『貴方と私』









 暗闇は、好きだった。
 自分の嫌いな物を見ることがないから。
 自分の嫌いな物を見られる事がないから。

 自分だけのために作られた漆黒の刄は、手の平にしっくりと馴染み、柔軟にチャクラを受けとめる。
 軽く振れば、ひゅ、と空気を切って、確かな重量が身体を更に動かした。
 いつ扱っても最高の使い心地。

「ヒナタ」

 自分の名前に振り替えれば、見上げるほどの男がこちらを見ていた。
 闇そのものを具現させたような男。
 自分の婚約者。

「なぁに?イタチ」
「…どうだ」
「もうとっくに終わっているよ。処理も終わった。必要な情報は書類に後でまとめるから」
「…そうか。よくやった」

 大きな手のひらがにゅうっと伸びて、ヒナタの頭を撫ぜた。この闇を体現させたような男の人は、それ以外の接し方をヒナタに持っていない。
 それがヒナタとしては不満だった。
 写輪眼を開放しているイタチはヒナタの非常に嫌そうな表情に気づいて、小さく首をかしげた。

「…どうした」
「…きらい」

 不満げな表情であっさりと言い放たれた言葉に、イタチは少なからず動揺し、目を見開く。この5歳年下の少女の世話役になって、初めてといえるほどの衝撃だ。
 あれ、とイタチは自分に問いかける。

 ―――何故、動揺する?

 動揺なんて、する必要ないじゃないか。
 イタチは幼くして異常な力を発現したヒナタの世話役であり、共に居ておかしくもない婚約者。
 求められている関係は、互いが互いに背を向けた瞬間に、その背を切れる関係。
 今上からの命令でヒナタを殺せと言われれば、何の躊躇いもなく殺すだろう。少しぐらい、惜しむかも知れないが。
 ヒナタもまたあっさりとイタチを手にかける筈。それだけの関係しか築いてはいないのだから。

「その目、止めて」

 その瞳は、暗闇の中のヒナタを見つけてしまう。
 ヒナタの好きな空間をぶち壊しにしてしまう。

「私の前でその眼にならないで」
「…なんで」
「その眼は嫌い。写輪眼は嫌い。白眼は嫌い」

 そのヒナタの言葉に、イタチは彼女がその血継限界を発動させたことがないことに気づいた。
 ため息混じりに己の目を普段のものに戻すと、ヒナタはひどく嬉しそうに笑った。

「貴方の目は黒がいい。奈落の底を覗いた真っ暗闇。吸い込まれたら絶対出て来れないような深い深い穴」

 不意にヒナタが手を伸ばし、イタチの頬を挟み込む。
 覗きこんだ瞳は深淵の闇。
 覗きこんだ瞳は静謐な白。

「その目が好き」

 にこりと微笑んだ顔が不意に大人びて、頬の半分もなかったはずの小さな手のひらが急に大きくなって。

 愛おしそうに。
 慈しむように。

 貴方の瞳が好き。そうもう一度囁いて。

 その深淵を覗き込み、包み込み、唇を落とした。
 2007年9月2日
 振り回されすぎイタチ兄さん。
 そんな兄さんが好き(笑)
 他のイタヒナお題との関係性は全くありません。
 そして内容があまりお題に沿ってません(泣)