Eigon&Melna外伝
 水晶に映るもの





 街の広場の片隅に、小さな小さなテントが建っていた。ひっそりとたたずむそのテントには、人っ子一人近付かない。

 …いや、一人いた。

「邪魔するぞ」
 無造作にテントの入り口の布をかき分けて入っていく男は魔法使いの杖を持ち、長いローブを着ていた。

「いらっしゃい、ひさしぶりね」

 暗いテントの中に座っていたのは一人の女。ダークレッドのローブを身にまとっているが、年の頃ははっきりとは分からない。
 正面の机の上にはみごとな水晶球がのっていた。
 女は妖艶な笑みを浮かべ、男に言った。

「いったい会うのは何年ぶりなのかしら?大魔法使いさん?あなたが魔女である私のところに来るってことは、魔法の依頼じゃないのね?」
「占いを頼む」

 女の言葉を肯定するように、男は言った。

「俺にはもうすぐ寿命が来るだろう。その前に、後継者を見つけ出して育てなければならない。何年後になるのか知りたいが、俺は未来視は苦手だ」

 女は面白そうに笑った。
「あんたにはまだまだ寿命は来ないよ。人様よりも長生きするだろうね。……ただ、後継者は見つからない」

「見つからない?」

「少なくともここ20年の間にはね。……昔の知り合いであるあんたのために、特別に未来視をしてあげよう。稀代の占い師であるマシェル様の予言だよ。ありがたくお思い」

 女はそう言うと、男の返事を待たずに水晶球に手をかざして目を閉じた。

「………黒髪が見える。短い髪だ」
 女の雰囲気が一変する。その声は先程まで軽口を叩いていた声と同じとは思えないほどおごそかなものだった。

「黄色っぽい瞳。顔立ちはアンタの若いころによく似てる。男前だよ。この子なら、アンタのあの魔法も受け継ぐ事ができるだろう」

「名前は?どこにいる?」

 女は笑った。

「それは答えることができないね。どこにもいないよ。今はまだ、さ」

 男は腹立たしげに首を振った。
「それじゃ何も分からない」

 水晶にかざした手を下ろし、女は腕を組んでにやりと笑った。

「いるってことが分かっただけでも喜ばないと。アンタのあの、危険な魔法をこの子は充分に使いこなせるだろう」
「それならいい」

 男は懐から1つ指輪を取り出し、女に放る。
「世話になった。礼を言う」

 女は指輪を受け取って、出て行く男の背に向けて言った。
「後継者を見つけたら、あたしに会わせにおいで。あんたの後継者がどんなのか、見てみたい」

 出て行く間際、男が頷いたように女には見えた。




 それから数十年後。

 男は自分の後継者となる赤子をその手に抱くことになる。
2006年5月4日

メルナとエイゴンの外伝です。…っても、メルナは出ていませんがww
エイゴンは若いころ、無口なナイスガイという設定でした(笑)
いったいどこをどうやってあんなに陽気な爺になってしまったのか……・。

伏線いっぱい張ってみた外伝でした♪