Eigon&Melna
 あやしい…





 私の名前はメルナ・フォーリス。よく男の子に間違われる15歳。男の子に思われるのは、私が旅姿だからだと思うことにしてる。

 …だってほら、ドレスを着た今はちゃんと女の子に見えるし。

 私の後ろで鏡に映った私を見てにこにこしてるのが私の師匠、エイゴン・ザレイウェン。86歳。
 実は本当に有名ですごい魔法使いだったらしい。今まで知らなかったけれど。
 とある目的のために旅をしている私たちは、この国に入ったとたん、王宮のパーティーに招待されたのだった。




「わっはっは。元気そうじゃのう、デオンよ」

「お前もまだまだ死にそうにないな、エイゴン」

 驚いたことに、この国の王様とウチの師匠は知り合いだったらしい。2人はパーティー会場から少し上にあるテーブルで仲良く食事をしている。
 その手がワイングラスに伸びるのを、隣に座った私は見逃さなかった。

「師匠、ワインは禁止ですよ」

 手を伸ばしてグラスを引き寄せる。ただでさえ心臓が弱いのだ、お酒なんか飲んだらどうなることか。
「メルナは厳しいのぅ」
 切なそうな顔をした師匠に、果物を搾った飲み物を渡す。師匠は素直にそれを受け取った。

「メルナさん、と言ったか。エイゴンのお弟子さんはしっかりものだな」
 私の隣に座っている王様の息子、つまりは王子が私に話しかける。
 ……て、『メルナさん』って……普段呼ばれ慣れてないからなんだかくすぐったい感じ。




 食事があらかた片付いたころ、広間の方で音楽が流れ始めた。舞踏会が始まったのだ。

「踊りませんか?」

 気がつくと、王子が私の席の横に立って手を差し出していた。女の子扱いされるのは滅多にないから、なんだか照れる。

「折角だから踊っておいで、メルナ。わしはここでデオンと話をしているからのぅ」

 師匠が微笑みながら(こういう顔をしているととっても『魔法の師匠』らしい)私の背中を優しく押した。言われるままに、立ち上がってしまう。

「女の子らしい事なんて、このごろやっておらんじゃろう?わしの事は気にせんで、ほら」
「え……でも私、ダンスなんて踊れないです」
「私が教えますから、ね?」

 いつの間にか私の手を握っていた王子にそう微笑まれて、背中をまた師匠に押された。
 そしてそのままずるずると大広間へ。

 ……師匠、無茶しないかなぁ。心配だ……





 曲に合わせて王子にくるくる振り回されていると、時々師匠たちのテーブルが見える。2人とも、とっても楽しそうに話をしている。

「ダンスに来てよかったかな。邪魔しちゃ悪いもんね」

 思わずそう呟くと、王子に聞かれて微笑みとともに「そうでしょう?」と返された。
「はぁ…」
 返事に困ってまた師匠たちのほうを見る。2人は話が盛り上がってきたのか、侍従が持ってきた小さなグラスを持ってチン、と乾杯した。

 ……あれ、ジュースだよね…?

 そして、師匠はグラスに入った綺麗な赤い液体をくいっ、と飲み干した。

 嫌な予感。

 思わず動きが止まった私が見守る前で、師匠はみるみるうちにかーーーーっっと耳まで真っ赤になり満面の笑顔でぱたっ、と倒れた。

「師匠ぉ〜〜〜〜!?」

 思わず、一緒に踊っている王子を放り出して駆け出した。
 たぶん、今まででいちばん早く走ったと思う。





 師匠の胸に耳をあてると、師匠の心臓はしっかり動いていた。……ちょっと、異常なほど早く動いてはいるが。

「ア、アルコール抜く魔法、呪文〜〜〜!?」

 軽いパニックにおちいった私の目の前で、師匠がゆっくりと起き上がる。
 その手には、Vサイン。

「いえ〜〜〜♪だいせいこーじゃーー」

 ……演技だったのか。

 そう理解した瞬間、私は自分の頭に血が上るのを感じた。たぶん、今は師匠よりも赤い。

「じじいは酒を飲むなーー!!」

 無意味に人を心配させた師匠に対する制裁は、私の鉄拳パンチだった。
2006年5月4日

メルナ、珍しく怒ってます。ついに師匠を「じじい」呼ばわり(笑)
王子様はそれとなくメルナが気に入ってるようですが残念、眼中にありません。

師匠は86歳。現代にしてみたら100歳超えてるような感覚でしょうか。
平均寿命みじかいですし。
そんな人がお酒を飲んだりなんかしたら…
師匠の病気は実は仮病なんじゃなかろうかw