金色の髪を持つ人だった。
 青い瞳を持つ人だった。
 化け物と呼ばれる人だった。
 
 名を、うずまきナルトと言うのだと、後に、知った。









『憧れの人』











 面白そうだから、15歳くらいに変化して、近づいてみた。
 人だかり。
 人だかりの真ん中は、金色の髪の子供。
 5歳くらいの、ちょうど同じ年くらいの子供。

「……あの子が、あの」
「………なんで、こんなところに」
「…なんで火影様も…」
「……け物のくせに」

 さざなみのような声。
 最後の声だけが、印象に残った。

 けもの。ばけもの。

 大人の間をすり抜けて、押しのけて、覗き込む。
 小さな子供が必死になって荷物を運んでる。
 明らかに子供の背丈には似合わない、沢山の衣服や、食べ物が入っているであろう買い物袋。恐らくは、家に帰る手間を惜しんで一気に買い込んだのだろう。
 それを取り囲むようにして、大人はただ見ている。
 何もしないで、ただ、見ている。
 子供がよろよろと足を踏み出せば、そんな小さな一歩を恐れるようにして大人たちは後ずさる。
 じわり、じわり、子供は必死で荷物を運ぶ。

 気が付けば、周りにいた大人たちはずっと後ろにいて、輪の真ん中に自分はいた。目の前には、小さな小さな、けれど同じ年くらいの子供。
 
 しゃがみこむ。
 金色の髪の向こうに、泣きそうになりながらも必死に前をにらみつける青い目があった。

「何をそんなに買い込んだの?」

 聞いてみる。
 まん丸に広がる、青い瞳。
 落ち着きなく辺りを見回して、話しかけられたのは本当に自分なのかと、信じられないと言った顔で、子供は小さく口を開く。

「ぁ……。ご、ご飯とか、花の種、とか、服、とか…」
「ふぅん」

 立ち上がる。
 あっ、と小さな声が聞こえた。
 大きな買い物袋を取り上げる。
 子供が持つにしてはにしては結構な重量。

「家、どこ」
「え…?」
「あんたの家」

 ぽかんとした顔に見返される。やがて、青い瞳がきらきらと輝いて、金色の髪の子供は、大きく頭を縦に振った。

「あっちっ!! お、俺も持つ」

 比較的軽い買い物袋を投げつけるようにして渡すと、子供はすぐさま、軽い足取りで走り出す。
 大人の群れに突っ込みそうになる直前、その人垣が綺麗に割れた。
 その場所を抜ける。

「何のつもりだ…」
「…なに、あの子」
「知らないの…?」

 ざわざわ、ざわざわ。
 滑稽な音楽が後ろで響いていた。




「あんたさ、ああいうのムカつかない? 殴りたいとか、黙らせたいとか、殺したいとか、思わないわけ?」

 子供の後ろを追いかけながら、思ったことを、ふと聞いてみる。
 驚いたようにくるりとこちらを向く頭。

「姉ちゃん…綺麗な顔してる割に怖いのな…」
「そう? でも私は嫌いなの。しつこいのも、煩いのも、面倒なのも、醜いのも」

 だから死ねばいい。
 黙らせればいい。
 それが出来るだけの力が、自分に備わっている事は3歳で知った。
 そのとき初めて人を殺したから。

「…姉ちゃんって、もしかしてすっげーーー悪人?」
「悪人。いいえ。化け物よ」

 "化け物"というキーワードに、びくりと反応する子供。恐る恐る顔を上げる。

「だからあんたは化け物なんかじゃない」

 なんでそんなことを口走ったのか、分からない。
 けれど、まん丸に開いた青い瞳は、不思議と心地良くて。すこし、笑う。

「そんなの…そんなの当たり前だって…! 俺は…俺は俺だってば! …化け物なんかじゃない!!」
「そう」
「だから、だから、俺はぜってーーー忍になるんだ! 強くなって、俺を認めさせるんだ! 火影みたいになるんだ!!」

 ぎらぎらと輝く瞳は、青白い炎のよう。
 この子供を支えているのは、その想いなのだと、気付いた。
 その想いがあるからこそ、子供は何も言い返さない。ただ、自分の行動によってのみ、全てを変えようとしているのだ。

 それは、理解できない感覚だった。
 煩いものは黙らせればいい。しつこいヤツは殺せばいい。
 化け物と呼びたいなら幾らでも呼べばいい。生き残るためならば、幾らでも化け物になってやる。

 一族の都合で殺されるのも、命令されるのも、真っ平ごめんだ。
 自分のしたいように生きてやる。

 そう思っていた。今もそう思っている。
 この子供はまるで正反対。

 都合の悪いものを消すのではなく、全てを受け入れて、変えようとしている。

「……あんた、凄いね」
「へ?」
「うん。凄い」

 ちょっとだけ、あこがれる。その強さ。
 自分の行動を直す事も、自分の考え方をやめることも、そのどちらもあり得ない。
 都合の悪いものを全て消してここまで来た。それが自分の行動理由になった。それが自分が自分であるために必要だった。
 けれど、子供の考えることは全く違う事で、それはひどく困難な事で、少し、応援したくなる。

「頑張れ。未来の火影様」

 子供の頭を撫でて、笑う。
 たまには外に出るのも悪くない。こうして面白いモノを見つけた。あこがれという感情を知った。
 人を殺しながら、きっと思い出すだろう。この少年の言葉を。
 2007年11月3日
 お題の3。
 スレヒナ、ナルトと出会う。
 ナルトは二度とスレヒナには会いませんが、成長していく過程でヒナタの中に"昔会った、優しいけど怖いねーちゃん"を重ねる。でも性格も口調も全然違うから悩む。そんな感じ。
 
 他のスレヒナ10題と同じ設定でもいけるかな…?