『共闘』






 その人間が誰か、ヒナタは知っていた。
 気づかない筈がない。わからない筈がない。
 暗部の中でもっとも有名な忍。
 鮮やかな桃色の髪を、尚も鮮やかに染め上げる忍。

 鮮血の主。
 返り血の魔人。
 桃色の狂人。
 木の葉の鮮血。

 彼女を示す通り名は幾つもあった。
 ヒナタの知らない通り名も知っている通り名も、無限とあった。
 それだけ彼女は知られていて。
 けれど、知られていなかった。


 だから、興味を持つ。
 だから、面白いと思う。

 彼女は孤独に戦う。
 彼女は一人で戦う。
 彼女は仲間を作らない。
 彼女はチームを組まない。
 彼女は味方を信用しない。
 彼女は命を惜しむ。
 彼女は返り血を好む。
 彼女は自らの噂に頓着しない。
 彼女は力を厭わない。

 それは何故?


 笑う。
 笑う。
 笑う。

 ヒナタは笑う。
 面白いと思うから。

 ヒナタは一人で戦わない。
 ヒナタは仲間を作る。
 ヒナタはチームで戦う。
 ヒナタは味方を信用する。
 ヒナタは命を惜しまない。
 ヒナタは血を好まない。
 ヒナタは目立つのを好まない。
 ヒナタは力を厭う。

 ヒナタの行動原理は、面倒だからだ。
 一人で戦うのは面倒。仲間を作って、与えられた役割を適当にこなすのが楽。味方を信用はするが信頼はしない。
 命は奪うのも奪われるのもどうでもいい。けれど血は嫌い。汚れるし血の臭いがつくし、誤魔化すのも洗うのも面倒。
 目立つのは嫌い。だから力半分で暗部にいる。目立てば目立つほど敵は増えるし面倒な任務は多くなる。
 力を持つのは嫌い。持ってしまったものは仕方ないけど、そのせいで面倒なことが多かった。せめて演技のときくらいは力のない子供がいい。

 彼女はヒナタと正反対。
 だから面白い。
 だから興味がある。


「笑う暇があったらそろそろ手伝って欲しいんだけど」

 深い深い吐息とともに吐き出された言葉に、ほんの少しヒナタは驚いた。自分のことがばれていたことに対してではなくて、彼女が自分に手伝うように言ったこと。
 戦乱のど真ん中で、ひょっこりと隠れていた場所から姿を現して、桃色の戦女神に笑いかける。

「いいのかい? 鮮血の女神様は人と組むのが嫌いだろう?」

 それが例え圧倒的に不利な状況で、心底危険な状況でも。プライドの高いお姫様は、けっして人の手を取らない。ここ最近ずっと観察していたヒナタはそれを知っている。

「これだけ付き纏われても我慢してたのよ? 少しくらいあんたも戦いなさいよ。木の葉暗部としてね」
「別にそんなに目立つように付き纏ってたわけじゃない。暗部の誰よりも自信はある。情報収集も尾行も気配消すのも」
「あんた笑ってる時ばっかり気配出すんだもの。腹が立つったら」
「そう?」

 笑う。
 ヒナタは笑う。
 戦乱のど真ん中で、迫りくる刃を避けながら。雨のように降り注ぐ術を交わしながら。返り血好きの暗部の降らす血の雨を防ぎながら。
 笑っているときに気配を消しきれなくなるなんて初めて知った。
 笑うことなんて、なかったから。
 彼女に興味を持って、彼女のことを調べ始めるまで笑おうなんて思わなかったから。

「暗部の下っ端な私は、プライドの高いお姫様の役には立てないと思うよ」
「それだけ実力見せ付けておいて寝ぼけてんじゃないわよ。あんたが暗部の下っ端なら、今更暗部は火影レベルがごろごろしてるわ。それに、いい加減付き纏われるのもうんざり。影からこそこそ付き纏われるくらいなら、堂々と最初から横にいた方がよっぽどマシ」

 ヒナタは首を傾げて、考える。
 これはパートナーのお誘いと取ってもいいのだろうか?

 目立つのは嫌いだし、力を見せるのは嫌いだし。
 けれど、このプライドのバカ高いお姫様から誘われているのだし。
 彼女の初めてのパートナー、初めての共闘者だと思えば、それはそれで楽しい気がする。

 だからヒナタは笑って。

「うん。じゃあ共闘しよう。サクラ」

 その言葉には鮮血のお姫様が目をひん剥いた。
 ああ言っちゃった。ぺろりと舌を出して、ヒナタは変化をとく。
 どうせ今から殺す人間達に見られたって全然構わない。
 ヒナタの暗部時の姿は黒髪黒目の特に特徴もない男の姿。女の暗部は増えてきたとはいえ、まだまだ目立つから。火影様も何にも言わないから、別に性別なんて違っても構わないだろう。性別どころかほとんど全部偽っているわけだし。

 血をたっぷりと吸った桃色の長い髪が、主の気持ちを表すようにくったりと落ちて、綺麗だなぁなんて思って笑った。
 桃色のお姫様を狙った忍をクナイでけん制して、幾つか影分身を作った。それを散開させ、一番遠くにいる忍から狙う。一瞬で張り巡らした糸にチャクラを通し、何人かを巻き添えにして切断した。返り血を浴びないうちに次の目標へと移る。

「ひ、ヒナタぁ!?!?!?」
「うん。よろしくねサクラ」

 やっぱり気づいていなかったんだ、と笑いながら、ヒナタは鮮血のお姫様に優雅な一礼をして見せた。
 ヒナタはサクラのことにすぐ気がついたけど、それは彼女が非常に有名で分かりやすかったということもあったし、珍しく興味を持った所為もあったし、そもそもヒナタの白眼に見透かせないものなんてほとんどないのだし、最初からサクラの正体なんてバレバレだ。
 大体、年齢や性格、実力以外はほとんど変わってないのだから気づくのも当たり前な気がする。

 一方ヒナタは暗部の中でもかなり下の方の実力で、ぎりぎり暗部にいますよという力を見せていたし、髪の色こそ変えてはいなくても、瞳の色も体つきも年齢も容姿も変えている。これで気づいたならそれはそれで凄い。

 笑うヒナタとは対局の、わけが分からないという顔のサクラは、わけが分からないままに敵と戦って、返り血を浴びて、それはそれは素晴らしい鮮血の主っぷりを見せてくれた。

 初めての共闘はとても面白かったけど、サクラはとてもとても疲れていたので、それはそれで珍しくて面白いと思った。
 だからヒナタは笑った。

 2007年10月6日
 スレヒナコンビお題。
 久しぶりに何か降りてきたっぽい。
 急に出だしができてあっという間に最後まで書けた。万歳。
 非常に楽しかったです。