Eigon&Melna
 それぞれの役割






 私の名前はメルナ・フォーリス。現在、魔法学園ていうところで体験入学…というか、臨時入学みたいなものをさせてもらっている。

 そして、私の師匠は今目の前にいるエイゴン・ザレイウェンっていう老人。たいていの魔法使いはここ、魔法学園で勉強した人がなるものだから、師匠について魔法使いになる人は少ないらしい。
 んで、そんな魔法学園に師匠がいる私がなんでいるかっていうと、師匠がここで臨時の教師を頼まれたから。

 ウチの師匠は年の功か過去の栄光か、結構有名な人物らしい。なんで有名なのかはよく知らないのだけれど。
 そんな師匠がここの臨時教師をしている間、弟子の私はここで臨時の生徒をしてる。





「メルナに、渡しておきたいものがある」

 いつになく真面目なかおの師匠に呼ばれて、魔法学園の生徒寮から教師用の寮にやってきた。
 教師用の寮は、さすがに広いし豪華だ。生徒寮2人1部屋でお風呂とか洗濯所とかが共用なのに対し、教師用の寮はお風呂から簡単なキッチンまで個室に備え付けてあった。すごい。続きの部屋には研究用の部屋まであるらしい。すごい、いいなぁ。


 きょろきょろしながら、勝手にキッチンを使って師匠と自分用のお茶を淹れてテーブルに持っていく。師匠と一緒にいるときは、お茶くみは私の仕事だ。それにしてもなんか、師匠にお茶を淹れてあげるのって久しぶりな気がする。ここのところ、この学園の生徒たちと接してきてたから師匠とお茶するのって久しぶりだもんなぁ。
 ずずっ、と私が淹れたお茶を飲んだ師匠は「やっぱりメルナの淹れてくれたお茶は格別だのう」といって笑ったので、私も「ありがとう」と言って笑う。

「さて、わざわざ部屋まで来てもらったのは他でもない」

 急に、師匠が真面目な顔をしたので、持っていたお茶のカップを置いて背筋を伸ばす。

「先日の昇級試験、ご苦労じゃった。わしの出した課題を見事にクリアしたの。まぁ、当たり前じゃが」
「ははは……」
 師匠に褒められるなんて、なんか変な感じだ。

「で、の。わしがあんな課題を出したのは、実はあの試験は魔法組合への加入試験を兼ねていたのじゃよ。そしてメルナ、おぬしは見事それをクリアし、加入が認められた。これがその証じゃ」

 言って、師匠が取り出してきたのは小さな箱だった。受け取ってあけてみると、石でできた透明な指輪が1つ入っていた。巷で良く売っている金属の輪に宝石がついているタイプの指輪じゃなくて、石を指輪の形に掘り出したもののようだ。つなぎ目があるかと探したけど、つなぎ目もなかった。指輪の外側には、小指の先よりも小さく、小さい紋章が掘り込まれている。小さすぎて目を近づけないと分からないが、これは……。

「魔法組合の紋章ですか?」
「そうじゃ。組合に入っている魔法使いには全てコレが与えられる。今回は入ったばっかりじゃから水晶じゃが、ココを出るくらいには猫目石の指輪がもらえることになってるからの」
「魔法組合……?」
「以前に教えたじゃろ。魔法使いの団体があると」
「あ、それが魔法組合ですか?」
「そうじゃ。だいたいが、この魔法学園の卒業生じゃが外部からの加入も受け入れておる。そのときに必要なのが加入試験というわけじゃ。今回は、この前の昇級試験を兼ねさせてもらうよう組合と交渉したのじゃがな」

 精霊全種類召還にこだわってたのは、そいういう裏があったわけか……。

「指輪の、石の種類が違うと何かあるんですか?」

 水晶みたいに硬い石を指輪の形に掘り出すっていうのは、かなり大変そうだ。まぁ、魔法でやってるんだろうけど。
「魔法組合には8つのランクがあっての。魔力量やら技術力やらでランクが決まるんじゃ。上から、
1.金剛石(ダイヤモンド)
2.紅玉(ルビー)
3.蒼玉(サファイヤ)
4.翠玉(エメラルド)
5.幻玉(アレキサンドライト)
6.黄玉(トパーズ)
7.猫目石(キャッツアイ)
8.水晶(クリスタル)
となっておる。相手のはめている指輪をみれば、そやつのだいたいの実力が分かってしまうという訳じゃ。力をひけらかしたいやつはそのままつけておるし、隠したいやつは首からさげるなり手袋するなり方法はある」

「へぇ〜」
 指輪を手にとってみると、つるりとして冷たい感触がした。紋章のところだけ、なんだかぼこぼこしてる。本当に水晶らしく、透明ななかに白い曇りみたいなのがあったり、亀裂みたいなのが見えたりした。

「ちなみに、師匠の指輪の石は何なんですか?」
 私がきくと、師匠はニヤリと笑って右手を顔の前にだした。しわだらけで節くれだったその指には透明の石でできた指輪。水晶にも似ているが、曇りも亀裂もないし、何より輝きが違う。

「ほーれほれ、金剛石じゃぞ〜。レアじゃぞ〜。触ってみたくないかの?今だけじゃぞ?」
「結構です」

 何故か勝ち誇る師匠に冷たく言い放ち、冷めかけてしまったお茶をすする。
 ランク1の石の指輪も、師匠が持っているとありがたみが半減したように感じるのはナゼだろうか……。





「さて、ついでじゃから冒険者組合の話もしとくかのぅ」

 すごすごと寂しそうに指輪をしまった師匠が、悲しそうに言った。

「冒険者組合なら知ってますよ。依頼をしたり受けたりしてるあそこですよね」
 旅のあいだ、冒険者と呼ばれる雇われの何でも屋に何度も会ったことがある。師匠や私は加入していないけど、ああやってお金を稼ぐ人たちもいるんだなと村を出て初めて知った。

「うむ、それでだいたい合っておる。ただ、冒険者にはその証となるメダルが交付されることとなっておる」
「メダル、ですか?」
 そんなの、見せてもらったことないけど。
「うむ。これぐらいの」
 と言って、師匠は人差し指と親指とで輪を作った。
「小さいメダルじゃ。このメダルの表には、冒険者の名前と生年月日、そしてランクが載っておる。裏には交付日と交付場所じゃな。冒険者組合と依頼人以外にはあんまり見せるもんでもないから、見たことなくても無理ないじゃろ」
「へぇ〜。冒険者にもランクがあるんですね」
「うむ。全部で9つあってな。SS、S、A、B、C、D、E、F、Gまである」
「なんかいっぱいあるんですね」
「冒険者にとっては、信用度みたいなもんじゃからな。ランクによって報酬があがったりもするし、皆ランク上げに必死になっておるぞい」

「冒険者組合と魔法組合、仲が悪いとかそういうのはないんですか?」
「ないのぅ。魔法組合と冒険者組合、両方に加入している魔法使いもいるしのう。冒険者組合は主に民間からの業務委託、魔法組合は魔法使い同士の相互協力と情報交換、というところじゃないかの?」
「それぞれ、やってることは違うんですね」
 名前は似通ってるけど。

 言いながら、私はもらった指輪を見た。
 とりあえず、コレは小指が一番邪魔じゃなくていいかな。
2011年7月30日

約5年の年月を経て、ようやくメルナとエイゴンの本編の続きがかけました。前話の日付を見て吃驚しました(笑)
待っていてくださった方(いるのかどうか分かりませんが…)大変、お待たせいたしました。
今回は、冒険者と魔法使いの世界の設定をちらっと。