私はお前の右翼になろう。

 俺はお前の左翼になろう。


 私達はお前の翼になりてお前を守るよ。

 俺達はお前の翼になりて共に歩むよ。


 そして―――。



 私 俺

  は

 お前が自由を手に入れるための翼になろう―――。












「翼」












 "それ"を聞いた時…初めて己の父に心の底から怒りを覚えた。

 なんて残酷な事をするつもりなのだ、と。

 ふざけるな、と。

 馬鹿な事はやめろ、と。

 弟と共にひたすらに騒いで、何とか"それ"を阻止しようと幼いながらに必死だった。

 けれども。

 自分と弟はあっさりと眠らされてしまっていた。

 そして―――。

 自分と弟が目覚めた時、新たな弟が生まれ、母は死んでいた―――。

 憎しみを、覚えた。

 "それ"を止める事が出来なかった自分に。

 何の力もなく、弟に出来る事がない自分に。

 腹立たしくて、歯がゆくて、何かがしたくて必死になった。

 そして"それ"を実行した自分達の父を軽蔑した。


 その時から、弟と私は父と決別したのだろう。


 新たに生まれた弟は、その身体に忌まわしいモノを押し付けられながらも、
弟と私に小さな手を必死に伸ばしていた。

 その小さな頼りない手を握った時、その子に対する限りない愛おしさが、私の身に溢れた―――。

 その頼りない手の持ち主は我愛羅、と母に名付けられ、それを聞いた時私は泣いていた。

 弟も同じように泣いた。

 母に望まれることなく、父に愛されることなく、それでも懸命に生まれてきた命があまりにも可愛そうで。

 我愛羅の歩く道は、辛いものであろう。

 安らぎなどありはしない。

 永遠の地獄だ。


 私たちは彼を守る事が出来なかった。

 泣いた。

 ―――すまない。

 守ってやれなくてすまない。

 手を握り締めてぽろぽろと泣いた。

 反対側では、弟が同じようにして泣いていた。


 その時に、決めたのだ。


 彼を守る事を。

 少しでも彼が平坦な道を歩めるように。

 少しでも彼が安らぎを得られるように。

 自分達は彼を愛そう。

 私も、弟も、我愛羅を愛して愛して。


 そして守り続けるのだ。







 血溜りの中でテマリは鼻を鳴らした。

「左翼。そっちは片付いたか」

 そう問えば、カンクロウが腕を一閃して応えた。

 その腕の動作と共に、またも血の量が増える。

「右翼も終わったみたいだな」

 互いに、互いの変化後の姿の名で呼び合いながら、顔を合わせる。

「風影も、中々諦めないな」

「ああ。いい加減あの子を狙うだけ無駄だって、分かんないかね」

 己の里の頂点を2人は悪しきざまに吐き捨てた。

 彼と自分達の間に入った亀裂は、年が経つほどに深くなっている。

 テマリがふと顔を上げる。

「あの子は?」

「月見。行こうぜ」

「分かった」

 幾多もの死体が転がる中を、2人は無造作に横切った。

 血をしこたますった黒衣を脱ぎ捨て、その場に打ち捨てる。

 血溜りに黒衣が沈み、それと同時に死体が地に沈み始めた。

 大地は貪欲に全てを飲み込み、最後に風が巻き起これば、既に先程の惨状はそこに存在しない。

 テマリとカンクロウは変化を解くと同時に地を蹴った。

 巻物から取り出したテマリの鉄扇に宙で乗り移り、空を舞う。



 私とカンクロウは、こうして我愛羅に向けられる暗部を殺し続ける。

 幼い頃に2人だけで修行を繰り返し、死ぬほどの思いを味わいながら強くなった。

 それを表に出すなんて愚かしい真似はしない。

 誰が砂の忍なんかになるものか。

 私とカンクロウは我愛羅の忍。

 我愛羅の翼なのだ。

 彼の為に生きて、彼を守るためだけに翼を広げる。

 彼が全てから抜け出す事が出来るように私達は彼の翼になる。




 その様はまるで翼持つ者のようだと我愛羅は思う。

 自分という足枷がなければ、もっと高く、自由に空を舞うのだろう。

「テマリ、カンクロウ」

 鉄扇に乗る2人を呼び寄せれば、2人とも笑顔で我愛羅の元に降り立つ。

「ごめんね。我愛羅。待った?」

「悪かったじゃん」

 にっこりと笑う2人に己も笑んで、空を見上げた。

 空高くには薄く輝く月の欠片。

 満月にはまだ程遠い。

 それを眺めた後、同じように月を眺める2人を見上げて窺う。

「何?我愛羅」「何じゃん?我愛羅」

 全く同時にそう問われて、我愛羅は返事に詰まった。

 この2人はどれだけ他の事に意識に向けているように見えても、必ず我愛羅の事を気にしている。

「いや…怪我はなかったか…?」

 おずおずとそう聞けば、2人で一瞬視線を交差させ、同時に激しく頷いた。

「勿論だ!!」「勿論じゃん!!」

 と同時に言った後、カンクロウが不安気な顔になって、我愛羅の柔らかな髪を撫でた。

「心配かけたじゃん…」

 ひょい、と沈むと、我愛羅の目の前に顔を持ってきて、くしゃりと笑い崩れた。

 その、兄弟の交流にテマリは笑って、自分自身も我愛羅の背中から首に手を回す。

 2人の温かな存在を感じながら、我愛羅は思う。


 いつか守られるだけでなく、彼らを守れるほどの人間になりたい、と。


 力だけで言うなれば自分は優れているが、その心は未だ未熟で、力の使い方も、
今のままでは人を傷つける事しか出来ない。

 けれどもそれでは駄目なのだ。

 彼らの翼が折れてしまった時、自分が修復する事が出来るように、人を守り、
癒せるだけの力を我愛羅は望む。


 だから。

 自分自身も―――翼を手に入れよう。




 彼らの足枷にならぬように。
















 そして…いつか3人で飛び立つ事が出来るように。
















 今はただ笑い続ける。

 翼を手に入れるその瞬間まで―――。













 初めまして。
 今回から参加させていただく事になりました空空汐です。

 ええっと…非常にマイナーですみません。
 砂の3兄弟で、スレテマリ、スレカンクロウに我愛羅です。
 我愛羅が生まれる時、テマリとカンクロウはものすごく楽しみにしていたんだと思うんですよね。
 それを裏切られた2人が、父親である風影と決別するというのは、有り得る事なんじゃないかと思います。


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  空空汐/空空亭