『偽りの姿』
(つまんない)
小さく舌打ちをして、うつむいた。
つまらない。つまらない。つまらない。
「今日は手裏剣術の練習だ。全員持ってきてるなー?」
「はーい」
なんてお子様な遊戯。
馬鹿じゃないの?
人に教えて貰わなければそんなことも出来ないの?
あーあ。どうして外れるかなぁ?でもまぁあれだけ腰が引けてちゃ仕方がない?
ほんっと情けない。恥ずかしくないの?
あらあら、届いてもいないじゃない。
くだらない。
いい加減にして。
どうして私がこんなことしなければならないの?
苛々と、腕を振り上げた時、キン、と空気が張り詰めた。
多分、その場にいた誰もが気付いていない。
非常に優れた忍でなければ気付かない程度の極微量な殺気。
それは、確実にヒナタに向けられている。
あー。はいはい。分かってますよ。
振り上げた両手から弱弱しく手裏剣を放った。
馬鹿みたいに腰を引いて、おどおどと、力なく。
勿論、真っ直ぐ飛ぶわけもない。
へろへろ、っと力なく飛んだ手裏剣は、的に届くことすらなく地面に刺さる。
「ヒナタさん。駄目よ、それじゃあ」
もう。いいから放っといてよおせっかい。
内心うんざりとしながら、ヒナタは指導を受ける。
言っておきますけど、貴方の指導、間違えてますよ?先生。
ほんの少し、先程より飛ぶように加減して、投げる。
勿論少しの変化に驚いたように目を見開くのは忘れない。
「ほら。少し良くなったわ」
褒められて、少し、うつむき加減に笑う。
くだらない。くだらない。
「あ、ありがとうございます…!」
いい迷惑です。
「頑張ってね、期待しているわ」
なんせ、日向宗家の長子ですからね。
ああ。今日もようやく終わりそうだ。
くるりと回って血飛沫を飛ばさせる。
相手の気配を読んで、膝を折る。直後通り抜けた刀を術で凍らせ、目の前の足をすくう。ころりと転がった霧の里の忍を踏みつける。
同時に、地が牙を向き、忍を飲み込み始めた。
印を組んで、ポォンと、光の玉を放り投げる。
高々と飛んだ光の玉は、花火のように綺麗に爆発する。
爆発した光の筋は、過たずに忍を貫いていく。
さて次は、と意識を集中させたところで、既に生者が自分しか存在しないことに気付いた。
「もう終わり?」
思わず口に出して、面を外す。
現れる、黒色の瞳。長く伸びた黒髪は闇夜に舞う。
水遁の術を使って、頭から水を流した。
チャクラを練りこんだ特殊な水は、身体中に浴びた返り血を落していく。
「ああ。終わりかい?」
聞こえた声は、無視する。
ああ。気持ちがいい。
閉じた瞳を開けると、目の前に暗部服。
見上げれば、見慣れた青年の顔。
「授業中に殺気飛ばすなんて、今時の教師は随分と物騒なんですね」
はっ!と鼻で笑って、皮肉気な笑みを作る。
青年、アカデミー教師うみのイルカは、普段浮かべている穏やかな微笑などどこにも存在しないとでも言うように、冷たく、感情のそぎ落とした顔で見下ろしている。
「君が憂さ晴らしに本気で投げるかと思って」
「まさか。しませんよ、そんな事」
するつもりだったけど。
「それで、私はいつまであんなところに通わされるわけですか?」
「言ったはずだよ。九尾の狐の保護をしてもらう、と」
「聞きましたよ。けれども保護するだけなら完全に闇に潜めばいいだけのことだ」
「それじゃあお前の正体がばれるだろ」
「関係ない」
「あるんだよ。俺が、お前を使えなくなる」
「清々する」
「そんなに死にたいか?いや、俺に殺しをさせたいのか?」
お前を、そしてお前につながりのある者を。
「どうだっていい。けれど、そのときには私も殺してやる」
うみのイルカが愛する全てを。
九尾と火影と、アカデミーの子供。
全部全部ぶち壊してやる。
「それは絶対に出来ない」
「何故」
「俺がその前にお前を殺すから。分かっているだろう?その呪印が飾りではないことを」
パチン、とイルカが指を鳴らせば、ヒナタの指先から肩口まで、びっしりと赤い呪印が現れる。
「それがある限り、お前は俺に殺される。忘れるな、生かされているのだということを」
憎悪の篭った目で冷たく睨み付けるヒナタに、イルカは笑った。
悔しいけれど、この身体に刻まれた呪印は、一瞬にして自分の生を奪うだろう。
絶対に許さない。
自分の自由を奪ったこの人間を。
殺してやる。いつか、絶対に。
「冗談よ」
ヒナタの言葉と共に、彼女が周囲に撒き散らしていた殺気が霧散した。
全ての気配は消えて、目の前にいるにもかかわらず、その存在はほとんど感じない。
その様子を見て、くっ、とイルカは笑った。
軽く指を鳴らせば、あっという間に消えていく赤き文様。
「任務は果たしてもらう。必ずな」
くすくすと、耳障りな笑い声を残してイルカは霧状へと姿を消していく。
すぐさま霧は霧散し、イルカの気配は消えうせる。
その、場所、に。
ザックリと、深くクナイが突き刺さった。
苛立ちを抑えきれずに、純粋なチャクラの塊として全身から放出する。
「殺してやる。絶対」
震える声を落して、彼女のチャクラがたなびいた。
「もう少し上を狙ったほうがいいわ、ヒナタさん」
「はいっ…!」
それまでは。
この。
慈悲深く頑張り屋の落ちこぼれという
―――偽りの姿で―――
2005年9月
スレヒナお題第1弾 『偽りの姿』
………あれ?イルカ先生が黒い…?
何も考えないで書いたのですが、いつの間にやら凄い人になってました。
でも久しぶりにスレらしいスレかなーとか思ってみたりuu
続きは今のとこないです。
あまり深く考えないでくださいね?私も考えてませんから(笑)