絶の色。もっとも、そんなものは誰にも通じた事はない。放っておいて欲しいと思っているくせに、たまに捨てられた子犬のような、ひどく孤独で、寂しそうな表情をするから。だから彼は誰からも放ってはもらえない。
 土でドロドロになった手。掘り返された土の後。その上に突き刺さった一本のクナイ。

「殺したの?」
「………死んで、いた」
「ふーん。そ。私は、殺したわよー」

 後ろ手に持っていたそれを、サスケの目前に突きつける。彼が見た物と同じであろう物。鳥でありながら、空を舞う事も出来ない存在。真っ暗な穴のような瞳が、わずかに揺らいで、そらされる。
 いのは何も言わず、サスケの隣に座り、穴を掘った。つめを伸ばすことは出来ないけれど、淡い桃色に染まったつめ先に土が入り込み、黒く染まった。今朝塗ったばっかりのマニキュアがガタガタになる。

「…殺した、んでしょー」
「……ああ」

 これ以上苦しませる事はないとか、そんな事は考えていなかったとサスケは思う。
 ただ、優雅に空を飛ぶその姿が、土泥に汚れて惨めにみっともなく足掻いている事がイヤで。

「見苦しくて、みっともないわー」
「惨めで、むなしいな」

 そんなの、プライドばかりが高い自分達は耐えられない。
 あんな惨めで無様で見苦しい真似をするくらいなら、一秒でも早く止めをさして欲しいと。

 そんな身勝手で、馬鹿みたいな事を、自分がこの鳥の立場なら望む。

 きっと誰も理解してくれないのだろう。
 きっと誰もが自分を生かそうとするのだろう。
 きっと誰もが必死で助けてくれるのだろう。
 木の葉の自分達が知る誰もが優しいから。

 そして、この鳥の立場になったとき、なんの躊躇いもなく、止めをさしてくれるだろう人間は、今隣に居る存在だけだと確信している。
 その根拠などないのだけれど。

 この鳥の片方の翼はサスケで。
 この鳥の片方の翼はいので。

 意識なんてしなくても、理解なんてしなくても、何も考えていなくても。
 羽ばたく事が片翼では出来ないように、同じだけの動作を、同じようにするから。
 そうでなくては羽ばたく事も出来ないから。
 見栄を張って生きていく事も出来ないから。

「「だから殺した」」

 特に合わせたわけでもなく、それでもびったりに揃った言葉。その頃にはもういのの目の前には、隣の墓標と同じ物が出来ていて。

 2人、それに背を向けた。
 振り返る事はなくて、前を向いたまま、どろどろの手を繋ぎ合う。
 ざらりとした土の感触と、ちょっとした温かさ。
 こつんと肩があたって、小さく顔を合わせた。
 どこか歪んだ、決して他の人間の前では見せないようなぐちゃぐちゃの顔で、いのはサスケを見上げて、サスケはいのを見下ろした。

 自分勝手でどうしようもない人間の自分達は、多分、とことん馬鹿で見栄っ張りで。
 全くもって善人なんかじゃないけれど。

 ―――合わさった瞳に写る自分達の顔は面白いほどにぐちゃぐちゃで、つい笑ってしまう。

 それでも、そんな自分と同じような存在がいるから、どこか安心していて、周りからもたらされる優しさとか、ぬくもりとか、幸せとか、受け入れる事が出来て。

 だから、こうして笑い合える。
 当たり前のように唇と唇を重ね合わせて、自分達が出会えた事に感謝する。
 一緒に並んで、繋がって、どろどろに重なって、馬鹿みたいに夢中になれて、プライドなんてどっかに放り投げることが出来て、安心できて、幸せだと思えるから。
 誰にも見せようとしなかった姿を、意識しなくても分かってくれて、誰よりも近くに居てくれて。
 必ず繋がっている。

 そんな、手放す事など出来ない片翼に出会えた事が幸福だ。

 土で汚れた手と手を強く握り締めて、2人はただ微笑みあった。




 06/05/07
 














 069 刹那の夢(WA無印&F ロディ×ジェーン)


 荒野を歩いていた。
 魔族に荒らされた街を歩いていた。
 魔物の死骸の上を歩いていた。

 走って、転んで、また走って。

「ロディ?」

 声が、聞こえたら、ふっ、と身体が軽くなった。

 ―――ジェーン。

 ここに居るよ、と、呼びかける。
 見つけて欲しい、と、呼びかける。

 いつの間にか足は止まっていた。
 いつの間にか周りには何もなくなった。

 ―――ジェーン。

 薄暗かった世界が少しずつ明るくなって。
 ああ、と、笑った。

 見つけて。
 見つけて。
 ここに居るから。


 安堵した瞬間、意識が途絶えた。

 そして。
 ―――意識が戻った。

「ロディ? 起きた?」

 ほんの刹那の夢だったけれど、怖くて、恐ろしくて、どうしようもなく泣きたくて。
 その全てを、あっというまにジェーンが消してくれた。

 泣いたつもりなんてないけど、余程ひどい顔をしていたのか、いつになくジェーンの顔が心配そうで、ありがとう、と笑った。





 07/05/09

 














 070 箱庭の世界(SN2 ルウ)



 朝起きて、一つ伸びをする。家を出て外に出て、天高く見上げたら木々の隙間から真っ青な空。薄暗い森の中に木漏れ日がきらきらと落ちて、ほんの少し、顔が綻んだ。護衛獣達がそこかしこで動いているのを見ながら、家の裏手にある墓の前に立つ。沢山の召喚師達の名前がここに刻まれ、そして眠っている。彼女の母親も、祖母も。

 少しの間祈りを捧げ、一つ、頷いた。
 俯いていた横顔がぐるりと周囲の森を見回す。
 こげ茶色の瞳に強い、強い、真っ直ぐな光が宿って。
 破裂しそうにばくばく鳴っている心臓を押さえつける。

 ざわりと、森が鳴る。
 まるで森全体が鼓動するように。

 一瞬びくりと身をすくめ、けれども首を振って仁王立ちする。何があっても負ける事なんてないように。
 空気が違う。
 森がざわついている。
 護衛獣たちも落ちつかない。

 何かが起こっている。
 何かが起ころうとしている。
 それが何か分からないけど。

 予感がする。
 自分を取り巻くこの小さな世界が変わるという予感。

 それは胸の躍るような、とても楽しみで、けれど、とても怖い予感。
 変わらなくてもいいのに。
 変化なんてなくてもいいのに。
 それでも、ほんの少し、楽しみだ。

 この変化のない生活は退屈で、喋る相手は護衛獣しかいなくて、本を読むのと召喚術の練習以外にすることはなくて、毎日がなんとなく過ぎていくから。

 家の扉を開けて、小さく振り返る。
 いつもと何も変わらない。
 家の中にある紫の召喚石が目に入って、それを握り締めた。

 何も変わらない。
 今は、まだ。





 07/05/10

 
















 061〜070まで。
 少しでも楽しんでいただけたでしょうか?
 宜しければ拍手でも一言メッセージででも、気に入ったところを書いていただけると嬉しいです。
 とても励みになります。

 さすがに20個一気にリンク作業したらしんどかったです。なんかミスってたら教えてください。