『不機嫌の理由』







 ナルトは大きく息を吸った。


 すってー

 すってー

 すってー


 ………………はいてー。



 いきなり深呼吸を始めたナルト。
 それをヒナタは不思議そうに見ながら首を傾げ、自分も深呼吸してみる。
 そんなヒナタにナルトは気付かない。

「ヒナタっ!」
「えっ?あっ、はい!」
「すっ…!」
「す?」
「す………っ!」
「うん?」
「すっ…きやき食いに行こうぜ!!!」
「え?うん勿論だよ?」

(…ってちーがーうーっっ!!!!なんでこんなベタ極まりない言い訳をしなければならないんだ―――!!!!!!)

 半分泣きそうになりながらも、それでもヒナタが嬉しそうに頷くので、やけくそでナルトも笑う。
 いや、笑うしかない。
 けれども、ヒナタの嬉しそうな笑顔を見ていると、自分も嬉しくなってくるので、結局はナルトも満面の笑みを浮かべるのだ。

 彼女がそこに居る。
 それだけでこんなにも幸せだ。


 鳥が、舞う。


 幸せ、なのだが

「ナルト君…あれ…」
「………ごめん!!!!ヒナタっっ!!!!」
「う、うん。…いいの…ナルト君は忙しいもの…」

 両手を合わせて、ナルトは全身で謝る。
 申し訳なさ過ぎる。
 少女は少し残念そうに、それでも頷く。
 その顔が切なくて、愛しくて、一瞬本気で火影を呪った。




「ああ。そういうわけで機嫌悪いわけね」

 あの後、鳥によって呼び出されたナルトは、火影によって暗部シカマルとのS級任務を受け、こうして走っている。
 むすっとしたまま、暗部面を付けることもなく走るナルトに、シカマルが呆れたように笑った。こっちはこっちで暗部服に身を包んでおきながら、その顔は露わだ。
 とは言え、二人とも20前後の青年に変化しているわけであるが。

「うっせーシカ!今日の獲物は手、出すなよ!?」

 ぎらぎらとした、上忍でも裸足で逃げ出すような殺気を纏いながらナルトは更にスピードを上げた。
 それを笑いながら見送って、一言呟いた。


「ごしゅーしょーさま」


 それは、ナルトに向けたものなのか、それともこれからナルトに殺される山賊等に向けられたものなのか、全く判断は付かないが………。



 ナルトの不機嫌はまだまだ続く事だろう。
2005年6月3日