『未来予想図』
暑い暑い暑い。
「暑い、な」
筆を休めて呟いた言葉は、ひどく広い空間に寂しく落ちた。
何だかな、と呟いて、幾つかの服を脱ぎ捨てた。
この暑い時期にもかかわらず、何枚も何枚も重ねて着ていたのだから暑いのも当たり前だ。
身軽な忍装束になって、風を纏った。
やってられない。
ふわりと舞った風が、机の上に山と積まれた書類をほんの少しだけ動かした。
涼やかな風に、テマリは身を起こした。
砂の大地では数少ない大樹の上で木漏れ日を浴びる。
「いい天気だ」
くすくすと、風と戯れるようにして、木の葉が出す音楽を楽しんだ。
こんなにも気持ちがいいのは久しぶりだ。
「いい天気だ、じゃねーよ」
唐突に聞こえてきた声に、テマリは一瞬だけ眼を見開き、次の瞬間には穏やかに微笑んだ。
その声の主はテマリもよく知っている人物だったからだ。
「どうした?仕事はいいのか?」
「ばーか。これが仕事だよ」
「…ああ、そういえば木の葉から使者が来ると言っていたな」
さも、つい今思い出した、という風体のテマリに大きく大きく息をつく。
こっちは大分探してようやく見つけ出したと言うのに本人がこの様子では、ため息も出るだろう。
「お前が部屋にいなかったんで、探しまわってしまったじゃねーか。我愛羅とカンクロウ、そんでバキさんも焦ってたぞ?」
「そうか」
「…そうか。ってお前なー」
しかめっ面をちらりと見て、テマリはフン、と笑った。
「うるさいな。それで、何の用だ。ご意見番」
「…ああ。これをやりに」
そう言って、手の平に握っていたものをテマリに見せる。
テマリは手の平をまじまじと見て、ついで相手を見上げた。
「………本気か?」
「本気も本気」
呆然と、テマリは立ちすくむ。
「嘘は、ないな」
「勿論」
きっぱりと告げたその顔は、テマリが初めて見るのでは、と思うほどに真剣で。
わずかに視線を逸らしたテマリの瞳を黒曜石の輝きが捕まえた。
「風影様。受け取ってもらえますか?」
「………風影に、なんだろ」
首を振って、力なく笑うテマリに、言い直した。
木の葉から風影に、ではない。
自分からテマリに、だ。
「…テマリ、貰ってくれ」
真剣な声音に、テマリはびくりと震えた。
「………奈良、シカマル」
「…ああ」
「…木の葉を抜ける事になるよ?」
「ああ」
「…砂の忍になって…また、木の葉と戦うかもしれないよ」
条約は永遠ではない。
そんなつもりはテマリにはないが、木の葉を今だに敵視する声も少なくはない。
「…ああ」
揺らぐことのないシカマルの視線に、テマリが瞳を伏せた。
巻き込んでしまう。自分の人生に、この、男を。それはなんて残酷で、女としてはどこまでも幸福な。
本当に、幸せな…ただのエゴ。
けれども、ここまでの覚悟を持ってして自分を求めてくれる、この男が心より愛しい。
「本当に、いいんだな?」
「ああ」
「………ありがとう」
テマリの、小さな言葉に、シカマルが嬉しそうに破願した。
分の悪い賭けのようなものだった。彼女は確かに自分を好いていてくれるだろうけど、自分と彼女が共にあることの厳しさについて誰よりもよく知っている。
だから、彼女はもしかしたら違う道を選ぶのかもしれない。そう、思った。
けれど。
「テマリ、指、出して」
長く伸びた白い指を捕まえて、ずっと手の平に握りこんでいたものをはめ込んだ。
淡い翠の輝きを放つ宝石と、彼女のま白い指先は、よく似合った。
満足げに目を細めるシカマルにテマリは微笑む。
自然、距離は重なり、影は一つになった。
2人に振る光は、どこまでも優しかった。
暑い中、風影は暑い衣装を纏って仕事をする。
「暑い、な」
筆を休めて呟いた言葉は、ひどく広い空間に寂しく落ちた。
だが―――。
「脱がしてやろーか?」
くく、っと笑った黒髪が1つ。
書類をさばく手を休めることのないその人影に、バーカ、と風影は呟いた。
翠の輝きが、風影の指先を彩っていた。
2005年12月03日
原作超無視してテマリ風影設定uu
テマシカに萌える貴方へ30のお題より「未来予想図」。
どっちかっていうとシカテマだけどuu
こんな未来だったらもうウハウハ(笑)