『バイバイ』
―――バイバイ。
小さな子供が足元を通り過ぎながら、猛ダッシュで駆けていく。
まだ真新しい額宛てが吹き飛ばされそうな勢いで走って、辿り着いた母の腕の中、大きく手を振って叫ぶ。
「バイバイ!またね!!」
何とも微笑ましいその光景に、くく、と思わず笑ってしまった。
温かくて、幸せそうで。
そう思える自分が、幸せだと思えた。
「なに笑ってるんだよ。きもちわりぃ」
「ああ。シカマルか」
多分、こいつに会ってから、そう思えるようになったのだと思う。
昔の自分なら、無邪気な子供に苛々した。
忍がそんなにへらへらするな、と激怒した。
幼かった頃の自分に与えられなかったものが欲しくて、けれどもそれが認められずにわめいた。
受け入れることを知らない、怖がりな私。
く、と笑ったテマリに、シカマルは不思議そうに首を傾げた。
「行くか」
「ああ」
至極当たり前のように手を差し出すシカマルが愛しくて、目を、細めた。
ああ。私は今幸せだ。
怖がりで、臆病で…そんな、昔の私。
「―――バイバイ」