Eigon&Melna
師匠の教え
私の名前はメルナ・フォーリス。15歳。まだまだ駆け出しの見習い魔法使いだ。
私が師事しているのが、エイゴン・ザレイウェンという伝説的魔法使い。
いろんな国で英雄扱いされているらしいけど、86歳という高齢ともなれば、ただの死に掛けのじいさんだったりする。
そんな師匠との旅はなかなかにスリリングで、私は心臓が止まるような思いをすることも少なくない。
ある気持ちのいい朝、私はいつものように朝日とともに目覚めた。
たまに野宿をすることもあるけれど、たいていの場合高齢の師匠に配慮して宿屋に泊まる。
そしてたいていの場合、私は師匠と同じ部屋に寝泊りをする。師匠が夜中にいきなり発作を起こしたときにそなえるためだ。
まぁ、そういう訳で、昨日もツインの部屋に泊まったわけだが、どういう訳だか隣のベッドに師匠がいない。
先に1階に降りたのかな?と思って1階に降りて探してみたがやっぱりいない。不思議に思ってもう一度部屋に帰ってみると、机の上に置き手紙があるのを発見した。
曰く、『今日の修行はかくれんぼじゃ♪ BYエイゴン』…かくれんぼが修行ってどういうことだ。
かくれんぼなら小さい頃によくやった。…といっても、小さい頃から修行ばっかりの毎日だったから、私に同い年の友達はあんまりいない。
代わりにといってはなんだけれども、師匠の修行の合間に、師匠と一緒に暮らしていた黒髪黒目のお兄さんが遊んでくれていた。
名前はなんといったっけ。…小さい頃のことだからよく覚えていない。
そんなことをつらつら思い出しながら宿の中をくまなく探す。
宿の女将さんにも話を聞いた。
その結果、分かったことは誰も宿屋を出て行った白髪の老人を目撃していないってことだ。
ヤツはまだ宿屋の中にいる。
基本に戻って、部屋に戻る。
師匠はあんなふうなふざけた性格をしているが、その行動には必ずと言っていいほど理由がある。今回もなにかしら理由があるのだろう。
置き手紙をもう1度手にとって、裏を確かめてみる。あぶり出し、透かしがないかも念入りに。
師匠の性格からして、どこかに必ずヒントを残している。そう思って念入りに調べてみたけれど、残念ながら何もない。
…『修行』ってところがミソだと思うんだけどな。
修行ってことは、魔法に関することだろうか。
魔法でかくれんぼ?
「………!」
思いつきを実行してみようと、私は荷物を探った。何か、使えるものはないだろうか。
部屋の窓ガラスでもいいんだけれど、まさか切り取るわけにもいかないし。
…と、鞄のなかをかき回していた手にコツンと何か硬質なものがあたった。
「これだ!」
迷わず引っぱり出す。それは、手のひらにのるくらいの小さい手鏡だった。
私だっていちおう女の子なのだから、自分の身だしなみには気を使っている。おしゃれをするような余裕はないけれど、せめて汚くないように。
まぁ、それは今はどうでもいい。未熟な私にはこれくらいの大きさがちょうどいいのだ。
手鏡をささげるように持って、呪文を唱える。
私が今から使おうとしている魔法は、透視の魔法。一番苦手な分野の魔法だ。
あんまり制御とかができないから、何か媒体が必要だし、その媒体の大きさも小さめ。んでもって、長い長い呪文とそれに付随する動作が必要なのだ。
長い呪文を唱え終えて、上手くいったかとその鏡に例の置き手紙を映す。
裏を見て、鏡に映って見える文字にやはりそうだったかと満足した。
曰く、『よくぞ気付いた。後ろにおるぞい♪』…だそうな。
それを読んだ瞬間、迷わず私は自分の背後へと裏拳を繰り出した。
2006年3月3日
メルナとエイゴンの修行風景でした。
推理小説っぽい仕上がりになりました(笑)
関係ないけれどこの話、エイゴンが全くしゃべっていません…(汗)