2008年6月〜12月の過去拍手。
魔法使いの旅路

7月 シンヤ&シロ 肉球
9月 シンヤ&シロ 手品
9月 シンヤ&シロ 召喚呪文?
7月
  シンヤ&シロ 肉球



「肉球ってなー、ひびはいったり怪我したりすると歩けなくなるんだってなー。
 んで、ここから汗が出るし、色である程度健康状態が分かるっつーし。
 結構重要ポイントなんだよなー」

「だからどうした」

 興味なさそうに相槌をうつ、相棒の前脚を、シンヤは両手でぎゅっとにぎった。

「だからな、シロ。これから俺が定期的にマッサージしたりクリーム塗ったりしてやるからな!」

「ただ単に自分が触りたいだけだろう」



 触りたければ触りたいと正直に言えばいいのに、と思うシロさんでした。
9月
 シンヤ&シロ 手品



「さあさ、皆様お立会い!稀代の奇術師シンヤさまの登場だよー!」

 シンヤは街の広場に立って声を張り上げていた。
 目の前には子供が入りそうなほど大きな箱。その横には投げ銭を入れてもらうための小さな箱。
 冒険者ギルドで適当な仕事にありつけなかったシンヤは、大道芸で日銭を稼ぐことにしたのだった。

 簡単な手品で適当に見物人を集めていく。
 結構な人数が集まったところで、シンヤは懐から白い猫を取り出した。

「さあさ、それではこれから最大の奇術を皆様にお目にかけましょう!」

 言って、箱の中身が空なことをを観客に確認させた。
 抱き上げた猫を大きな箱に入れる。
 大きな布をふわりとかけて、シンヤは両手をばっとひろげた。

「五つ数えるうちにこの猫がいったいどうなっているのか!?皆様、成功したら拍手をお願いします!」

 五つ数えて観客の気体に満ちた視線の中、ゆっくりと箱の蓋をあける。
 中から、白い虎が飛び出してくる。シロだ。

(よっしゃ!成功!)

 中でシロが変化しているだけなので成功も何もないのだが、うまいこと演出のタイミングが合ったことにシンヤは心の中でガッツポーズをした。
 最初こそ見世物になるのを嫌がっていたシロだが、始めたら始めたでノリノリになってくれた。
 そして、観客に向かってサービスとばかりに一声、吼えた。
 これで今夜の宿代確定。
 得意満面、締めの言葉を口にしようとしたシンヤだったが、観客の悲鳴に遮られた。

「きゃー、魔獣よ!」
「みんな、逃げろ!!」
「うわーん、ママー」

 あたりは怒号や悲鳴がとびかい、母親とはぐれた子供が泣き出す地獄絵図。
 我にかえったシンヤが辺りを見回した頃にはもう、広場にはひとっこひとりいなかった。



「………うまくいくと思ったんだけどなー。逃げられるとは予想外だ。だめじゃないかシロ、怖がらせちゃ」
「私の所為か」
「うーん、メルナは喜んでくれたんだけどなー」
「あの子供を世間一般と一緒に並べること自体、間違っていると私は思うが」
「今夜の宿、どうしようか?シロ………」
「知らん。この状況では野宿しかあるまい」
「だよなー。うまくいったと思ったんだけどなー」

 そんなことをぼやきながら、広場に騒ぎを引き起こした張本人の2人は、ひっそりこっそり街から逃げ出したのだった。
9月
 シンヤ&シロ 召喚呪文?



「へっへっへ、兄ちゃん金出しな」

 よく晴れた旅の空の下。
 人気のない街道を一人で歩いていたシンヤは追いはぎ3人に囲まれていた。

「……すげえな、強盗とかってどこ行っても同じこと言うんだな」

 変な所で感心している黒髪の青年は、腰に僅かに反った変わった形の剣を一本さしている他は武器もない。
 ひょろっと伸びた長身には大して筋肉がついているようには見えないし、
 一人きりで街道を歩いているところからも仲間がいる様子はない。
 追いはぎたちは、青年の余裕の態度はただの虚勢だと判断した。

「うごくな!!」

 追いはぎたちに一喝したシンヤは襟元から1つのメダルを取り出した。
 そのメダルは魔法使い協会に登録している証。表面には魔獣使いを表す文様が彫りこまれていた。

「俺は魔獣使いだ。魔獣に食い殺されなかったら俺には近づくな」

 シンヤにしては精一杯凄みを出したその台詞を、追いはぎたちはへっと笑い飛ばした。

「んなもんがこんな街道をほいほい歩いてる訳ねえじゃねえか」
「嘘だと思うなら…」

 言ってシンヤは、すっと空中に指を突き出して陣を描く動作をした。
 同時に呪文らしきものをぶつぶつと呟き、最後にはぁっ!と気合を発した。

「出でよ、ドコサヘキサエンサン!!」

 しかし何も起こらなかった。

「………」
「………」
「………」

 痛いほどの沈黙があたりを支配する。
 その沈黙を破ったのは追いはぎの一人だった。

「やっぱりハッタリなんじゃねーか!」

 わっはっは、と指差して笑った追いはぎたちは次の瞬間、白い虎のような魔獣に背後から襲われ、気絶した。




「遅いよシロ〜、タイミング合わせてくれないと恥ずかしいじゃないか」
「私はドコサなんとか、などという名前ではないのでな」
「好きな名前で呼んでいいっていったじゃん」
「ころころ呼び名を変えられては困る。…そもそも何の名前だ?」
「ん?ドコサヘキサエンサン?栄養素の一種」
「は?」
「略してDHA。魚によく含まれてる。採ると頭が良くなったり血液がサラサラになったりするんだってさ」
「………」
「ずっと呪文みたいだと思ってたんだよな〜」

 使えてよかったよ、と呑気に言う黒髪の青年を見上げて白い魔獣は深いため息をついた。



「他にもあるよ、アスコルビン酸とかコラーゲンとかグリコーゲンとかアスパルギン酸とか…」
「…断る」