081 久遠の絆(WA無印 ロディ×ジェーン ※死にネタ)


 あたし、は、気にしてないよ。
 どんどん大人になって、あんたを追い抜いちゃって、それで、こんな年になっちゃったけど、寂しいし、悔しいって一杯思ったけど、ね。
 …でも、あんたはずっと、ずっと、一緒に居てくれた、から。
 うん。楽しかった…な。

 ねぇ、ロディ…。
 永遠、なんて、ないんだよ…。
 でも、でもね。ロディが、待っていてくれるなら…きっと、絶対、戻るから…。
 また、会えるから…。そしたら、また、一緒に、居ようね…永遠、じゃ、なくても、いいから…さ。

 ―――また、会おうね。



 それが、ジェーン・マックスウェルの最後の言葉だった。




「大丈夫、ですか? ロディさん…」
「……マリエル」

 墓石の前で立っているロディの後ろにマリエルが立っていた。泣きはらした目で、花を供える。

「…ありがとう。マリエルの花はジェーンも好きだったから、きっと喜ぶよ」
「…はい」

 人という種族と、寿命そのものが違う2人は、愛しい者達との別れを幾度も繰り返してきた。
 だから、いつかこの日が来ることも分かっていた。知っていた。
 それでも…決して慣れるているわけじゃない。
 まして、一生連れ添ってきた相手の死…。
 …悲しくないわけがない。
 …辛くないわけがない。

「ロディさんは…」
「大丈夫」

 思ったよりも、ずっと強い言葉に、思わずマリエルは目を見開いた。そっと、ロディを見上げれば、いつも優しげな赤い瞳が強く光っていた。まるで炎のように、強く、激しく。

「ろ、でぃ…さん?」
「ジェーンはね、帰ってくるよ。絶対に。…だから、僕は、それを待ち続ける。どれだけかかっても、一生かかっても、永遠なんてなくても…僕が生きている限り」

 それは、あまりにも、無謀なことで。
 それは、あまりにも、大変なことで。

 ―――無駄、なことで。

 それでも、ロディの瞳はそれをしようとしていた。

「信じているよ。ジェーン…」

 そう、空を仰いだロディにかける言葉があるはずもなく、マリエルは、ただ、墓石を見つめていた。




 あれからどれだけの時間が過ぎたのか。
 ロディはまだジェーンを待っている。
 待って、待って、それから、探している。

 無駄かもしれないと思ったこともある。
 けれど、諦めることは出来なかった。
 信じていたかった。
 ロディとジェーンの絆は、なかったものではないのだと。
 もしも、自分が朽ちても、きっと、その絆だけは残るはずなのだと。
 
 …だから、ロディは今日もジェーンを探し続ける。
 どんなに姿が違っても…ちゃんと分かる気がするから。





 07/08/01
 















 082 片割れ(NARUTOスレ双子 ナルト×ヒナタ)


「悔しいの」

 唐突な、あまりに唐突過ぎる言葉にきょとんとして、ナルトは首を傾げることも疑問もはさむことも出来なかった。視線を揺らがすこともこちらに向けることも、行動らしいことは何一つしないままに、ヒナタは言った。
 視線はただ、ナルトによく似た少女の寝顔に向けられていて。

「ナルトの妹。ナルトの片割れ。ナルトの大事な人」
「…ヒナタ?」
「私は、この子にはなれない。この子には敵わない」

 それは当たり前のことで。誰かが誰かになれる、なんてあるはずがなくて。
 そんなこと、ヒナタだって分かってる。

 今はただ眠り続ける少女。公的に認められてはいない、ナルトの双子の妹。起きている時はほとんど何も話さず、誰にも懐かない。ナルトやヒナタ、それとごく一部の大人以外は、近寄ることもままならない。
 感情の起伏が乏しく、反応の鈍い少女。それはまるでナルトと正反対。
 2人揃って1人。その言葉こそが何よりも相応しい。

「可愛い子。可哀想な子。愛しい子。悲しい子。大事な子」

 でもたまに、傍にいるのが堪らなく、辛い。
 口角を持ち上げた。それは、いつもの微笑を形作るには少し足りず、歪んだ形にしかならなかった。

 ナルトは何も言わない。
 ヒナタももう何も言わなかった。

 ただただ時間だけが過ぎて、"彼女"が少し瞼を開く。

「…起きた? ごめん」
「………………」

 少女は、ナルトによく似た蒼い瞳をゆるゆると瞬かせて、もう一度閉じた。
 ほんの、少しだけ、先ほどまでとは違う表情で。
 ほんの、少しだけ、和らいだ表情で。

 ヒナタは柔らかな金色の髪を撫ぜて、笑った。
 ナルトの見慣れた、ヒナタのいつもの微笑の形。

「ナルト」
「…なに」
「忘れて頂戴」

 何を、とは言わなかった。
 何を、とは問わなかった。

「先に、行くね」

 奇妙な膠着状態を破ったのはヒナタで、音もなく静かに立ち上がり、ふすまを開いた。ナルトの聴覚がカラリと、ふすまと床の摩擦音を聞き分け、更にはヒナタのほんの僅かもないような移動の音を聞く。

「ヒナタ」

 足が止まる。少しだけ、空気が揺れた。

「俺は多分、こいつがいなくなったら生きれない」

 一度、息を深く吸う。
 だけど、と続けた。

「ヒナタがいなくなったら俺は俺として生きれない」

 彼女がいなくなることは、自分の体をもがれるのと同じこと。
 けれどナルトを"うずまきナルト"として構成しているのはヒナタで。

 ヒナタが死ねば、今の"うずまきナルト"は死ぬ。

 沈黙は長かった。
 2人は長くそのままの体制を保ち、呼吸をしているのかさえも分からない。静かな、静かな空間を壊すのは、ヒナタ。
 何もなかったように、ふすまを閉めて体を外に押し出した。
 そして、そのまま崩れ落ちる。

「…ごめ…なさい…」

 それは誰に対する謝罪なのか、ナルトには分からなかった。
 ふすま越しに聞こえるヒナタの声は弱弱しくて、頼りなくて、手を添えてやりたいと、そう、思ったけれど。

 彼女はそんなことを望んではいないと、確信に満ちた思いがあったから。
 ナルトはただ拳を握り締めた。

 強く、強く。


 ―――片割れの回復を願った。





 07/08/18

 















 083 楽器(TOR サレ×ヒルダ)


 昔、ガジュマにチェロの弾き方を習ったことがある。そのガジュマは何かの罪で捕まっていて、トーマの用が済んだらすぐに殺されてしまったけど。優しいヒトとか、そういうんじゃなくて、彼はきっと誰でも良かったのだ。殺される前に、自分の音を残し、自分の音を奏でたかった。両手足を鎖に繋がれた状態ではそれは無理だったから、トーマに従っていた子供の一人に目をつけた。
 子供の私にそんなことは分からなかった。
 けれど、私は、誰かと話せるのなら、どんな理由であろうと何でも良かった。
 楽器に興味があったわけじゃない。ただ話が出来ればそれでよかったんだ。



「やけに辛気臭い上に暗い音だね」

 唐突にかけられたひやりとする声に、ヒルダは弓を持つ手を止めた。
 朝焼けを背に起きてきた男の台詞に、僅かに苦笑する。
 暗くて辛気臭い音。確かにその通りだ。偏屈で小難しくて頑固がゆえに命を落としたガジュマの残した音だ。

「何の楽器さ」
「チェロよ」
「何の曲」
「名前なんて知らないわ」

 素っ気無く返して、座る自分よりも背の高い楽器をケースの中に仕舞う。

「何、止めるの?」
「ええ。暗くて辛気臭い曲なんて聞きたくないでしょう?」

 皮肉交じりのその言葉に、端整な顔立ちを僅かに歪め、ヒューマの男は小さく足裏で床を鳴らした。サレの滑稽なほどの細さと相まって、それはまるでいじけた子供のよう。

「何?」
「…弾きたいなら弾けば?」

 …なるほど。やけに絡むと思えばそういう事か、とヒルダは直した楽器をもう一度取り出す。ようは、この男が続きを聞きたいのだ。
 そうしてヒルダはチェロを床に立て、もう一度弓を握り締めた。

 弓が弦の上をすべり、流れ出した低い音の羅列は、矢張り暗く、重い。重厚な音の重なりが曲となり、緩やかに緩やかに響き渡る。特に難しい技巧は何もいらない。シンプルで、分かりやすい音。けれど、あのガジュマは何を考えてこの曲を作ったのか。何度弾いても、ヒルダにそれが分かることはない。

 一曲弾き終えても、サレの視線はまだ楽器の上にあった。なんて珍しい。一つ息を吐いて、時間を確認してから、少しだけ笑う。

「リクエストは? お客様」

 茶化したヒルダの言い方に、サレはピクリと眉を跳ね上げたが、皮肉な言葉は出てこなかった。
 やがてサレが口にしたのは、ずいぶんと昔に流行ったような曲。特に難しい曲でもない。低音のピアニッシモから徐々に音量を上げる。次第に音を重ね、力強く鳴り響かせる。滑らかに、緩やかに、音は途絶える事無く次の音へ向かい、重なり合い、響き合い、ヒルダの部屋を震わした。
 唯一人の観客は、曲が終わるまで身動きせず、閉じていた瞳を開いた。音の余韻まで消え去ってから、男は2回だけ手を叩く。

「中々やるじゃないか」

 紛れもない感嘆の声と、生まれて初めて貰った拍手に、ヒルダは目を丸くして…ほんの少しだけ、笑った。
 まだ化粧の一つもしていなかった女の落とした微笑は、サレが今まで見たどんな笑い方よりも柔らかく、まるで子供のように幼い物だったが、ヒルダは気づかず、されも僅かに目を瞠っただけだった。

 それから、ヒルダの部屋からは朝になるとチェロの音が響くことが多くなり、それは部屋の主が不在になるまで、変わることなく続くのだった。





 07/08/23
 














 084 しるし(TOL セネル×ステラ)


「セネル、そろそろ日が暮れるわ。帰りましょう?」

 そうやって自分を呼ぶ優しい声に、セネルは我に返った。木の上から下を覗けば、頭に浮かんだとおりの少女がセネルを見つめていた。

「木の上で居眠りでもしていたのかしら?」

 くすくすと笑うステラに、セネルは苦笑して木の上から飛び降りる。危なげなく着地して、ステラの前まで歩いた。長い金色の髪を揺らして、ステラは悪戯っぽくセネルの目を覗き込む。

「違うよ」
「本当かしら」
「本当だってステラ。信じてくれよ」

 困りきったようなセネルの表情にステラは悪戯っぽい表情を消して、にこやかに笑う。ふわりと花が咲いたような、華やかだけど温かな笑顔。その笑顔が、セネルは好きだった。

「行きましょう? セネル。シャーリィに怒られちゃうわ」

 くるりと身を翻したステラの手を握った。細くて、華奢で、強く握り締めたら壊れてしまいそうな手だ。けれどその手は水の里に迷い込んだ体裁をとったセネルを温かく受け入れ、水の民から庇い、一緒に暮らそうと言ってくれた、とても大きなものだ。
 どうしようもない申し訳なさ。騙しているという罪悪感。裏切っているという背徳感。
 もしかしたら明日には奴らが攻めてくるかもしれない。そうと知っておきながらセネルは何もしない。
 その一方で、この幸せがいつまでも続くんじゃないかと、僅かな期待を抱いている。
 セネルは里にきてから報告をしていないから、なんとかなるんじゃないかと、大丈夫なんじゃないかと、そう、願う。

 自分でも意識しないうちに、セネルはステラの手を引き寄せ、その身体を両腕で包み込んだ。不思議そうにセネルを見ていたステラはあっさりと体勢を崩し、腕の中に収まる。

「せっ、セネル!?」

 狼狽したステラの声にセネルはこたえず、ただ、その細い首筋に顔をうずめた。
 息が詰まるほどに強く抱き寄せられ、ステラは抵抗したが、セネルは身体の大きさの割りに力の強いので、結局はされるがまま。羞恥に顔を真っ赤に染めて、ステラはセネルの表情を伺おうとする。

「ステラ…」
「…何? セネル」
「ステラ…ステラ…ステラ…」
「セネル?」

 セネルは思う。
 君を抱き寄せたこの手が、いつかこの村を滅ぼすのかもしれない。
 そう、思う。
 けれど。
 失いたくない。
 そう思うのも事実で。

「…セネル? ねぇ、セネルったら…。もう、いきなりどうしたの? 子供みたいよ?」

 どうしてこうなってしまったのだろう。
 君に出会わなければ良かった。
 そうすればこんなにも苦しい思いをしなくてもよかった。
 こんなにも誰かを愛しいと思うこともなかった。
 誰かを愛することなんてなかった。

 けれどもう手遅れだ。
 セネルはステラと出会った。
 ステラはセネルと出会った。

 ステラはセネルの幸せのしるしだ。
 幸せというものを全部運んできた。
 セネルの幸せの象徴。

 それは同時に、セネルの罪の象徴でもあって。

「ステラ…ごめん…ごめんな」

 セネルはステラを抱きすくめたまま謝り続けた。何故謝るのか、なんてステラには分からなかったけど。だらりとたれたままだった両腕をセネルの背に回し、撫でた。
 ひどく苦しそうなセネルに対して出来ることなんて、ステラは他に知らなかった。





 07/08/31

 
















 085:あなたに見えますか?(NARUTOスレ ヒナタ→ナルト?)


 ぞくり、と全身に震えが走った。唇が震える。
 歪む口の形を見られぬよううつむき、視線だけは、彼に固定される。

「まっ…すぐ、自分の言葉は曲げねぇ…」

 頭ごなしに否定されようと、誰になんと言われようと。
 彼は諦めない。

 絶対に。

「俺が日向を変えてやるってばよォ!!!!!!」

 なんてすごいのだろう。
 なんて強いのだろう。

 笑う。笑う。笑う。

 ああ。

 見えていますか?
 ちゃんと貴方に見えていますか?

 イタチ兄さん。
 あれが貴方の守った人。
 ナルト君…ううん。

 ―――うずまきナルトの姿だよ。





 07/09/07
 














 086 海の道(NARUTO現代パラレル 日向うちは擬似家族)


 長い長い橋の上、ヒナタはふと足を止めた。すぐ近くで聞こえる車の轟音から意識を逸らし、はるか下へと視界を転じる。

「どうした?」

 幼馴染の少年の声に、知らず足が止まっていたのだと理解する。われに返って顔を上げてみれば、心配そうな少年の顔、その奥にイタチとネジの姿。
 3人ともがヒナタを心配そうに見つめている。…もっとも一番幼いサスケを除いた2人は普通の人間に比べてはるかに表情が乏しく、今もほかの人間から見ればただの無表情にしか映らないだろう。

「あっ、あの…っ。ご、ごめんなさいっ」

 あわててサスケに頭を下げて、イタチとネジの元へ向かう。ちょうどその途中で、サスケがヒナタの腕をつかんで止めた。

「いいって。それより、何?」

 先ほどまでのヒナタと同じようにして視界を下へ。橋の下で流れるのは、深い深い海の色。イタチとネジも、足を止めた2人の視線を追って、下を覗き込んだ。
 何の変哲もない、ただただ広がる海。
 波もなく、穏やかに、穏やかに、ただ、広がる。

「あ、あのね…。海を…歩いているんだな…って…」
「はぁ?」
「うっ、海をねっ…、直接歩いているわけじゃないんだけどっ。…で、でも…海の上を、歩いているなんて…す、すごいよね」

 ひろい、広い、海の上。
 昔なら絶対にできなかった事。人間一人の力では絶対にできない事。
 たくさんの人間がその知恵と技術を持って、長い長い時間をかけて、可能にしてしまった海の道。

 それはとてもとてもすごいことに違いないのだけど、いつもあまりにも何気なく使っているから、当たり前のようにそこにあったから、気づくことはない。

「…フーン」
「…さ、サスケ君?」
「それじゃあヒナタ。海を歩こうか」
「あ、い、イタチ兄さん」 
「…今度海に遊びに行くか」
「ネジ兄さん」

 いつの間にやら近くにいた年長組はヒナタとサスケに少し笑って、それぞれの背を押す。視線は海に注ぎながら。
 どうやら他にも橋を渡ってきた人間が居たため、少しだけ足の止まった2人を急かす気になったらしい。
 イタチに背を押されながら、不意にサスケが問いかける。

「…海、好きなのか?」
「えっ? …う、うん。好きだよ…」
「そうか」

 橋を渡る前とはほんの少し違った気持ちで、4人は海の道を渡り終えた。
 楽しそうな、幸せそうな笑顔で。





 07/09/26

 














 087 境界線(あやかしと人設定 ナルトに出会う前のヒナタ)


 境界線を引く。
 あちら側とこちら側。
 小さな小さな携帯電話を媒介に。
 人と人を繋ぐものを媒介に。

 あちら側の者達が入ってこれないように。
 こちら側の者達が迷い込まないように。

 小さな小さな声がした。
 なんだろう、と目を細める。
 あちら側の世界。
 携帯の向こう側の世界。
 少し迷う。
 けれど迷ったのはほんの少しだけ。

 小さな声はあまりにも頼りなく聞こえたから。
 小さな声はあまりにもか細かったから。
 小さな声はあまりにも悲しそうだったから。

 携帯電話に血を一滴。
 ぐるりと世界が回る。
 ぐるりと世界が反転する。

 ここはもうあちら側。
 人でない者の世界。

 境界線を乗り越えた。
 小さな声を探して。
 小さな声の正体を探して。
 探して。

 小さい小さい迷い子を発見した。





 07/09/29
 














 088 眠れない(NARUTO現代パラレル カカシ×テマリ)


 大きな大きなため息をついた。
 それはもう見事なため息だった。

 視線の下には一人の少女。
 金色の髪を4つに縛った、受け持ちの生徒の一人。
 覚えが良くて物分りが良くて、教師受けが良くて、下級生にも人気があって、同級生からは憧れと嫉妬を受けて、そんな、漫画に出てくるような出来すぎた感のある少女だ。
 身長も170近く、すらりと細いわりに、出るところはバランスよく出ている。顔立ちは可愛いというよりも綺麗で、近寄りがたい雰囲気。

 それはそれは優秀な生徒で。
 そんな生徒が居眠りなんてあんまり珍しくて。
 まさに注目の的。 

「………おーい」
「………」
「………風影テマリさーん」
「………」
「………せんせーとしては、そろそろ起きて欲しいんだけどー」

 ピクリとも動かない。
 大きなため息。

 寝かしといてやれよ、的な視線がチクチクする。
 よほど珍しい事だから、きっととても疲れているのだと、もしくは気分が悪いのだと、誰もが好意的な解釈をする。
 まさに日ごろの行いだ。

「あー………寝るんだったら、保健室に行って寝て欲しいんだけど?」
「あっ、先生俺連れて行きます!」
「てめっ、ずりぃっ! 俺、俺が行きます!」
「俺が!」

 一人が名乗り出て、すると連鎖的に男共が反応。見事な欲望が見える。
 ふと、遠い目になるのは仕方ない。

「あー若いっていいねー。皆煩悩に素直でしょー」

 ため息。
 ひたすら盛り上がる男子生徒へと注がれる女子生徒の視線は果てしなく冷たい。
 騒ぎに収集がつかなくなる前に、原因である少女を抱きかかえる。

「か、カカシ先生!!!!???」
「きゃーーーーーっっ」
「やだーっ!!」
「先生!?」

 あーうるさい。

「ちょっと自習ねー。保健室に置いてくるから」
「なっ、なんで、先生がっっ!!!」
「意識のない人間持ち上げるのって結構重いよー。可愛い可愛い女の子達の前で、腕力のないところを見せたいんなら、譲ってもいいけどー」

 言葉に詰まる男子生徒面々。
 現代社会における進学校の生徒の大半は、見事な虚弱体質だ。保健室まで自分と同じほどの身長がある少女を抱えるなんて不可能だろう。エレベーターも付いていない癖して、7階建てのこの校舎。教室は7階、保健室は1階。

「それに、さすがに男の子と女の子で保健室になだれ込ませるわけにも行かないでしょー?」
「って、せんせーも男だろ!」
「んー、せんせー大人だから、恋人でもない子に手は出さないしー。そんなことしたら、可愛い可愛い恋人に愛想尽かされちゃうでしょ?」
「せんせー恋人いるの!?」
「えーーーっっ」
「はいはい、静かにねー。ちなみに今隣はガイ先生だからねー、あんまり煩いとすっ飛んできて説教だよー」

 ぴたりと止む騒音。
 あつっくるしいガイの愛と熱血の演説は、余程のことでない限り聞きたくないだろう。
 自分の言葉の効果に満足して、教室から出た。


 のんびり廊下を歩いて、階段を下りる。
 授業真っ最中にて、人は居ない。

「んで、何で人の授業で寝ちゃうわけ?」

 つぶやく。
 ピクリと、抱きかかえられた少女の手が持ち上がって、首の後ろに回った。ぐいと身体を引き寄せられる。

「お前の所為だろ」
「えー昨日は何にもしてないでしょ?」
「夜中に電話かけてきていきなり散歩に行こうとか言い出したアホはどこのどいつだ」
「でもわざわざ人の授業で寝なくてもいいんじゃない? アスマとか、超放任授業なんだからさー」
「ばーか。安心して眠れないんだよ」
「…何それ。俺って超なめられてるわけ? 授業簡単すぎるって事?」
「お前の授業なら、後で聞けるだろう」

 だから安心して、眠れる。
 授業なんて聞かなくても、後で聞けばいいし。

 そんな当然のように言い放つテマリの言葉に、苦笑した。
 目の前にある首筋をなぞるように口付ける。

「恋人でもない子に手は出さないんだろ?」
「んー…。今は、誰も見ていないから恋人でしょ」
「はいはい。いいから保健室行くよ。こっちは眠いんだから」
「眠らせると思う?」
「思う」

 即答に、笑って、その唇に口付ける。

「お休み。テマリ」
「ああ。次の授業には、戻る」

 言葉を最後に、テマリの身体から力が抜けて。
 可愛い可愛い恋人は眠りに付いた。





 07/10/29

 














 089 秒読み(NARUTO イタチ×ヒナタ?)


 少年は何も言わなかった。
 だから少女も何も言わなかった。

 ただ。そう。

 分かっていたのだ。
 もう時間がないこと。
 もう後がないこと。

 既に未来は決定事項で。
 既に未来までの秒読みは始まっていて。

 それを止めることなんて、少女には出来なかった。

 少女は何も言わず、少年も何も言わず。

 やがて繋いでいた手は解かれて。
 見上げると、夕日の中に真っ黒な髪と目を持つ人が笑って。

「………また、明日」
「………」

 それは嘘でしかないけど。
 少女は申し訳程度に頷いてから、少しだけ笑った。

 ああ。この人はいなくなるんだ。
 

 少年に背を向ける。
 俯いてから、歩く。
 少年の長く伸びた影を踏みつけて。
 一歩、二歩、三歩………。

 夕日に伸ばされた、少年の身体よりもずっと長い影が動いて、それは自分に対して背を向けた行動の末と分かっていたから、少女は少しだけ立ち止まる。
 少年の影を抜けて。

 それから。

「…さようなら、イタチ兄さん」

 小さすぎる、震えたか細い声に、少年の影が止まった。
 けれど、振り向かなかった。
 少女も振り向かなかった。

「………ありがとう。ヒナタ」

 少年はそうしていなくなった。





 07/11/17

 














 090 異物(NARUTO…憑依? ナルト×ヒナタ)


 忘れてしまいなさい。
 全部。
 全部。

 辛い事も。
 嫌な事も。
 面倒な事も。
 悔しい事も。
 悲しい事も。
 泣きたい事も。
 寂しい事も。

 全部。

 ぜんぶ。

「………これは…一体…。ヒナタ、何があった…? いや、それより、大丈夫、なの、か?」
「…………………?」

 口を開いた。
 何か言おうとして…やんわりと、ふさがれた。
 もう一度口を開く。

「…………?」

 何を、言おうと、していたのか。
 …何を、言う?

 何を言いたいの?

 ………。

 ………………?

「…ヒナタ?」

 声が響いた。
 声だけが。空しく。






「………お前、こいつを、どうした」

 声に、部屋の片隅で小さな塊が動いた。
 真っ黒な髪をした、小さな小さな少女。
 真っ白な瞳をした、小さな小さな少女。
 暗い部屋の中、少女はぼんやりと視線を動かす。

 ただそれだけ。
 動かない。
 何も。
 何も…。

 やがて、焦れたかのように空気がぶれる。
 暗闇の中、じわりと金の光がにじみ、あふれる。
 まるで暗闇を切り裂いたかのように、確かに何もなかった筈の空間から、その少年は現れた。
 金色の髪と…金色の瞳。
 その年のころは少女と同じ程だろう。
 恐らくは、たったの5〜6歳ほど。

 幼い子供が浮かべるには不釣合いな落ち着き払った表情で、少年は姿を現した。
 小さな少女を睥睨し、細い柳眉をしかめる。ひどくふてぶてしく、傲岸不遜な態度であったが、それが許されるような空気が、確かにその少年にはあった。

「声を、奪ったのか。…力も…痛覚も…。思考能力も…」
「………」
「全て奪ったのか?! 答えろ!」

 少年の言葉は重く、鋭く、深く。命令することに慣れた、否、まるでそれが当然であるという口調は荒々しく、力となって少女にのしかかる。
 そして、少年がこの場に現れてから、ようやく少女は表情らしい表情を浮かべる。
 どこか遠くをぼんやりと見ていた瞳が、きつく、きつく細まり、うっすらと開いた唇ははっきりと弧を描く。細められた瞳が閉じ、もう一度開いたとき、少女は既に少女ではなくなっていた。

 まとう空気がガラリと変わり、つまらなそうに唇を尖らせる。大げさに肩をすくめる様は、奇妙に艶っぽい。

「…せっかちだねーぇ。わらわはそういうのは嫌いじゃ」
「ふ、ざけるなっ!! 貴様…」
「おお、怖い」

 くるりと少年に背を向け、短い髪を振る。
 くすくすと笑う声。
 本来の少女からは、決して聞けない声。
 ぎり、と噛んだ少年の唇が赤く染まる。

「この子は可哀想な子さーぁ。生まれてから不幸の連続での。母親の腹をわって出てきてみれば、目の前は血の海さーぁ。母親は死ぬわ警護の者は死ぬわ死ぬわ、生き延びたのはこの子だけじゃったのーぅ」

 それは過去あった出来事。
 …少年が、止める事の出来なかった出来事の一つ。

「おんしが来た時にはこの子は血を産湯に生きていたのさーぁ。ほんにほんに可哀想にのう?」

 笑いながら少女は両手を広げる。
 芝居がかった動作で腕を内に折りたたみながら、己を両指で示し、両胸に当てる。小さい小さい子供の指が、目には見えないほどの速度で動き、どこからともなく取り出したのは一本のクナイ。
 子供の手には大きすぎるクナイを片手で支え、ぴたりと宙で停止させる。

 向けられたクナイに少年は苛立たしげに首を振った。

「おんしは遅かったのじゃ。わらわがいなければこの子は死んでいたのさーぁ。考えて見るんじゃのーぅ。そんな人間がまともに生きれるはずはないのじゃ。それなのになんじゃ?」

 笑いながら紡がれる高い声は鋭い刃のように少年を貫く。少年の、怒りに縁取られ、真っ赤に染まっていた顔は次第に青ざめ、少女に気おされたかのように足を引いていた。
 少女は…少女の中にいる存在は、冷たく少年を見据える。

「おんしはいつまでたってもこなかったではないか。おかげでこの有様さーぁ」

 真っ暗な独房。
 一寸先も見えないような、完全な暗闇。
 誰も来ない誰もいない空間。
 ただ少女がいるだけ。
 音も聞こえない。
 光も当たらない。
 外側から厳重に鍵をかけられ、食べられることのなかった食事の成れの果ては、部屋の隅にたまる。

 少女以外の人間がこの部屋に入る事はない。
 食事が小さな小さな窓口から与えられるだけ。

 それが、少女の置かれている現状。

「おーんしはほんに遅いのじゃ。いつものーぅ」
「………」

 哀れむような口調に、少年は首を振った。
 苛立たしげに、悔しそうに、悲しそうに。

「哀れじゃのーぅ。神獣とまで崇められた成れの果てがその姿とは」
「…………」
「無様じゃのーぅ。可哀想だのーぅ。この子も、その子も、おんしも、わらわもじゃ」
「………何を、言いたい…」
「おんしは人間に裏切られたのじゃ。わらわは人間に騙されたのじゃ。そーれからいつまでたーっても生きっぱなしだのーぅ」
「……」
「わらわもおんしも同じタイミング覚醒するとはのーぅ。人生何が起こるか分からんものさーぁ」

 少女の身体に埋め込まれた存在は、かつて神獣と人間に崇め祭られた存在の一番の僕であり、何よりも、誰よりも信頼できる存在だった。
 少年の身体に埋め込まれた存在は、かつて神獣と人間に崇め祭られ、人間に裏切られ力と命を握られた。

 力と命を封じ込められた石を呑んだ母親から、子が石が埋まった状態で生まれる。
 少年も、少女も、そうして身体に石を持つ。

 人間に裏切られ、騙され、力と命を握られ、幾度も、幾度も、そうして生まれてきた。その生の半分は目覚める事もなく、もしくは力のみを目覚めさしたまま、幾度も、幾度も生まれ続け、幾度も、幾度も、死んできた。

 いつまで続くかも分からない逃れようのない生。

「そーして、わらわとおんしの所為でこの子達の人生は滅茶苦茶さーぁ。ほんに可哀想にのーぅ」
「…そう、思うなら…何故、何故…こいつから声を奪った! 思考を、力を、全てを…! …人生を…っ」
「おんしはいっつも遅いのじゃ。そう言ったであろう?」
「なんだと…っ」
「おんしはその子と同化したのであろう? 思考も、声も、力も、全て、全て。だからおんしは言ったのう? おんしとその子…うずまきナルトは言ったのう? わらわとこの子…日向ヒナタを…助けると。迎えにくると。そう約束したのう?」
「…そう、だ。だから…だから俺はっ」
「間に合わなかったのじゃ。おんしは間に合わなかったのじゃ。この子は可哀想にのーぅ。わらわの力を使おうとはしなかった。だから弱かったのーぅ。わらわという異物を身体の中に抱え込んでいたのじゃ。気持ち悪かったのーぅ。苦しかったのーぅ。辛かったのーぅ。………だから殺したのじゃ」
「―――っっ!?」
「こうでもせぬとこの子は完全に壊れただろうからのう?」

 いつも悲しいと言っていた。
 いつも苦しいと叫んでいた。
 いつも寂しいと泣いていた。

 もう、嫌だと。
 助けて、助けて。

 そう、心の中で叫んで、叫んで、叫び続けて…5歳になった日、日向家の外で、他国の忍に襲われた。警護のものは次々と死に、息絶え、それはまるで、生まれた瞬間の再現。本来ならば覚えているはずのない生まれてきた瞬間を、ヒナタは覚えていた。
 ヒナタの中に巣食う存在は全て見ていた。全てヒナタを通して見ていた。全て、ヒナタの身体に巣食う存在が記憶していた。

 もう、嫌だ。
 もう、嫌だ。
 もう、嫌だ。

 それだけを繰り返し、繰り返し、繰り返し。

 ヒナタの中に巣食う存在が、ヒナタの存在と意思そのものを無視して動いたのは、その瞬間だった。

「全て忘れてしまえばいいのさーぁ。その方が…この子は幸せなんじゃ」
「…っっ。なら、なんで、お前がフリだけでもしなかった…っっ。でなければ、こんなところに来る事もなかっただろう!」
「忍を山程殺したんだ。下手に口答えするより、何も覚えていない、分からないって方がマシだろう」

 未だ少年に対して向けていたクナイを何処ぞかへとしまい、少女は笑う。
 それは、とてつもなく長い付き合いになる少年ですら、めったに見たことのない類の、表情。笑っているのに、ひどく苦しそうで。

「なぁ、わらわはもう疲れたのさーぁ。日向は醜いのーぅ。わらわも狂ってしまいたいのじゃ。いい加減死んでしまいたいのさーぁ。おんしはそう思わないかのう?」
「………確かに、疲れたさ。…けどな、うずまきナルトがなんて言ったと思う? "なんか面白いことを一緒に見つけるってば"、だ。…アホらしいだろう?」
「……………………あっほらしいねーぇ」

 面白いと思ったこともあった。
 楽しいと思ったこともあった。

 それは、死ぬ事でリセットだ。
 気が合う仲間も、好きなことも、全部リセット。
 次目覚めた時はまた違う世界。違う価値観。違う環境。

 次第に面倒になった。
 生きることも、力を利用される事も、存在を拒否される事も…全て、全て。
 何人の人生に付き合ったのか、もう、覚えていない。

「…それから、"俺達で終わらせればいい"」

 うずまきナルトと同化していなかった頃の、うずまきナルトの言葉。
 そんな、無茶苦茶な台詞に呆気にとられ、そして、笑ったのだ。

 そのときの彼と同じ反応を、少女はした。
 まん丸に瞳を開いて、口をぽかんと開いて…じわり、と笑う。

「わらわたちが中にいるから、この子達は惹かれ合っているのかと思っていたのじゃがのーぅ。どうにもこの子達は惹かれ合う運命みたいだのーぅ。おかしいことよのう? 壊れそうになったヒナタから全ての記憶を抜いて奥底に眠らせた筈なのに、喜んでおるわ」
「完全に、消したわけじゃなかった、のか…」
「記憶は消えておる筈じゃ。今のヒナタは空っぽじゃ。…それでも、どこか、惹かれるのであろうのーぅ」
「………そう、か。良かった…。…まだ、全部手遅れじゃないんだな…」

 心底ほっとした、と言わんばかりの少年に、少女はぎっ、と眉をしかめた。
 一瞬で全身の毛が総毛立つような怒気に、少年はギクリと身を引いた。

「おんしが遅れてばかりなのは事実じゃ!! なーんも間に合っておらん!」
「あ、うん。いや、そ、そうだけどな。………うん。でも…良かった」

 ほぅ、と息をついてから、少年が笑う。
 小さな手を伸ばして、少女の手を握りしめた。

「ヒナタ、ここから出よう。じっちゃんの許可が取れたんだ。…手間取ったけど、遅かったけど…でも、行こう、ヒナタ」
「……………………………………………………人間ってのは不思議だねーぇ。思考能力も奪ってた筈なんじゃがのう? 記憶だってちゃーんと消した筈じゃ。まーったく変な話じゃのーぅ。 ………わらわは眠るのーぅ。力くらいは頼まれたら貸してやるさーぁ」

 後半は自分の身体に向かって少女は呟き、それから瞼を閉じる。伏せられた目が小さく震え、ゆるゆると、開いて。

「…………うん。行く…。行くよ…ナルト君」

 ぽたりぽたりと零れ落ちた雫はそのままに。
 そうして、少年と少女の姿は闇に包まれるようにして消えた。





 07/11/21

 


















 081〜090まで。
 少しでも楽しんでいただけたでしょうか?
 宜しければ拍手でも一言メッセージででも、気に入ったところを書いていただけると嬉しいです。
 とても励みになります。

 PS2のメモカは高いなぁ…。でももう容量ないからはよ買わなきゃ。
 ついでにコントローラーの反応も鈍くなってきた…(泣)
 私が使うとダメになるの早いんだ。何でだろう…。