『はたして彼らは』






 その日、彼と彼は和解した。



「はい?」

 サスケは、思わず聞き返した。縄でがんじがらめに巻かれて、首から上しか身動きの出来ない状況で、思いっきり首を傾げる。

「うん…だからな、濡れ衣をきせられそうになったんだ」
「いや、それはもう分かった。なんで最後にあんなこと言ったかを聞いている」
「あ、のな…だって…サスケ、悲しいだろ?皆が殺されたら」
「当たり前だ」
「だから、絶望して、死んじゃったりしたら、嫌だな、って思って」
「…それで」
「だったら、俺のこと恨めば、死なないで居てくれるかなーーって」
「…だから、愚かなる弟よ?」
「恨んだだろ?俺のこと」
「………」

 ええ、もう人生の全てを捧げるほどには恨みましたともさ。

「と、いうことなんだ。悪いなうちは。イタチは素直じゃないんだ」
「…はぁ」

  他国の、赤の他人である女。しかもサスケをこうやって縛り付けて、強制的にイタチと話し合いという場につかせた女に言われて、釈然としないまま頷いた。

「テマリ…」
「こう見えて、イタチは凄いブラコンだ。口をひらけばお前のことばっかりだ」
「て、テマリ!それはっっ」
「なんだイタチ?本当のことだろ」
「いや、そ、そうだけど…」

 目の前で始められたやりとりに、あっけにとられた。
 己の兄はこんなにも感情豊かで、こんな無性に小動物を思わせる可愛らしい表情をしただろうか?
 思わず頭を撫ぜたくなるような無駄な可愛らしさに、頭を振って抵抗する。どのみち動く事など出来ないのだが、それとはまた別問題だ。
 本人気付いてはいないだろう。そうしているサスケも十分に可愛らしく、無駄に可愛らしい事を。

「………可愛いな」

 思わずテマリは呟いて、サスケの尖った髪の毛をもみくちゃにする。
 彼女は心の中で叫ぶような人間でもないし、思ったことは即実行の人間だ。

「なっ!!!何を!!!!」

 動かない身体で必死に身体をよじって抵抗した瞬間、何故だかサスケは身を震わした。
 殺気ではないが、十分すぎる、敵意。
 恐る恐る首を動かして、敵意の元、すなわち己の兄の元へ視線を向ける。

「あ、あの、イタチ…さん?」
「サスケ、いいか?テマリは俺とサソリと家族のもの。すなわち俺のものだ」

 ………………はい?

 真顔で言いきったイタチに、ぽかんとして、サスケは気が遠くなる心地になる。
 何だ。今一体何が起きている。
 コレは夢だ、そう思った。
 否、夢だと思いたかった。
 俺は復讐者。一族を抹殺したイタチを恨み、イタチを殺すために生きている。殺すために殺すために…。
 今、むしろ俺が殺されそうですか?
 自己暗示もむなしく、サスケの頭は非常に現実的だった。
 突っ込み精神というのだろうか?

「…イタチ。何恥ずかしい事言っているんだ」

 テマリは眉を潜めて頭をかく。

「テマリ」
「…なんだ」
「愛してる」

 ブハッ―――。と、サスケは吹きだした。
 テマリは呆れたように首を振って、イタチの頭を撫ぜる。

「分かったから、少し黙って」

 あっさりと言って、テマリはイタチを黙らせた。もしかしたらこんなやり取りは既に日常茶飯事なのかもしれない。
 テマリの顔に動揺の色はないし、イタチの顔もいつものように無表情なのだから。
 呆れきっているサスケの拘束を解いて、テマリは笑う。

「とりあえず、兄弟喧嘩はもう終わり、な」

 それに、イタチもサスケも頷いた。
 無駄な時間はもう終わり。
 サスケは大好きな兄を恨む必要なんてないし、復讐だけのために強くなることもない。
 イタチは大好きな弟を蔑む演技なんてしなくていいし、毎度毎度それらしい言葉を考える必要もない。
 仲のいい兄弟に戻っていいのだ。
 その時になって、ようやくイタチとサスケは真っ直ぐ視線を合わせ、照れくさそうに笑った。

 喧嘩はもうこれでおしまい。

2006年1月3日
とっても珍しいカプを加えて。 こんなうちは家の結末はいかがですか?(笑)